言の葉の翠

2026-02-24
『手紙を書く』

手紙を書くって難しい。

言葉には出来ぬほどの愛を
言葉にしなければならない。

紙が幾つあっても足りないけれど
簡潔に書いたほうが良い気もして。

僕の紡いだ文字を読まれたとき
相手にどうあってほしいという
願いも少しばかり込めたりする。

クスッと笑える箇所を入れて
グスンと泣ける箇所も入れて
最後で心を動かす言葉を書く。

過去に、手紙を貰ったことがあった。

ただの紙切れに過ぎないというのに
温もりがそこには多少含まれていて
その人が愛用する香水の匂いもした。

封筒から出した手紙にはびっしりと
深く込められた思いが書かれていて
読む前から涙が溢れ出して、やばい。

せっかく、貰った手紙だというのに
それを自分の涙で濡らしてしまった。

上から読み進めていくと
冗談めいたことがあって

中盤に進むにあたっては
響く言葉が書かれていて

最後の一言としてこの人は
出会えて良かった、という
言葉を選び書き終えていた。

手紙をお返ししようと思ったけれど
これはあくまでも遺書のことであり
お返しをする相手がこの世にいない。

仏壇で僕のほうを見つめている写真に
「僕もね、出会えて良かった」とだけ
声をかけて線香に火をつけて手向けた。

僕は今、その人との間に産まれた
息子に対して、手紙を書くところ。

つい先日、バイト先に向かっている息子に
信号無視の車が止まることなく突っ込んだ。

即死だと言われた。

愛する人をこの世から2度も
失ってしまう悲しみは大きい。

妻がくれた手紙を久しぶりに読んで
最後の言葉を見て、僕はまた泣いた。

妻にも、息子にも、二度と会えない。
けれど妻と息子は天国で会えている。

初めて手紙を書くことにした。

「お元気ですか」なんて言葉を選んで
「天国は居心地いいですか」と訊ねる。

ハハハ、返事なんて来ないのに。

「出会えて良かったです、2人に」
最後にそんな言葉を書いて終えた。

仏壇に置かれた妻と息子の写真の真下に
その手紙をそっと置いてから鈴を鳴らす。

手を合わせた。

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