消失者たち

【自衛隊 技術研究本部 緊急分析】
日時: 2023年11月27日
場所: 防衛省 技術研究本部
分析者: 第三研究室 室長 佐藤一郎(工学博士)

警察から提供された資料を分析。
防犯カメラ映像、電磁波データ、同位体分析結果等。

佐藤博士の分析メモ:
このノイズ、電磁波パターン……見覚えがある。
いや、正確には「似たものを見たことがある」。
10年前、米国の軍事研究施設で見た極秘資料。
「量子テレポーテーション」の実験データ。
当時は「理論上可能だが、実用化は不可能」とされていた。
しかし、もし誰かが実用化に成功していたら……?
量子もつれを利用した物質転送。
SF ではない。理論的には可能。
ただし、必要なエネルギーは膨大。
そして、転送できるのは素粒子レベルのはず。
人間を丸ごと転送するなど……
いや、待て。
もし、「人間の情報」だけを転送し、別の場所で「再構成」するとしたら?
つまり、元の人間は「分解」され、転送先で「再構築」される。
そう考えれば、理論的には……
しかし、そのためには、人間の全情報(約10の28乗ビット)を瞬時にスキャン、転送、再構築する必要がある。



現代の技術では不可能。
だが、もし可能だとしたら……
それは、人類史上最大の技術革新。
そして、最も危険な技術。

佐藤博士の報告書:
本件で観測された現象は、「量子テレポーテーション技術」の応用である可能性がある。
ただし、現代科学の水準を遥かに超える。
少なくとも50年先の技術。
結論: 犯人は、我々の知らない「未来の技術」を保有している


【三島隆の苦悩】
日時: 2023年11月28日 深夜

三島は自宅に戻っていた。
3日ぶりの帰宅。
シャワーを浴び、ベッドに横になる。
しかし、眠れない。
頭の中で、全ての情報が渦巻く。
76名の失踪者。 未知の遺伝子。 未来の技術。 そして、犯人の正体。

三島は起き上がり、リビングに向かう。
テレビをつける。
深夜のニュース。
「……今日も各地で行方不明者が相次いでおり、警察は……」
ニュースキャスターは何も知らない。
国民も何も知らない。
76名が「消えた」ことを。
そして、次は誰なのかを。

三島の携帯電話が鳴る。
画面を見る。
「木下誠」国立医療科学研究所の研究官。
「もしもし」
「三島警部、大変です」木下の声は震えている。
「どうしたんですか?」
「私……私も、HGM-7q31変異体を持っているんです」
三島は息を呑む。
「……何ですって?」
「研究のついでに、自分の血液も調べたんです。そしたら……陽性でした」
「……」
「私、狙われるんでしょうか?」
三島は答えられない。
「木下さん、今すぐ警察に保護を要請してください。24時間の警護をつけます」
「でも、他の人たちも、警護されていたわけじゃないですよね?それでも消えた」
「……」
「密室から消えるんですよね?部屋の中でも、エレベーターの中でも。
だったら、どこにいても同じじゃないですか?」
木下の声が泣きそうになっている。
「木下さん、落ち着いてください。我々は全力であなたを守ります」
「……ありがとうございます。でも、怖いんです」
通話を終える。
三島は携帯電話を握りしめる。
木下研究官。
彼もターゲット。
では、他にも……

三島はふと思いつく。
自分自身は?
自分も血液検査を受けたことがある。
もし、自分もHGM-7q31変異体を持っていたら……?
いや、考えるのはやめよう。
今は、目の前の事件に集中しなければ。

しかし、三島の脳裏に、一つの疑問が浮かぶ。
もし、自分が消えたら……
誰がこの事件を解決するのか?