2026-04-03
『忘れたい人がいる』
「あの人のことを忘れたいです」と
数日おきに連絡をしてくる人がいる。
僕は返信をしていないのだけど
その人は見ていると知っていて。
「忘れられないです、あの人を」と
今日も日常の一部として連絡が来た。
誰かと話したい気分だった僕は初めて
「忘れなくていいのに」と返信をする。
ついさっきのこと。
その人からはまだ返信が来ていないから
僕は「忘れたい人」について考えている。
「忘れたいってことは忘れたくないのよね」
昔、そんなことを言っている人と出会った。
んー、仲が良いと言えば嘘になってしまうけど
それなりに信頼していて、何より魅力的だった。
その人が話す言葉にはどこか華があって
聞く人を納得させる力を備えているから。
僕は話をするのが楽しくって
色々なことを教えてもらった。
その頃、僕は愛していた人と別れた時期で
「忘れたいです」とその人に相談をしては
「忘れたくないのよね」と慰めてもらった。
今思えば、本当に忘れたくなんてなかったし
ただ意固地になって本音を言えなかっただけ。
すでにその人は見抜いていて
ただ隣に座って慰めてくれた。
いつ頃のことだったか、夏。
人伝てに「その人が死んだ」と聞いた。
まだ30代前半くらいの風貌だったが。
病気を患っていて、入退院を繰り返す日々が続き
日常が耐えられなくなって、自宅から飛び降りた。
マンションの15階に住んでいたその人は
即死だったそうで家族は1人もいなかった。
たくさんのことを学ばせてもらった人が
この世からいなくなってしまったことが
悲しいのに、どこか忘れたくなっていた。
忘れないとその人のことを思い出しては
幾度となく悲しくなる未来が見えている。
やけ酒をしてしまった深夜2時
その人に慰めてもらった公園に
1人で向かって缶ビールを1つ
手向けるようにベンチに置いた。
「俺は酒なんか飲まない、酒に頼りたくねぇ」
たまにそんなことを言ってくる人だったけど。
きっと今だったら飲んでくれる。
ベンチに座った僕は慰めてもらったときと
同じように1人で何もない素振りで泣いた。
「忘れたくないのよね」
そんな言葉が聞こえる。
うん、忘れたくない、その人は僕の人生にとって
忘れるべきではない人になっていて、大切だった。
ピコン、と通知音が部屋に響いた。
過去のことをあまりに思い出した。
「忘れるべきではないってことですか」
さっき返信をした人から連絡が届いた。
「うん、忘れるべきではない人もいるよ」
「忘れたいと思う人は特にね」と返した。
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『忘れたい人がいる』
「あの人のことを忘れたいです」と
数日おきに連絡をしてくる人がいる。
僕は返信をしていないのだけど
その人は見ていると知っていて。
「忘れられないです、あの人を」と
今日も日常の一部として連絡が来た。
誰かと話したい気分だった僕は初めて
「忘れなくていいのに」と返信をする。
ついさっきのこと。
その人からはまだ返信が来ていないから
僕は「忘れたい人」について考えている。
「忘れたいってことは忘れたくないのよね」
昔、そんなことを言っている人と出会った。
んー、仲が良いと言えば嘘になってしまうけど
それなりに信頼していて、何より魅力的だった。
その人が話す言葉にはどこか華があって
聞く人を納得させる力を備えているから。
僕は話をするのが楽しくって
色々なことを教えてもらった。
その頃、僕は愛していた人と別れた時期で
「忘れたいです」とその人に相談をしては
「忘れたくないのよね」と慰めてもらった。
今思えば、本当に忘れたくなんてなかったし
ただ意固地になって本音を言えなかっただけ。
すでにその人は見抜いていて
ただ隣に座って慰めてくれた。
いつ頃のことだったか、夏。
人伝てに「その人が死んだ」と聞いた。
まだ30代前半くらいの風貌だったが。
病気を患っていて、入退院を繰り返す日々が続き
日常が耐えられなくなって、自宅から飛び降りた。
マンションの15階に住んでいたその人は
即死だったそうで家族は1人もいなかった。
たくさんのことを学ばせてもらった人が
この世からいなくなってしまったことが
悲しいのに、どこか忘れたくなっていた。
忘れないとその人のことを思い出しては
幾度となく悲しくなる未来が見えている。
やけ酒をしてしまった深夜2時
その人に慰めてもらった公園に
1人で向かって缶ビールを1つ
手向けるようにベンチに置いた。
「俺は酒なんか飲まない、酒に頼りたくねぇ」
たまにそんなことを言ってくる人だったけど。
きっと今だったら飲んでくれる。
ベンチに座った僕は慰めてもらったときと
同じように1人で何もない素振りで泣いた。
「忘れたくないのよね」
そんな言葉が聞こえる。
うん、忘れたくない、その人は僕の人生にとって
忘れるべきではない人になっていて、大切だった。
ピコン、と通知音が部屋に響いた。
過去のことをあまりに思い出した。
「忘れるべきではないってことですか」
さっき返信をした人から連絡が届いた。
「うん、忘れるべきではない人もいるよ」
「忘れたいと思う人は特にね」と返した。
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