言の葉の翠

2026-04-18
『酔っ払いの戯言』

「別れよう」と彼女に言われたとき
何も言わずに受け入れた友達がいた。

2年も付き合っていたのにだ。

「どうして受け入れたの?」と友達に訊ねると
「長くなるけどいい?」と僕を気遣ってくれる。

「いいに決まってるじゃないですか」と言って
僕は普段飲むことのないレモンサワーを飲んだ。

「逆にさ、別れようと言われてお前はどうする?」
友達は、質問を質問で返してきて、僕は少し悩み
「待って、と言って受け入れはしないかな、僕は」
同じものを飲んでいる友達の目を見てそう言った。

音を立てながらグラスを置いた友達は
「そういうところだよ、お前はな」と
どこか僕が間違えていたような雰囲気。

「いやいや、2年も付き合っていてそんなにさ」
「すんなり分かったって受け入れられないだろ」

お酒の入った僕らはヒートアップしていく。

「で、なんですんなり受け入れたわけ?」
唐揚げを箸で突っついている友達に問う。

「お前には分からないかもしれないけど」
「好かれていないって、結構辛いんだぞ」

そう言い切った友達は唐揚げを一口かじり
レモンサワーでそれを喉の奥へ流し込んだ。

「好かれていないのに引き留めたところで」
「俺は幸せでも、相手は幸せじゃないだろ」
「だからすんなり受け入れたの、それだけ」

友達の後ろでは大学生が新入生歓迎会をしていて
煩かった居酒屋の中、友達の言葉だけが胸に残る。

「凄いな、相手のことを考えた上での決断か」
「2年なんてきっと関係ないな、お前さんに」

時間をかけた分だけ失いたくないと思う僕にとって
友達のような考えは貴重で、何より愛おしくなった。

「でも、相手のことばかり考えていたら」
「自分の幸せを失っちゃうよ、お前さん」

お手洗いに向かう友達の背中にその言葉を投げかけ
一口では食べきれない大きさの唐揚げを口に含んだ。

咀嚼して嚙み砕いていき
レモンサワーで流し込む。

「自分が幸せでも、相手が幸せじゃなきゃ意味ないよ」
お手洗いから戻ってきた友達はただ、それだけを言う。

「まぁ、別れたことに変わりないし」
「今日はとことん付き合うよ、僕は」

強がっているけれど、きっと心は傷付いていて
誰かに話したくて、僕に連絡をくれたのだろう。

「ありがとう、お前がいて結構救われた」
酔いが回ってきたのか、友達の頬は赤い。

「顔が赤いよ、無理はしないでね」と言ってから
「失恋したわけでもなかろうに」と冗談を言った。

「いやいや、失恋したんですよ~」と酔っ払いが言う。
「結構好きだった、結婚とか考えてたのに」と続ける。

酔っ払いは本音を話し始めた。

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