言の葉の翠

2026-04-06
『幸せそうなあなた』

あなたの幸せを奪いたくないから
連絡はしないでおくね、じゃあね。

僕はスマホのメモに書き込んで
ポケットに仕舞って歩き出した。

幸せそうだった、僕が一方的に見つけた
あなたは僕の知らない男性と笑っていて
1つのかき氷を分け合って、食べている。

僕が知らない女性のような雰囲気があって
付き合っていた過去が夢なのではないかと
思わせられてしまうほど、面影はなかった。

地元の春祭り、来るべきではなかった。

元々、友達と久しぶりに会うためだけに
わざわざ帰省してきたというのに何故か
あなたを探している自分が心の中にいて。

実家から春祭りが行われる公園までの通りも
3年前、あなたと何度も歩いた道だったから。

思い出すつもりはなくても思い出してしまい
その度、別れる必要はなかったんじゃないか
もう、戻れない選択を悔やんでしまっていて。

あ、あなたと買い食いしていた
コロッケ屋さんが閉店している。

思い出が1つ、無くなる音が聞こえた。

公園で待ち合わせた友達と再会して
射的やらくじ引きやらしている最中
輝かしくて、懐かしい人を見つけた。

あなた。

就職をすることで、遠距離になると分かり
別れに至った幼稚なあの頃の僕らではなく
お互いが社会人となり、少し大人になった。

話しかけようと思った、少し微笑みながら
友達に「ちょ、待って」なんて言いながら
あなたに寄っていくと知らない男性がいて。

1つのかき氷を分け合って食べていて
もう、僕が入る隙間なんて残ってなく。

手に持っていた射的の景品を落としてしまった。
まだ小学生くらいの男の子が拾ってくれたけど。

「あげるよ」と言って、受け取らずに
友達が待っている場所へ戻っていった。

あなたが男性に向ける笑顔を僕は知らない。
付き合っていた頃のあなたはもう、いない。

「先帰るわ、また会えるとき会お」
僕はそう言って、友達とも別れた。

公園から実家までの通りをまた歩く。

時間が経てば街が変わってしまうように
いずれ、人の心も容易に変わってしまう。

あなたの心が僕より先に、変わってしまっただけ。
あなたの幸せを奪いたくないから、連絡はしない。

「ねぇ、もしかしてさ」
後ろから声が聞こえた。

振り返ると、コロッケ屋さんのおばあちゃんが
僕のことを懐かし気に見つめて嬉しそうだった。

「もうコロッケ屋さん、閉店したんですね」
「また食べたかったです、おばあちゃんの」

僕がおばあちゃんにそう言うと
「あの頃、一緒にいた女の子も」
「さっきそんなこと言ってたよ」
目の前のおばあちゃんが言った。

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