夢記録(犬)


4月○日、目が覚める。

時計は6を指しており、いつもより2時早く起きたことを示していた。二度寝する気分でもなく、こんなに早く起きたし、普段やらないことをやってみよう、そう思って部屋から出た。

リビングでは母が朝ごはんの準備をしており、「おはようはなこ、今日早いね」と声をかける。父はまだ起きていないようだ。
「そういう日あるわよねぇ、なにか飲む?」
「んー、暖かいミルクティ飲みたい」
「はーい、ちょっとまっててね」
そう言って母はミルクティの準備を始める。

4月の6時って結構空明るいなぁ、なんて思ったら足元からワンッと元気な声がする。
「おはよう、はなちゃん」
4年前にお迎えした、ゴールデンレトリバーのはな。
あんなに小さかったのに、今でもとても元気。生命力が溢れていて、背中はいつもお日様のような匂いがする。

「はなも起きたのね、そろそろお散歩の時間だもんね」
「いつもこんな早く行ってたんだ」

ミルクティを作り終えた母が声をかける。
淹れたてのミルクティはとても暖かく、口にミルクと茶葉のまろやかな香りが広がる。
と、私はそうだ、と閃いた。

「おかーさん、私はなと散歩行って来るよ」
「あら、そうなの?ありがとう、ミルクティのみおえたら教えてね、花の準備するから」
お散歩という言葉に反応したはながしっぽをぶんぶん振りながら私の傍に来る。

「よし、ちょっとまっててね、すぐ準備するから、おかー!!」キッチンから母のはーい、準備ねぇ、という声が聞こえた。

「花との散歩も久しぶりだなぁ」

私は2年前に仕事の都合で実家から出ていた。
少し前に有給消化でまとまった休みを貰ったため、久しく帰ってなかった実家に帰ることにし、昨日のお昼頃に実家に帰ってきた。
そんな私が花と散歩するのは実に2年振りで、あの大きな体についていけるかと少し不安を感じる。体力ないしなぁ、引きずられんように頑張ろう、と気持ちだけ固め、準備を終えて玄関で待っているはなの元へ急ぐ。

「おまたせ、はな。おかーさんもありがとう。」
「いーのよ、気をつけて行ってらっしゃい」
「はーい、いってきまーす」

4月の朝は少し肌寒い、雪も溶けて日も出てるから歩いてるうちに少しは暖かくなるだろうかとのんびり考えている。今日はよく晴れてるなぁと雲越しに降り注ぐ太陽を感じる。
引っ張られるのではと心配していたが、はなは意外と落ち着いて、ゆっくりのんびり、私の歩くペースに合わせてくれている。とても頭のいい子だ。

はなに連れられるまま、さんぽ道のある大きな公園に来た。公園には私と同じくあさんぽしている人や、ランニングしている人がいる。みんなこんなに朝早くから起きてさんぽしてるんだなぁと感心してしまう。

1時間近く歩いただろうか、少し疲れを感じた頃、ベンチを見つける。
ちょうどいい、少し休憩していこう。とベンチに近づき腰をかける。
はなものどがかわいていたのだろう、水を出すとすごい勢いで飲み始める。

木漏れ日が気持ちい、朝早く起きてさんぽするとこんなに気持ちがいいんだ、と心がぼんやりしてきた頃、遠くからよたよたとした歩き方の、薄着のおじいさんを見つける。
まだ4月とはいえ、朝は肌寒い。靴もサンダルのようで、散歩には向いてないように思う。寒くないのかな、と見ていると、突然おじいさんがこちらへむかって歩いてくる。先程のヨタヨタはなく、真っ直ぐ、しっかりした足取りでこちらへむかって来る。

少し不気味に感じ、はなもヴゥッと唸っている。
「花子ぉっっ!!!!、はなこぉ!!!!」
なぜ、私の名前を知っている。鳥肌がたつ、逃げなくては、と体を身構える。
叫びながら近いてくるおじいさんの目はとてもかっぴらいていて、息も荒い。本能的に恐怖を感じる。

「はな、いこう!!」恐怖を感じ、私とはなは走る。後ろからおじいさんの「待て!!!!待てェ!!!!」と必死な叫びがするが恐怖しか感じない。走って走って、走って、、とゼーハーと息を整える。あれだけ走ったのだ、もう追ってこないだろう、後ろを振り返る。

流石に居ない。よかった、と張り詰めていた気持ちが解けていく。走ってごめんねぇとはなをみると、はなはまだ走れます!と言わんばかりに目をきらきらさせていた。さすがはな、とっても元気。その顔を見て、安堵する。先程の男性のせいで散歩を怖がっていたらと考えていたからがどうやら心配はないようだ。

「今日はもう帰ろうか」
今度はのんびり歩いて帰路に着く。

ただいまぁ、と力のない声を出して帰宅する。スマホを見ると8時10分。とても長く歩いてたようだ。「おかえり、おはよう」、とリビングに繋がる扉から父が顔だけ覗かせていた。
「おはようお父さん。」
「早いなぁ、散歩いってたの?」
「そうー、でもすごい疲れたァ......」

なんて会話しながらはなの足をふく。リビングに入ると母がおかえりと声をかけてくれる。

「ただいま、疲れた....」
「んふふ、お疲れ様。どこら辺行ってきたの?」
「でっかいさんぽ道がある公園?そう!聞いてよ」

と先程のことを伝える。
「.....て感じで名前呼んでくるし、目血走ってるし、知らないおじさんだしちょー怖かった」
「走って逃げたのはよかったね、座ったままだったら何されてたかわかんないし」
「朝からそんな人がいるなんてねぇ、少し怖いし明日の散歩コース変えようかしら」
と父と母は言う。そうした方がいい、はなになにか起きるかもしれないし、あんな恐怖体験をもう一度体験するなんてごめんだ。そう思い、パンにかじりつく。

時間は早いもので、私が帰る日になってしまった。
「じゃあ、またね。家着いたら連絡する。」
「うん、気をつけてね、またいつでも帰っておいで」母と別れ新幹線乗り場へ行く。
新幹線に乗る直前、ポコンッと軽い音がする。スマホだ。家にいる父からの写真のようだ。

「はなが、はなこの部屋のベットでふて寝してます。可愛い、また帰っておいで」
とメッセージが届いていた。写真のはなは確かに、私のベットの上でごろんとしている。ふて寝してんのか、可愛いヤツめ、と頬が緩んでしまう。新幹線に乗り込んですぐに家へ帰りたくなる。はなにあいたい、母のご飯もっと食べたかったな、とか父のオヤジギャグはどうにかならんのか、とか。既にホームシックだ。

あとは、あのおじいさん。その後はなのさんぽコースを変えたからか、1度もあっていない。あの日とは何だったのか、考えても分からない。いいことではなかったし、早めに忘れよう、そう考えて座席に深く腰掛け、寝る体勢に入る。はぁ、明日からの仕事嫌だなぁ、気持ちはもう明日のことを考えていた。

帰省を終えて数ヶ月経った頃母から連絡が入る。
「今日、おじいさんに会った。」と
最初おじいさん?となるが、すぐに私が遭遇したおじいさんのことだと思い出す。
「大丈夫だったの?何もされてない?」
「うん、大丈夫。今日はおじいさんともう一人の人だったから」
「あとね、はなこが言ってたおじいさんのこと聞いたの。長くなるし、ちょうどいい時に連絡ちょうだい。」

と、何やらあったらしい。おじいさんともう一人の人?一体誰だろう?疑問は尽きない。今日の仕事はあと少しで終わるし。直ぐに帰宅してはなしをきこう、そう切り替えしごとにとりかかる。

仕事が終わって家に帰る。母に電話する前にある程度済ませておこう、とご飯を済ませお風呂にもはいる。

「あ、おかーさん?遅くなってごめんね、今大丈夫?」
「おかえり、お仕事お疲れ様、とあのおじいさんのことなんだけどね」
と母から話を聞く。


あのおじいさんが、犬を飼っていたこと。
私と合う1ヶ月前に亡くなったこと。
原因は病気だったこと。
病院で預かって1日だけ様子を見ようとなったが、病院を出てその3時間後、急に亡くなったこと。
亡くなるまでそばにいなかった自分をずっと責めていたこと。
亡くなってからずっと、亡くなったわんちゃんが使っていた首輪とリードを持ってあの公園を散歩していたこと。
私とあった日、夢で公園が出てきたこと。
何かあると感じて寝起きでそのまま家を飛び出したこと。
その公園で、亡くなった犬とそっくり、亡くなった犬を生き写したような犬がいたこと。
それがはなだったこと。

亡くなった犬の名前が、「はなこ」だった事

「おじいさん、今は認知症が進んで施設にいるんだって。最近またさんぽコース変えたんだけど、その時におじいさんと付き添いのスタッフさんと出会ってねぇ。最初は何も無かったし、私も通り過ぎたんだけど、すれ違った瞬間に、はなこ!!ってすごい勢いで車椅子から落ちて、はなに触れようとしたのよ、そりゃ最初は怖かったんだけどなんか可哀想でね、スタッフさんにお話を聞いたのよ」
「そう.....だったんだ」

それじゃああの時、必死になって向かってきたのは、私の名前を呼びながら来たのは、はなに亡くなったはなこちゃんを重ねたらかなのだと理解した。

体調が悪くなったはなこちゃんを病院に預け、その後すぐに亡くなった。あのおじいさんは次の日帰ってくると信じていたのに、それが叶わなかった。亡くなったと実感がわかなかった。そして、タイミング良くあの公園に亡くなった犬とそっくりな犬がいたと......
確かに亡くなった犬にそっくりな犬が目の前に現れれば、私もすがりついてしまうかもしれない。言い表すことの出来ない、重たい気持ちが心に広がる。

「でもね、はなこが気に病むこともないのよ、いきなり自分の名前を叫ばれて向かってくるなんて、何も知らないあなたからしたら恐怖以外の何物でもないもの。」
そう母は励ましてくれるが、心は重いままだ。

電話もそこそこにベットに転がる。どうするのが正解だったのか、確かにあの時は怖かったが、でも、それでも...と説明の付かない、もう過ぎたことだ。意味のない葛藤が花子を包む。





「ン"ッッッ…あさ...?」
あの後、考えたまま寝てしまったようだ。カーテンから日が差し込んでいる。時計は6を指しており、あの時を思い出す。

漠然と散歩に出てみよう、と準備をする

外は明るく、太陽が容赦なく肌を焼いていく感じがする。行くあてもなくフラフラと散歩をする。途中、小さな公園があり、そこのベンチで休むことにした。

はぁーっと息を吐いて空を見上げる。雲ひとつない空。気持ちの良い朝のはずなのに、心は重いまま、と足元に何かふわふわしたものが来る。
目線を下に向けると、下には青い首輪をした白いマルチーズがいた。近くに人はいない。飼い主らしき人が来る様子もない。

「君は迷子かい...?私と同じだねぇ」
と意味のない言葉を吐く。このままこの犬を放置しとく訳にも行かない、と考え犬を抱っこして近くの交番へ行く。
歩いて10分程だっただろうか、交番が見えてくる。中が騒がしいようだ。中には女の人と小学生くらいの男の子がいた。

「あの、すみません、多分迷子の犬....」
と、扉を開けた瞬間、男の子の目が見開く。

「まるすけ!!!まるすけ!!!!」
と叫ぶ。女性もびっくりしたようにこちらを見る。
「あの、、その犬、どこで」
「この先の10分くらいある公園で、首輪してるのに飼い主がいる感じもなかったので、まいごかなって....」
どうやらこの白いマルチーズの飼い主らしい。

男の子がゴミを出しの手伝いで玄関を開けた隙間から飛び出してしまったらしい。すぐに追いかけたが見失ってしまったと話を聞く。

ありがとうございます、ありがとうございますと何度も下げられ、犬と男の子と女性は帰っていった。

良かった、帰る場所がしっかりあったんだ、と気持ちが少し和らぐ。

「かえるか」
心はまだ重い。でも少しだけ楽になれた。
空は青い、今日は雲ひとつない快晴だ。







以下、夢を見て感じたことです。
※読まなくて大丈夫です。

人にとって、犬や猫は守るべき存在だと考えます。
特に家族として迎えた子なら尚更そうだろうとおもいます。でも、犬や猫は私たち人間として生きるものよりも早く寿命を終えてしまう。家族として迎えたなら、考えたことがあるかもしれません。長生きしてくれ、ずっと一緒にいてくれ、傍にいてくれ、死なないでくれ、と。だが現実は甘くないですよね。必ずお別れの日が来る。だから、そのお別れの日まで私は私が持てる全てでめいっぱい、後悔のないように愛したいと考えます。捨てられた子も、お迎えした子も。まぁ、私のただのエゴなんですけどね。