2026-04-17
『付随している彼』
一緒にエンドロールを観なかった人のこと
ふと、映画を観ていて思い出してしまった。
あれは紅葉が綺麗な季節だった。
バイト終わり、私も彼も時間に余裕があって
以前から興味のあった映画を一緒に観に行き。
Lサイズのポップコーンを片手に持った彼は
力持ちのポーズをして私を笑わせようとする。
不覚にも笑ってしまい、彼は満足気に
「俺の席はどこかな」と半券を眺めて
これから数時間座る席を確かめていた。
一緒に来たわけだし、離れて座るのは違うし
付き合ってはないのだけど、隣同士で座った。
数か月後に公開される映画の予告編が
大きなスクリーンで次々と流れていく。
様々な映画があって、興味が湧いていく中
「ポップコーン食べる?食べるよね?」と
彼が執拗にポップコーンを押し付けてくる。
「食べるよ、食べるから持ってて」と突き放し
予告編をただ茫然と眺めながら烏龍茶を飲んだ。
あの、頭がカメラになっている映画泥棒が
アクションをこなす映像が流れて暗くなる。
映画が始まった。
隣を見ると、映像の明かりに照らされて
血色の悪そうな彼が、真剣に眺めている。
ちょっと可笑しくて咳払いのフリをして笑った。
そして烏龍茶を飲み、私も映画を真剣に眺めた。
中盤辺りだったか、私はお手洗いへ行って
また他人の迷惑にならないように席へ戻る。
彼がスマホを弄っていた。
「なに見てたの?」と訊きたかったけど
上演中、話すことは少し憚られてやめた。
ポップコーンが減っていく。
映画も終盤へ差し掛かり、これまでの流れを
回収するかのように色々と気付かされていく。
あの優しさが好意で、でもその優しさをくれた人は
もうこの世にはいなくて、戻れなくて泣いてしまう。
女優さんの演技を観ていて、一体、誰を思って
泣く演技をできているのだろうと思ってしまう。
隣に座っている彼は眠っていて
でも、ポップコーンは空だった。
エンドロールを観ることはなく
私はそそくさと劇場を出てから
彼に「またね」とLINEを送った。
その日がバイトの最終日だった。
彼のことが好きで、告白されることを期待していて
付き合ってもないのに一緒に映画なんか観たりして
でも、彼は隣に私がいるというのに眠ってしまった。
彼が今、どこで何をしているのか、知らない。
あの後、私がいないことに気付いた彼は
何を思っていたのか知らないままだけど。
知らないままでいいね。
知らないままがいいの。
「どこ?」と送られてきた連絡に既読をつけて
それからいっときの時間が経ってしまったけど。
一緒に見た紅葉の色が何色だったかを
まだ覚えていて、未練みたいで嫌だね。
--
『付随している彼』
一緒にエンドロールを観なかった人のこと
ふと、映画を観ていて思い出してしまった。
あれは紅葉が綺麗な季節だった。
バイト終わり、私も彼も時間に余裕があって
以前から興味のあった映画を一緒に観に行き。
Lサイズのポップコーンを片手に持った彼は
力持ちのポーズをして私を笑わせようとする。
不覚にも笑ってしまい、彼は満足気に
「俺の席はどこかな」と半券を眺めて
これから数時間座る席を確かめていた。
一緒に来たわけだし、離れて座るのは違うし
付き合ってはないのだけど、隣同士で座った。
数か月後に公開される映画の予告編が
大きなスクリーンで次々と流れていく。
様々な映画があって、興味が湧いていく中
「ポップコーン食べる?食べるよね?」と
彼が執拗にポップコーンを押し付けてくる。
「食べるよ、食べるから持ってて」と突き放し
予告編をただ茫然と眺めながら烏龍茶を飲んだ。
あの、頭がカメラになっている映画泥棒が
アクションをこなす映像が流れて暗くなる。
映画が始まった。
隣を見ると、映像の明かりに照らされて
血色の悪そうな彼が、真剣に眺めている。
ちょっと可笑しくて咳払いのフリをして笑った。
そして烏龍茶を飲み、私も映画を真剣に眺めた。
中盤辺りだったか、私はお手洗いへ行って
また他人の迷惑にならないように席へ戻る。
彼がスマホを弄っていた。
「なに見てたの?」と訊きたかったけど
上演中、話すことは少し憚られてやめた。
ポップコーンが減っていく。
映画も終盤へ差し掛かり、これまでの流れを
回収するかのように色々と気付かされていく。
あの優しさが好意で、でもその優しさをくれた人は
もうこの世にはいなくて、戻れなくて泣いてしまう。
女優さんの演技を観ていて、一体、誰を思って
泣く演技をできているのだろうと思ってしまう。
隣に座っている彼は眠っていて
でも、ポップコーンは空だった。
エンドロールを観ることはなく
私はそそくさと劇場を出てから
彼に「またね」とLINEを送った。
その日がバイトの最終日だった。
彼のことが好きで、告白されることを期待していて
付き合ってもないのに一緒に映画なんか観たりして
でも、彼は隣に私がいるというのに眠ってしまった。
彼が今、どこで何をしているのか、知らない。
あの後、私がいないことに気付いた彼は
何を思っていたのか知らないままだけど。
知らないままでいいね。
知らないままがいいの。
「どこ?」と送られてきた連絡に既読をつけて
それからいっときの時間が経ってしまったけど。
一緒に見た紅葉の色が何色だったかを
まだ覚えていて、未練みたいで嫌だね。
--



