言の葉の翠

2026-02-28
『浮気ではない』

あなたと出会ってからというもの
凄く楽しくて1日がすぐに終わる。

出会えていなかった頃は何をして
1日を過ごしていたのかすらもう
思い出そうとしても無理に等しく。

ピコン、と通知音が鳴った。

あなたからの連絡を告げる音をしていて
他の人からの連絡とは少し違う気がする。

「来週から始まる映画があるんだけどさ」
「私、気になってて一緒に観に行こうよ」

その連絡に既読を付ける前に
来週から始まる映画が何かを
こっそりと調べて確認をする。

けれど、あまりにも公開される映画が多く
どれが気になっているのか分からないまま。

「いいね、何の映画が気になってるの」と
僕はあなたの興味を惹く映画を訊ねてみた。

「これ」という言葉と共に
1枚の写真が送られてくる。

ホラー映画だった。

「絶対、怖くて目を開けられなくなるね」
僕は茶化すようにそう返信をしたけれど。

「え、そっちこそ叫ぶんじゃない?」
あなたは僕と似ていて、人を茶化す。

「でもさ、一緒にいたら結局笑ってそう」
思ったことを思ったままに伝えてみると。

「確かに、一緒にいたら楽しいもんね」と
僕の言葉に共感してくれる優しさもあった。

「来週、一緒に行こうか」と誘いを受けて
「嬉しい」という返事でその日は終わった。

「なんか来週が楽しみすぎてさ」
「私、さっき躓いちゃったよ~」

あなたからの連絡で目を覚ました。

躓いている場面を想像するだけで可笑しく
「地面大丈夫かな」とボケを挟んでみるが。

すぐに返信はなく。

ベッドから起き上がった僕は
早々にシャワーを浴びてから
昨晩、洗っていなかった皿を
1つ1つ丁寧に洗っていった。

ピコン、と通知音が鳴る。

「別れよう、私、あなたを好きじゃない」
「他にいい人を見つけてね、さようなら」

彼女からだった。

とっくに冷え切った好意を持ち合わせた2人が
別れに至るのは容易に想像ができる結末だから。

「そうだね、そっちこそいい人がいるといいね」
僕は温もりのない言葉を選んで、彼女に送った。

また、ピコンと通知音が鳴った。

「地面はね、割れちゃってたね」
「っておい、私の心配をしろ~」

あなたからの連絡だと気付くや否や
すぐに既読を付けて僕はたった一言
「大丈夫?会いに行こうか」とだけ
温もりのある言葉を選んで、送った。

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