消失者たち

第六章:メンテナンス記録

【三島隆の緊急報告】
日時: 2023年11月30日 午前6時
場所: 警視庁本部 捜査第一課

三島は一睡もせず、夜明けとともに警視庁に駆け込んだ。
松岡課長を緊急招集する。
「課長、重大な事態です」
三島は深夜の訪問者について報告する。
松岡課長は信じられないという顔で聞いている。
「……三島君、疲れているんじゃないか?幻覚では……」
「幻覚ではありません!」三島は声を荒げる。
「あの男は、我々の捜査内容を全て知っていました。HGM-7q31変異体のこと、山口二郎のこと……全てです」
「盗聴されているのかもしれない」
「それだけではありません。あの男は、目の前で『消えた』んです。エレベーターにも乗らず、階段も使わず、文字通り消えたんです」

松岡課長は深いため息をつく。
「……わかった。君の報告を信じよう。だが、これを上層部に報告したら、君は精神鑑定を受けさせられるかもしれない」
「構いません。しかし、事実は事実です」
「では、どうする?我々は何と戦っているんだ?」
「わかりません。しかし、一つ確実なのは……」
三島は松岡課長を見つめる。
「犯人は、我々よりも遥かに進んだ技術を持っている。そして、人間とは限らない」

【医療機器メンテナンス記録の徹底調査】
三島は、メディテック社が訪問した347の医療機関に再度問い合わせを行う。
今回の焦点は「メンテナンス作業員の詳細な行動」。


調査結果:
ほとんどの医療機関で、以下の共通した証言が得られた:
1. 作業員は2~3名のチーム
2. 礼儀正しく、専門知識も豊富
3. 作業時間は1~2時間
4. 血液検査機器のデータベースに長時間アクセス
5. 作業員の顔は「思い出せない」「特徴がない」
そして、最も重要な発見:
作業員が「何か」を機器に取り付けていた

証言例
東京都内の総合病院・検査技師の証言:
「メンテナンスの後、機器の動作が少し変わった気がしました。
データの表示速度が若干速くなったというか……でも、動作自体は正常だったので、気にしませんでした。
それと、機器の背面に、見慣れない小さな『箱』のようなものが取り付けられていました。
『これは何ですか?』と聞いたら、『新型のセンサーユニットです。データ精度を上げるためのものです』と説明されて。
専門的な話だったので、『ああ、そうなんだ』と納得してしまいました」

三島はこの証言に注目する。
「新型のセンサーユニット」
これが鍵だ。

三島は、協力的な医療機関に依頼し、その「センサーユニット」を回収する。
数日後、東京都内の病院から小さな黒い箱が警視庁に届けられる。
サイズは約5cm×3cm×2cm。
金属製で、表面には何の刻印もない。



【未知の装置の解析】
科学捜査研究所と防衛省技術研究本部の合同チームが、この装置を解析する。

解析報告書:
報告日: 2023年12月2日
解析者: 防衛省技術研究本部 佐藤一郎、科捜研 田村洋介


外観
* サイズ: 5cm×3cm×2cm
* 重量: 約50グラム
* 素材: 未知の合金(チタン、タングステン、その他未同定元素を含む)
* 表面: 完全に滑らか。製造時の継ぎ目、ネジ等が一切見当たらない

内部構造
X線、CTスキャンで内部を調査。
内部には極めて複雑な電子回路が詰まっている。
回路のパターンは、現代の半導体技術を遥かに超える精密さ。
回路の線幅は推定5ナノメートル以下(現代の最先端は3ナノメートル程度だが、この装置はさらに微細)。

機能推定
装置を作動させることには成功(微弱な電力を供給したところ、起動)。
起動後、装置は以下の動作を示した:
1. 無線通信: 未知の周波数帯で電波を送受信
2. データ収集: 周辺の電子機器からデータを無線で吸い上げる
3. 遠隔操作: 外部からの指令を受信し、動作を変更できる
つまり、この装置は「スパイデバイス」。
医療機器に取り付けられ、血液検査データを盗み、外部に送信していた。

通信先
装置が送信する電波の方向を追跡。
しかし、電波は大気圏外に向かっていることが判明。
おそらく、衛星を経由して、どこかに送信されている。
衛星の特定を試みるも、該当する衛星が見つからない。
「存在しない衛星」に送信しているかのよう。

結論
この装置は、現代の地球上の技術では製造不可能。
少なくとも20~30年先の技術。
または、地球外の技術。

報告者: 佐藤一郎、田村洋介(印)