2026-04-09
『忘れてはないね』
「思い出そうとする時点できっと」
「忘れてはないと思うんです、私」
そう言われた。
「忘れた記憶をどう思い出すか」を
女性に訊ねたけど、予想外の返答で
「確かにそうなのかも」と共感した。
桜の花びらが絨毯を作っている公園
春、ベンチに座って女性の目を見る。
どこか儚げに、砂場で遊んでいる子供を
愛おしそうに見る目から優しさが伝わる。
「例えば、忘れていない記憶って何かある?」
僕の言葉に女性が振り向き、「んー」と一言。
「桜が咲いているじゃないですか、こうして」
「でも、散った桜もまだ綺麗じゃないですか」
「忘れていないと言えば嘘になるかもだけど」
女性は桜を眺めながら言葉を紡いでいく。
「2年前の春、片思いをしていたんです」
「もう、その人とは会えないと思うけど」
女性はそう言ってから、机に置いていた
お茶のキャップを開けて一口だけ飲んだ。
「その片思いの行方は?」
僕はまだ訊き続けている。
「えへへ、もうとっくに泡になって弾けました」
「今は誰のことも好きになれないと思うんです」
笑っているけど、心の中は笑っていないのだと
女性の目を見ていれば分かったけど、触れない。
「でも、辛いですね。毎年、桜が咲くのは」
「春が、あなたの元に彼を連れ戻すなんて」
僕も机に置いていたお茶のキャップを開けて
今言ったことを飲み込むように一気に飲んだ。
「見て、あそこに子供がいるじゃないですか」
女性は砂場にいる子供を指さして僕に伝える。
「愛された、という記憶はきっと」
「忘れることはないと思うんです」
女性の視線は子供の横で微笑んでいる
母親のほうを向いていて、どこか脆い。
「私がどうしてあなたをここに呼び出してまで」
「こんな意味のない話をしていると思いますか」
女性の視線が僕のほうへと向き
真っ直ぐに見つめられてしまう。
懐かしさを感じてしまった僕は
気付くと目から涙を流していた。
視界が滲んでいく。
春になるとどうしても、母親を思い出す。
もう、8年も前に亡くなったというのに。
「忘れないでって言いたいんでしょ」
女性にそう言おうと思ったのだけど。
いない。
砂場で遊んでいた子供が、母親に抱きついた。
僕は空を見上げ、胸いっぱいに空気を吸った。
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『忘れてはないね』
「思い出そうとする時点できっと」
「忘れてはないと思うんです、私」
そう言われた。
「忘れた記憶をどう思い出すか」を
女性に訊ねたけど、予想外の返答で
「確かにそうなのかも」と共感した。
桜の花びらが絨毯を作っている公園
春、ベンチに座って女性の目を見る。
どこか儚げに、砂場で遊んでいる子供を
愛おしそうに見る目から優しさが伝わる。
「例えば、忘れていない記憶って何かある?」
僕の言葉に女性が振り向き、「んー」と一言。
「桜が咲いているじゃないですか、こうして」
「でも、散った桜もまだ綺麗じゃないですか」
「忘れていないと言えば嘘になるかもだけど」
女性は桜を眺めながら言葉を紡いでいく。
「2年前の春、片思いをしていたんです」
「もう、その人とは会えないと思うけど」
女性はそう言ってから、机に置いていた
お茶のキャップを開けて一口だけ飲んだ。
「その片思いの行方は?」
僕はまだ訊き続けている。
「えへへ、もうとっくに泡になって弾けました」
「今は誰のことも好きになれないと思うんです」
笑っているけど、心の中は笑っていないのだと
女性の目を見ていれば分かったけど、触れない。
「でも、辛いですね。毎年、桜が咲くのは」
「春が、あなたの元に彼を連れ戻すなんて」
僕も机に置いていたお茶のキャップを開けて
今言ったことを飲み込むように一気に飲んだ。
「見て、あそこに子供がいるじゃないですか」
女性は砂場にいる子供を指さして僕に伝える。
「愛された、という記憶はきっと」
「忘れることはないと思うんです」
女性の視線は子供の横で微笑んでいる
母親のほうを向いていて、どこか脆い。
「私がどうしてあなたをここに呼び出してまで」
「こんな意味のない話をしていると思いますか」
女性の視線が僕のほうへと向き
真っ直ぐに見つめられてしまう。
懐かしさを感じてしまった僕は
気付くと目から涙を流していた。
視界が滲んでいく。
春になるとどうしても、母親を思い出す。
もう、8年も前に亡くなったというのに。
「忘れないでって言いたいんでしょ」
女性にそう言おうと思ったのだけど。
いない。
砂場で遊んでいた子供が、母親に抱きついた。
僕は空を見上げ、胸いっぱいに空気を吸った。
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