言の葉の翠

2026-03-02
『兎から見た僕ら』

「俺、借金あるんだよね、18万」
「まぁ、コツコツ返していくか~」

そんなこと言ってくるもんだから
気になって「多くね?」と訊いた。

行き慣れた友達の部屋は
いつ行っても変わらない。

ローテーブルに置かれているお酒を飲み
友達は首を縦に振って、「多い」と言う。

「俺さ、貢ぎ癖があったと思うんよね」
「元カノに歳の数プレゼントしてたし」

聞いたこともない話だったから
「なんそれ」と深く訊いてみる。

「もう別れたから関係ないことなんだけどさ」
「元カノに22個のプレゼントを渡したんよ」
「22歳の誕生日だったから喜んでほしくて」

僕はお酒を一口だけ飲んでから
「凄いことをするもんだな」と
友達の大きな好意に驚いていた。

「22個ってことは相当じゃない?」
「そりゃあ、借金もしちゃうかもな」

愛が大きくなりすぎたなら
人は理性を保てないものか。

「うん、確か10万くらいだったかな」
「もう、関係のない話なんだけどね~」

酔いの回ってきた友達は
呂律が回っていないよう。

「残りの借金はお前との旅行のとき」
「別に楽しかったからいいんだけど」

思えば、こいつは出会った頃から
自己犠牲をしてしまう性格だった。

過去に付き合っていた彼女には浮気をされて
いつも笑って僕に話をしてくれていたけれど。

きっと、どこかで泣いている。

「あのときの旅行、まじで楽しかった」
「また行きたいね、無理のない範囲で」

僕はそれを言おうと思ったのだけれど
友達の飼っている兎がゲージを叩いて
僕から友達を引き剝がそうとしている。

「はいはい、どうしたの」と
友達は兎に話しかけに行った。

この兎だって、元カノの影響で
飼うことになったのだけれども。

別れた今でも世話をしている友達を見ていると
少しばかり愛が何なのか分かるような気がする。

「もう、僕たち出会って何年目だっけ」
兎と戯れている友達に向かって言った。

「12年とか経ってるんじゃないか?」
友達は目を合わせずにそう言ってくる。

「僕も撫でていい?その兎のこと」
そう言って近寄って触れるけれど。

兎は僕のことを相当嫌っているのだろうか。
触れるや否や僕から離れて行ってしまった。

「からし、こっちおいで」と兎の名前を言う。

「わさびや、ちゃう、わらびや」と友達が
冗談交じりに兎の名前を訂正してくるから。

不覚にも笑ってしまった。

兎は何のことやらと思いながら
僕らを眺めている目をしている。

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