消失者たち

【メディテック社の足跡】
三島は、メディテック社が訪問した医療機関のリストを再検証する。



訪問記録:
* 2023年5月~11月
* 訪問施設数: 347機関
* 地域: 全国(特に関東、関西、中部に集中)

三島は地図にピンを打つ。
347の医療機関が、日本地図上に点在する。
「これだけの施設を回るには、相当な人員と資金が必要です」渡辺が言う。
「そうです。犯人は、大規模な組織。おそらく数十人から数百人の『工作員』を動員している」
「それだけの組織が、日本国内で活動していて、我々が気づかなかった……」
「いや、気づいていたかもしれません。しかし、『メンテナンス業者』という完璧な偽装があったため、誰も疑わなかった」

三島はメディテック社の「設立日」を確認する。
2022年10月15日。
「約1年前。つまり、犯人は1年以上前から、この計画を準備していた」
「長期的な計画……」山本が呟く。
「そうです。これは思いつきの犯行ではない。綿密に計画され、実行されている」

三島はさらに考える。
「では、なぜ今年の9月から失踪が始まったのか?」
「メンテナンスが一通り終わったから?」岩崎が言う。
「おそらく。6ヶ月かけてデータを収集し、9月から『収穫』を始めた」
「収穫……」渡辺が顔をしかめる。「まるで、人間を『作物』のように……」
「犯人にとって、我々はそういう存在なのかもしれません」

【木下研究官からの電話】
三島のデスクの電話が鳴る。
「三島です」
「三島警部、木下です。重要な発見がありました」
「何ですか?」
「HGM-7q31変異体について、さらに詳しく調べました。すると……」
木下は言葉を選ぶように話す。
「この遺伝子、『人工的』な可能性があります」
「人工的?」
「はい。遺伝子の配列を詳しく見ると、自然進化では考えられないほど『整然』としているんです。



まるで、誰かが『設計』したかのような……」
三島は息を呑む。
「つまり、この遺伝子は……」
「遺伝子工学によって、意図的に組み込まれた可能性があります」
「いつ?誰が?」
「わかりません。しかし、この遺伝子を持つ人々は、日本全国に約100万人いる。
もし本当に人工的なら、大規模な『遺伝子操作プログラム』が過去に実施されていた可能性があります」

三島は頭を抱える。
遺伝子操作。
100万人。
日本政府が?米軍が?それとも……
「木下さん、その仮説は他の誰かに話しましたか?」
「いえ、まだです。証拠が不十分なので……」
「その仮説は、絶対に外部に漏らさないでください。パニックになります」
「わかりました」
「そして、木下さん自身の安全も確保してください。警護の手配は進めています」
「ありがとうございます」

通話を終える。
三島は深く息を吐く。
人工的な遺伝子。
100万人の日本人に組み込まれた、未知の遺伝子。
それは、いつ、なぜ?

三島は考える。
もし、数十年前に大規模な遺伝子操作が行われていたとしたら……
そして、その「作物」が今、「収穫」されているとしたら……
犯人は、遺伝子を組み込んだ者と同じ存在?
いや、もしかしたら……

三島の思考は、ある恐ろしい可能性に行き着く。
もし、HGM-7q31変異体が「タグ」だとしたら?
家畜に押す「焼印」のような、識別用の「印」だとしたら?
そして、今、その「印」を持つ者たちが、回収されているとしたら……

三島は震える手でメモを取る。
仮説: HGM-7q31変異体は「識別タグ」?
目的: 特定の人々を後で回収するため?
実行者: 遺伝子を組み込んだ者=失踪事件の犯人?

【過去の医療記録調査】
三島は厚生労働省に協力を要請し、過去の大規模な医療プログラムを調査する。
特に、「遺伝子に影響を与える可能性のある医療行為」を重点的に。

調査結果:
1950年代~1980年代にかけて、複数の「予防接種プログラム」「健康増進プログラム」が実施されていた。
その中で、特に注目すべきものが一つ。
「国民健康増進特別事業」(1975?1985年)
* 実施主体: 厚生省(当時)
* 内容: 全国の乳幼児に対する「特別ワクチン」の接種
* 対象: 1975?1985年生まれの子供(当時0~10歳)
* 接種率: 約80%
この「特別ワクチン」の詳細な記録は、現在ほとんど残っていない。
当時の厚生省の資料は「保存期限切れで廃棄」されたとのこと。

三島は計算する。
1975~1985年生まれということは、現在38~48歳。
失踪者の年齢分布を見ると……
いや、待て。
失踪者には10代、20代も多い。
この年代は、1975~1985年には生まれていない。

三島は考え直す。
もし、遺伝子操作が「遺伝」するとしたら?
親から子へ、受け継がれる遺伝子。
1975~1985年にワクチンを接種された世代が親となり、その子供たちにも遺伝子が受け継がれた。
そう考えれば、現在10代~40代に広く分布していることも説明がつく。

三島はさらに調査を進める。
「国民健康増進特別事業」の責任者は誰だったのか?
厚生労働省の古い資料を探す。
すると、一つの名前が浮かび上がる。
「山口二郎」
当時の厚生省医務局長。
この事業を主導した人物。



三島は凍りつく。
「山口二郎」
メディテック社の代表「山口次郎」と、名前が酷似している。
偶然か?
いや、偶然ではないだろう。

三島は山口二郎の経歴を調べる。
* 1935年生まれ
* 東京大学医学部卒業
* 1975年、厚生省医務局長に就任
* 1985年、突然辞職
* その後の消息不明
辞職後、山口二郎は公の場から姿を消した。
年金記録もなく、死亡届も出ていない。
まるで、「消えた」かのように。

三島は背筋が寒くなる。
山口二郎。
彼がHGM-7q31変異体を子供たちに組み込んだ。
そして40年後、その「収穫」を始めた。
いや、待て。
1935年生まれなら、現在88歳。
そんな高齢者が、このような大規模な作戦を実行できるのか?

三島は別の可能性を考える。
山口二郎は、誰かの「手駒」だったのではないか?
彼の背後に、真の「黒幕」がいる。
そして、その黒幕が今、40年越しの計画を実行している。