言の葉の翠

2026-03-25
『行方不明者手配』

つい先日、警察署へ行く機会があり
そこで、ふと思ったことを話そうか。

僕は免許証の住所変更をするべく
ただただそこを訪れただけであり
他には何も用事なんてないわけで。

受付をしてもらってから待つ時間
そこらをふらふら見ていたのだが。

人が写ったポスターが目に入り
何が書かれているのか見てみる。

「行方不明者手配」と記されていて
顔写真と着ていた服装などの情報が
淡々と書かれているだけのポスター。

「あなたの帰りを待っています」みたいな
優しい文字も添えられてはいるのだけれど。

そのポスターの右下には凄く小さな文字で
「R7.10まで」と鉛筆で薄く書かれていて。

結局は他人の命なんだな、と思った。

6人の行方不明者手配のポスターが壁に
並べられるように貼られているのを見て
僕は右下に書かれている文字が気になる。

これらは期限が書かれていて
けれど期限切ればかりだった。

未だ、壁に貼られているこれらを見て
いや、この人らは諦めてないんだなと
さっきの考えとは違う考えが浮かんだ。

例えば、僕の家族が行方不明になったとして
警察に行方不明者手配を出してもらうとして。

その期限内に見つからなかったけれど
それでも探し続ける意思があるようで。

少し、見つかる気がする。

「あなたの帰りを待っています」だなんて
きっと行方不明者は見ていないだろうけど
行方不明者の関係者の本音はそれであって。

どこかで見つけて、という思いが
その13文字には詰められている。

あ、受付から僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
受付のほうを見ると、数人が僕を見ていて。

手招きをするように僕を誘う。
招かれるようにそちらへ進み。

住所変更の終わった免許証を
渡してもらって事は済んだが。

まだ、世の中には事の済んでいない
行方不明者が幾数人もいると思うと。

どこか、胸の奥が少しズキズキする。

父親の死で泣けなかった僕が
いなくなった日常を過ごす中
ようやく泣いたあの日のこと。

ふと思い出した。

いつもそこにいた人が或る日を境に
いなくなっても続く日常が冷たくて。

どこかで生きていてほしい、みんな。
関係ないけど、他人ではあるけれど。

壁に貼られているポスターに写る
幼い女の子と目があった気がした。

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