2026-04-19
『溶けきれないまま』
自分の幸せを他人に委ねてしまうのは
きっと弱さではなく強さだと思うけど。
或る女性が言った。
「自分の幸せくらい自分で見つけなよ」
僕は抵抗をするように言い放ってから
グラスにミルクを注ぎ、一口だけ飲む。
紅茶だったそれはミルクティーになって
砂糖を入れていないそれは甘くなかった。
「あなたは幸せを見つけられる類の人だから」
「そうやって言えるんだと思う、何も考えず」
女性も同じようにミルクを注いでから
砂糖を2つ入れて、マドラーで混ぜて
上品な所作でそれを一口だけ口に含む。
すぐにグラスを唇から離すことはなく
数秒間、止めたまま女性は考えている。
グラスを置いた。
「けど、どうして強さだと思うの?」
「僕は弱さにしか感じないんだけど」
喫茶店の扉が開き、新たなお客さんが入ってくる。
「いらっしゃいませ~」と店員さんが言っている。
それに被せることなく、女性はひと間おいて
「だって、自分の幸せを他人に委ねるなんて」
「途轍もなく愛していないとできないことよ」
少し語気を強めて、僕の目に訴えかけてくる。
あまりの迫力に唾を飲み込み
思わず、「うぉ」と反応した。
「確かに、愛していない人に幸せは望めないね」
「あなたは愛している人に幸せを望んでいるの」
訊くべきではない質問だと分かってはいたけど
訊かないという選択が僕の中に残されていなく。
「あはは、私を弱いって言いたいんでしょ」
女性は俯いて、そして僕を見てそう言った。
「いや、そんな意図はなかった、ごめんね」
「ただ、幸せを望むのかなって思っただけ」
僕は訂正をして、女性に頭を下げて謝った。
グラスに注いだミルクが全体に広がっていて
僕も女性と同じように砂糖を2つだけ入れて
マドラーで粒が無くなるようグルグル混ぜる。
もう、ミルクティーはぬるくなっていて
砂糖が容易に溶けなくなっていて悲しい。
「でも私、あなたのこと好きよ」
唐突にそんなことを言ってきた。
グルグル混ぜていたマドラーを止めて
「どうして?」とまた、女性に訊ねる。
「だって、自分で幸せを見つけられるのって」
「簡単ではないからあなたを手放したくない」
ほぼ、告白だった。
「何言ってんの、離れるつもりはないね」
そう言って、照れた表情をバレたくなく
グラスを口元へ持っていって一口飲んだ。
砂糖がまだ溶けきれてない。
あんなに混ぜたというのに。
ザラザラと口の中に甘さが広がっていく。
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『溶けきれないまま』
自分の幸せを他人に委ねてしまうのは
きっと弱さではなく強さだと思うけど。
或る女性が言った。
「自分の幸せくらい自分で見つけなよ」
僕は抵抗をするように言い放ってから
グラスにミルクを注ぎ、一口だけ飲む。
紅茶だったそれはミルクティーになって
砂糖を入れていないそれは甘くなかった。
「あなたは幸せを見つけられる類の人だから」
「そうやって言えるんだと思う、何も考えず」
女性も同じようにミルクを注いでから
砂糖を2つ入れて、マドラーで混ぜて
上品な所作でそれを一口だけ口に含む。
すぐにグラスを唇から離すことはなく
数秒間、止めたまま女性は考えている。
グラスを置いた。
「けど、どうして強さだと思うの?」
「僕は弱さにしか感じないんだけど」
喫茶店の扉が開き、新たなお客さんが入ってくる。
「いらっしゃいませ~」と店員さんが言っている。
それに被せることなく、女性はひと間おいて
「だって、自分の幸せを他人に委ねるなんて」
「途轍もなく愛していないとできないことよ」
少し語気を強めて、僕の目に訴えかけてくる。
あまりの迫力に唾を飲み込み
思わず、「うぉ」と反応した。
「確かに、愛していない人に幸せは望めないね」
「あなたは愛している人に幸せを望んでいるの」
訊くべきではない質問だと分かってはいたけど
訊かないという選択が僕の中に残されていなく。
「あはは、私を弱いって言いたいんでしょ」
女性は俯いて、そして僕を見てそう言った。
「いや、そんな意図はなかった、ごめんね」
「ただ、幸せを望むのかなって思っただけ」
僕は訂正をして、女性に頭を下げて謝った。
グラスに注いだミルクが全体に広がっていて
僕も女性と同じように砂糖を2つだけ入れて
マドラーで粒が無くなるようグルグル混ぜる。
もう、ミルクティーはぬるくなっていて
砂糖が容易に溶けなくなっていて悲しい。
「でも私、あなたのこと好きよ」
唐突にそんなことを言ってきた。
グルグル混ぜていたマドラーを止めて
「どうして?」とまた、女性に訊ねる。
「だって、自分で幸せを見つけられるのって」
「簡単ではないからあなたを手放したくない」
ほぼ、告白だった。
「何言ってんの、離れるつもりはないね」
そう言って、照れた表情をバレたくなく
グラスを口元へ持っていって一口飲んだ。
砂糖がまだ溶けきれてない。
あんなに混ぜたというのに。
ザラザラと口の中に甘さが広がっていく。
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