言の葉の翠

2026-04-10
『あなたがいないと』

生きることが楽しくない。

新しい経験をする機会に恵まれようと
求めていた物や人と出会えたとしても
いずれ手放すわけだし、嬉しくもない。

100年しか生きられないとして
どれだけの時間を夢の中で過ごし
残りの時間を仕事や友情愛情へと
変換をして生きていくのだろうか。

この世を去ってしまえば全てがおさらばで
何も残されてすらいないというのに僕らは。

何故、明日も目覚めて生きていくという
当たり前を胸に抱いてしまうのだろうか。

分からない、分からないけど、きっと明日も
僕とあなたは、どこかで生き続けていくから
出会えたらいいね、なんて言えそうにもない。

出会えなくてもいい、出会わないほうがいい
僕らは生きることを楽しめない者同士だから
出会ってしまえば、それに失望してしまうね。

そういえばつい先日、或る女性が失望して
僕らより先にあの世へと、帰らぬ旅に出た。

縄を用意した、「死にたい」と連呼した
けれど、誰にも救われることはなかった。

失望してしまえば、この世の全てが台無しで
もう存在する意義すら思いつかないと思うの。

半年ほど前、「一緒に旅に出ませんか?」と
匿名の人から連絡が届いたことがあったけど。

今思えば、旅に出ておくべきだった。

その人は逐一、僕に写真を送ってくれていて
最後に、崖から見える水平線を見せてくれた。

「凄く綺麗ですね、僕も行きたかったです」と
その人に返信をしたが、もう返ってこなかった。

ふと、この文章を書いていてその人を思い出し
久しぶりにその人との連絡を見返してみたけど
相も変わらず綺麗な水平線の写真があるだけで
僕のメッセージには既読がついてはいなかった。

生きることが楽しくないから旅に出ようと思う。
今、リュックに替えの下着を詰め込んだところ。

あはは、替えの下着を詰め込むということは
まだ生きていたいと言っているようなものか。

「旅に行かない?一緒に」とあなたへ送った。

僕はリュックを背負うのをやめて床に置き
もう戻ることのない部屋を振り返らず出た。

なんか清々しい気持ちになれて
どこか、体も軽くなったような。

「見て、屋上から見える夕焼けだよ」と返信のない
あなたに送り付けてから、ずっと遠くを眺めていた。

あなたがこの世から消える音がした。
それと付随して、笑い声も聞こえた。

楽しくない、あなたがこの世にいないと。

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