2 過ぎ行く先の行方
<ep-4>
頼んだ宅配ピザを、燈は二切れ食べただけで満足してしまったらしい。
四種類の味、すべて一切れずつくらいは食べると思ったのに……どうやら燈は俺が思っている以上に食が細いようだ。
そんなんだから歳の割に小さいんだろうか……などとぼんやり思う。
立って並ぶと燈の頭は俺の肩より少し低いくらい。俺の身長が百八十センチくらいだから、多分燈の身長は百六十センチもないだろう。
高一男子で百六十センチ以下は一般的指標と照らし合わせるとやや物足りない。
残ったピザは数切れ。俺一人で残り全部食べるのは難しくなかったけれど、まぁ小腹が空いた時に誰かが手軽に食べれるものがあると便利だし。
キッチンからラップを取れば、零司さん…っ、と燈の声。
「なんだ?」
「ぼ、僕も、お手伝いし、ます……」
「あー……じゃあ、ラップ切るから、それで包んでくれ」
何となく……。偏見ではあるがラップを切るところから任せたら、燈はそこで苦戦するような気がしたから、テーブルに広げたラップにピザを置いて包んでもらう役目を任せる。
そして案の定。四隅を中心に寄せて畳んで包めば良いだけなのに、何故かぐちゃぐちゃな包み方をされたピザ数切れ。
まぁ……そこに突っ込みはしないけど。
「これ……冷凍庫入れとくから、もし腹減った時は電子レンジで勝手にあっためて食え」
「はぃ……ぁ、あの、零司さん……?」
「ん?」
「僕、他にお手伝い出来ること、ありませんか……?」
手伝い、か……と俺は思わず腕を組む。
基本的に日常生活の家事は父さんとの分担が上手く回っているからすぐにこれというものが思い浮かばない。
「あの……手際良く出来るかは……保証出来ない、んですけ、ど……」
置いてもらってるのに、何もしないのも何だかダメな気がして……と。
語尾が小さくなっていく燈に、成程何もしてない方が居心地が悪い……といったところだろうかと一人合点。
「んー……なら、洗濯。明日纏めて洗濯機回すつもりだったから、洗濯機の使い方教えるついでに明日お前に頼むわ」
掃除、洗濯、料理……と大きく分類した時、一番失敗が少なそうなのが洗濯な気がする、
「洗濯……分かりました。あと、僕……料理は、出来ないですけど……お皿洗いとかは、出来るので……」
「ん。じゃあ、飯作るのは俺か父さんで、後片付けは燈にも一緒にやってもらう……それで良いか?」
「はい……!」
俺が割り振った家事分担に大きく頷く燈がどこか嬉しそうに見えたのは気の所為だろうか。
こうして、洗濯と食後の後片付けは本格的に燈の担当へと定着していった。
それと、もうひとつ。俺はスーパーへの買い出しにも燈を連れ立つようになった。
発端は父さんの「散歩ついでに燈も連れてってやれ」という声掛けだったが、初めて一緒にスーパーへ行った時の燈の様子が余りにも世間慣れしていなさすぎたからだ。
高校一年に該当する年齢ならスーパーもコンビニもとっくに馴染みがあるだろうに、スーパーに踏み込んだ途端、燈は迷路にでも迷い込んだ幼児みたいに俺を見失うまいと必死な顔で後を着いてきていた。
少しずつ言葉数は増えているものの、燈は自分の欲を出さない。否、出し方を知らないだけなのか……この辺りはまだ謎が多い。
燈とスーパーに買い出しに行く日、俺は必ず燈に食べたいものを最低ひとつは云わせることにした。
父さんは当分燈をウチに居候させるつもりでいるらしい。
それならば、燈の食が進む飯を作る日があっても良いのでは……と云うのは建前で、単に俺が献立を考えるのが面倒なだけ。
「何でも、良いです……」
と燈得意の言葉は禁止して、食べたいものが思い付かないのなら家の本棚の端に何冊か並べてあるレシピ本を見て選ぶように義務付けた。
頬を引っ掻く風がじゃれる猫の爪痕みたいに残るようになったある日のこと。
その日、燈が食べたいと挙げてきたのは肉じゃがだった。
肉じゃがを作る為に必要な食材は他の料理にも流用しやすいから悪くないチョイスだ。
他にも適当な食材を買い物カゴに放り込んでいると、一瞬だけ斜め後ろで燈の足が止まった気がした。
首だけで振り返った時にはもう燈は俺のすぐ後ろにいたけれど。その二歩後方に視線を遣ったら、プリンやらゼリーが並んでいるチルドケース。
買い物カゴの中身の合計金額を大雑把に割り出してから、燈、と軽い声音で名前を呼ぶ。
「なんですか? 零司さん……?」
「お前、プリン好きか?」
「え……ぁ、えと、きらい、じゃなぃ……ですけど……」
燈の「嫌いじゃない」には二種類ある。
瞬きが増える時は好き寄り。
伏し目がちになる時は余り好きじゃない寄り。
今の燈は何かを誤魔化すかのように忙しない瞬きを繰り返している。
「なら、あれ。ほら、お買い得の値札が付いてるプチッてするプリンの三個パック、取って来い」
あれ、父さん好きなんだよと唇の片端を僅かに上げれば燈はまた何度か瞬いてから小さく頷き、チルドケースから俺が指定したプリンを手に取り買い物カゴにそっと入れた。
嘘は云っていない。事実、三個パックのプリンを買った時にふたつを胃の中に収めるのは俺よりも父さんなことの方が多いのだから。
その後会計を済ませて袋詰め。みっつになった買い物袋のひとつを燈に持たせて家路を辿る。
「……あのプリン、プチッてする時……なんだか、うれしくなります、よね……」
細い声で呟いた燈に、そういうもんなのか、と笑う。
「俺、あれ何だかんだあんまり皿に出して食ったことないな」
いつもカップのまま食うタイプだわ、と肩を揺らしてから、俺はじゃあと続ける。
「じゃあ、あのプリンは俺と父さんの分もお前がプチッてする係だな」
頼んだぞプリン係、ともう一度肩を揺すったら、燈はやたら神妙な顔付きをしながらこくんと頭を上下に動かした。
<ep-4>
頼んだ宅配ピザを、燈は二切れ食べただけで満足してしまったらしい。
四種類の味、すべて一切れずつくらいは食べると思ったのに……どうやら燈は俺が思っている以上に食が細いようだ。
そんなんだから歳の割に小さいんだろうか……などとぼんやり思う。
立って並ぶと燈の頭は俺の肩より少し低いくらい。俺の身長が百八十センチくらいだから、多分燈の身長は百六十センチもないだろう。
高一男子で百六十センチ以下は一般的指標と照らし合わせるとやや物足りない。
残ったピザは数切れ。俺一人で残り全部食べるのは難しくなかったけれど、まぁ小腹が空いた時に誰かが手軽に食べれるものがあると便利だし。
キッチンからラップを取れば、零司さん…っ、と燈の声。
「なんだ?」
「ぼ、僕も、お手伝いし、ます……」
「あー……じゃあ、ラップ切るから、それで包んでくれ」
何となく……。偏見ではあるがラップを切るところから任せたら、燈はそこで苦戦するような気がしたから、テーブルに広げたラップにピザを置いて包んでもらう役目を任せる。
そして案の定。四隅を中心に寄せて畳んで包めば良いだけなのに、何故かぐちゃぐちゃな包み方をされたピザ数切れ。
まぁ……そこに突っ込みはしないけど。
「これ……冷凍庫入れとくから、もし腹減った時は電子レンジで勝手にあっためて食え」
「はぃ……ぁ、あの、零司さん……?」
「ん?」
「僕、他にお手伝い出来ること、ありませんか……?」
手伝い、か……と俺は思わず腕を組む。
基本的に日常生活の家事は父さんとの分担が上手く回っているからすぐにこれというものが思い浮かばない。
「あの……手際良く出来るかは……保証出来ない、んですけ、ど……」
置いてもらってるのに、何もしないのも何だかダメな気がして……と。
語尾が小さくなっていく燈に、成程何もしてない方が居心地が悪い……といったところだろうかと一人合点。
「んー……なら、洗濯。明日纏めて洗濯機回すつもりだったから、洗濯機の使い方教えるついでに明日お前に頼むわ」
掃除、洗濯、料理……と大きく分類した時、一番失敗が少なそうなのが洗濯な気がする、
「洗濯……分かりました。あと、僕……料理は、出来ないですけど……お皿洗いとかは、出来るので……」
「ん。じゃあ、飯作るのは俺か父さんで、後片付けは燈にも一緒にやってもらう……それで良いか?」
「はい……!」
俺が割り振った家事分担に大きく頷く燈がどこか嬉しそうに見えたのは気の所為だろうか。
こうして、洗濯と食後の後片付けは本格的に燈の担当へと定着していった。
それと、もうひとつ。俺はスーパーへの買い出しにも燈を連れ立つようになった。
発端は父さんの「散歩ついでに燈も連れてってやれ」という声掛けだったが、初めて一緒にスーパーへ行った時の燈の様子が余りにも世間慣れしていなさすぎたからだ。
高校一年に該当する年齢ならスーパーもコンビニもとっくに馴染みがあるだろうに、スーパーに踏み込んだ途端、燈は迷路にでも迷い込んだ幼児みたいに俺を見失うまいと必死な顔で後を着いてきていた。
少しずつ言葉数は増えているものの、燈は自分の欲を出さない。否、出し方を知らないだけなのか……この辺りはまだ謎が多い。
燈とスーパーに買い出しに行く日、俺は必ず燈に食べたいものを最低ひとつは云わせることにした。
父さんは当分燈をウチに居候させるつもりでいるらしい。
それならば、燈の食が進む飯を作る日があっても良いのでは……と云うのは建前で、単に俺が献立を考えるのが面倒なだけ。
「何でも、良いです……」
と燈得意の言葉は禁止して、食べたいものが思い付かないのなら家の本棚の端に何冊か並べてあるレシピ本を見て選ぶように義務付けた。
頬を引っ掻く風がじゃれる猫の爪痕みたいに残るようになったある日のこと。
その日、燈が食べたいと挙げてきたのは肉じゃがだった。
肉じゃがを作る為に必要な食材は他の料理にも流用しやすいから悪くないチョイスだ。
他にも適当な食材を買い物カゴに放り込んでいると、一瞬だけ斜め後ろで燈の足が止まった気がした。
首だけで振り返った時にはもう燈は俺のすぐ後ろにいたけれど。その二歩後方に視線を遣ったら、プリンやらゼリーが並んでいるチルドケース。
買い物カゴの中身の合計金額を大雑把に割り出してから、燈、と軽い声音で名前を呼ぶ。
「なんですか? 零司さん……?」
「お前、プリン好きか?」
「え……ぁ、えと、きらい、じゃなぃ……ですけど……」
燈の「嫌いじゃない」には二種類ある。
瞬きが増える時は好き寄り。
伏し目がちになる時は余り好きじゃない寄り。
今の燈は何かを誤魔化すかのように忙しない瞬きを繰り返している。
「なら、あれ。ほら、お買い得の値札が付いてるプチッてするプリンの三個パック、取って来い」
あれ、父さん好きなんだよと唇の片端を僅かに上げれば燈はまた何度か瞬いてから小さく頷き、チルドケースから俺が指定したプリンを手に取り買い物カゴにそっと入れた。
嘘は云っていない。事実、三個パックのプリンを買った時にふたつを胃の中に収めるのは俺よりも父さんなことの方が多いのだから。
その後会計を済ませて袋詰め。みっつになった買い物袋のひとつを燈に持たせて家路を辿る。
「……あのプリン、プチッてする時……なんだか、うれしくなります、よね……」
細い声で呟いた燈に、そういうもんなのか、と笑う。
「俺、あれ何だかんだあんまり皿に出して食ったことないな」
いつもカップのまま食うタイプだわ、と肩を揺らしてから、俺はじゃあと続ける。
「じゃあ、あのプリンは俺と父さんの分もお前がプチッてする係だな」
頼んだぞプリン係、ともう一度肩を揺すったら、燈はやたら神妙な顔付きをしながらこくんと頭を上下に動かした。



