【二〇××/〇五/二十×】
順風満帆に高校生活を楽しんでいたある日、ゴールデンウィークも終わり、梅雨の湿った空気と夏の気配が近づいてきた頃。ハルはほぼ毎日サッカー部の練習だそうで、結構遅くまで帰れないらしく、俺は専らミナトくんと帰ることが多くなっていた。
「そういや、最近アンドウとはどうなん?」
「へ?あぁ、明日も一緒に図書館行くよ、市立図書館の方。」
「ほほう、何とか上手くいってんだね」
「なんか、恋愛みたいな風に言うのやめてくんない?」
「あいつ、顔だけはいっちょ前に良いからなぁ。」
事実、軽音部が休みだったゴールデンウィークは特に予定もなかったから、アンドウ先輩の校外活動の手伝いをひたすらしていた。
【二〇××/〇五/××】
世間はゴールデンウィーク。小旅行に出かけたり、デートしたり、友達と遊んだりするのがスタンダードなはずだが俺は市立図書館へ通い詰めていた。最初は少し嫌だった、図書館特有の紙と埃が混ざったような匂いも、数日間も通い詰めていたら慣れてきた。
アンドウ先輩と二人で図書館へ来た初日の話。
「で、わざわざ市立図書館で何を調べるんすか?」
「今日は、地域で発行されている地域新聞のバックナンバーを探しに来たんだ。」
「なんで?」
「ああいう、怪談じみた伝承が生まれるのって、大体が何かの事件事故がきかっけだったりするからね。」
「えー…………俺生まれも育ちもここっすけど、そんな話聞いたことないっすよ。」
そんな俺のボヤキがアンドウ先輩の耳に届いたかどうか分からないまま、アンドウ先輩は図書館の二階へと足を進めた。
一階には一般的な文庫本や単行本、絵本が並ぶ。二階へ上がると図鑑や専門的な本、そしてアンドウ先輩ご所望の地域新聞のバックナンバーが見れるようになっている。
「なるほど、なかなか…………」
「多分ここっすね、バックナンバー。一番古いのが…………これっすかね」
「おおよそ四十年前…か、毎日一枚、発行。思ったより多いな。」
「これ、貸出不可なんで、ここで読んでいくしかないっすね。」
「なるほど、貸出不可とは、盲点だった。ヤマナシ君、ゴールデンウィークの予定はあるかい?」
「特にないっす。」
「ふむ、では、ゴールデンウィークも毎日ここはやっているみたいだから、通いつめようか。」
「は?!」
それで、俺とアンドウ先輩はゴールデンウィークに毎日顔を合わせることになったのである。毎日毎日、地域新聞とにらめっこしつつ、互いの身の上話もしてくなかで、お互いの共通点も見えてきた。
「え、アンドウ先輩も祖父母と暮らしているんですか?」
「も、ってことはヤマナシ君もかい?」
「そうっす。物事ついたころから両親いなくて、祖父母に育てられたんすよ。祖父母からは、両親ともに俺を産んですぐ、交通事故で亡くなって聞いてて。俺を引き取った時にはすでに還暦を超えてて、もうすぐ、七十歳も後半に差し掛かるのに、俺を実の息子かのように時に優しく、時に厳しくここまで育ててくれたんすよ。」
「そうだったんだね。すまないね、つらい話を。」
「いいんすよ、今や俺、月見里神社の一人息子って言われんの、嬉しいんすよ、なんか、両親を早々に亡くした可哀そうなお孫さんじゃなくなってきて…照れくさいっすけど。」
照れくさそうにする俺を見るアンドウ先輩の瞳と微笑みはとても優しさに満ちていた。似たような境遇だからなのか、慈悲なのか、そこまでは分からないけれど。
「なんだか、ヤマナシ君にだけ話させてしまったし、僕も話さないと、公平性に欠けるよね。」
「話すのつらくないっすか?」
「ああ、別に大丈夫だよ。」
そうして、アンドウ先輩自身の身の上話が始まった。
「僕、出身が東京でさ、今は隣の市の祖父母宅で暮らしているんだけど、小さい時から霊感があって。僕が友達だと思って喋っていたのが、戦争孤児の幽霊だったり。」
「だいぶ霊感強いっすね」
「でしょ、で、母親がそれが嫌だったみたいで。なんとかしようと新興宗教みたいなところにすごいお金使っちゃって。まずそれで離婚、で、その後、母親がおかしくなって、母親、閉鎖病棟にぶち込まれた。で、僕は母方の実家であるこっちに来たんだよね。中学上がる前に。」
「…………すみません、俺より全然重いっすね」
「気にしないでおくれ、まぁ、閉鎖病棟に行く前の母親には確実に何かに取り憑かれていたからね。」
いつか、悪霊や心霊現象で何かの危機に晒されている人を助けたいんだ。と決意を語るアンドウ先輩の横顔に並々ならぬ信念を感じ、心のどこかで何か力になれたら…………と少し思った。
「さて、調査を続けよう。」
「うす。」
結果として、ゴールデンウィーク中に全てのバックナンバーに目を通すことはできなかった。
「多すぎ…………。」
「これは…………想定外だね…………途中で両面だと気づいた絶望たるや…………」
そうして、ゴールデンウィークが終わっても、タイミングが合えば図書館へ足を運んでいるのである。
【二〇××/〇五/二十×】
ゴールデンウィークの思い出話を駅前のファストフード店でハルの部活動が終わるのを待ちながら、ミナトくんに話していた。
フライドポテトをつまみ、コーラを飲みながら、ミナトくんはひらすら俺の話を聞いていてくれていた。
「ふーん、そんな感じなんだ、アンドウって。」
「うん、案外関わりやすいかもって。」
「ヒロ、チョロいな。」
「なっ…………」
「図書館通いつめんのもいいけど、そろそろ期末の時期だからな。」
五月も末に近づいているということはそういうことである、地獄のテスト週間の訪れ。幸い、勉強にはついていけてるから、提出物さえ忘れなければそうそう評価を落とすことはないだろう。
「とはいえ、ハル遅いな。」
「ホントだ、もうとっくのとうに最終下校時間過ぎてる。連絡する?」
心配して連絡しようとスマートフォンをカバンから出したタイミングで店の入店音がなった。入口を見るとハルが俺らを探してキョロキョロしていた。
「ハル!こっちこっち!」
「あ…兄貴!ヒロもいる!」
「いえーい、今日は俺もいるよ。」
「遅くなってごめんね」
「いいんだよ、部活お疲れ」
「…あ、うん!ありがとう」
一瞬ハルの横顔に陰りを感じた、でも、すぐいつもの笑顔に戻ったもんだから、気のせいだと思ったけど、その陰りは俺の心に少しの靄を残した。
順風満帆に高校生活を楽しんでいたある日、ゴールデンウィークも終わり、梅雨の湿った空気と夏の気配が近づいてきた頃。ハルはほぼ毎日サッカー部の練習だそうで、結構遅くまで帰れないらしく、俺は専らミナトくんと帰ることが多くなっていた。
「そういや、最近アンドウとはどうなん?」
「へ?あぁ、明日も一緒に図書館行くよ、市立図書館の方。」
「ほほう、何とか上手くいってんだね」
「なんか、恋愛みたいな風に言うのやめてくんない?」
「あいつ、顔だけはいっちょ前に良いからなぁ。」
事実、軽音部が休みだったゴールデンウィークは特に予定もなかったから、アンドウ先輩の校外活動の手伝いをひたすらしていた。
【二〇××/〇五/××】
世間はゴールデンウィーク。小旅行に出かけたり、デートしたり、友達と遊んだりするのがスタンダードなはずだが俺は市立図書館へ通い詰めていた。最初は少し嫌だった、図書館特有の紙と埃が混ざったような匂いも、数日間も通い詰めていたら慣れてきた。
アンドウ先輩と二人で図書館へ来た初日の話。
「で、わざわざ市立図書館で何を調べるんすか?」
「今日は、地域で発行されている地域新聞のバックナンバーを探しに来たんだ。」
「なんで?」
「ああいう、怪談じみた伝承が生まれるのって、大体が何かの事件事故がきかっけだったりするからね。」
「えー…………俺生まれも育ちもここっすけど、そんな話聞いたことないっすよ。」
そんな俺のボヤキがアンドウ先輩の耳に届いたかどうか分からないまま、アンドウ先輩は図書館の二階へと足を進めた。
一階には一般的な文庫本や単行本、絵本が並ぶ。二階へ上がると図鑑や専門的な本、そしてアンドウ先輩ご所望の地域新聞のバックナンバーが見れるようになっている。
「なるほど、なかなか…………」
「多分ここっすね、バックナンバー。一番古いのが…………これっすかね」
「おおよそ四十年前…か、毎日一枚、発行。思ったより多いな。」
「これ、貸出不可なんで、ここで読んでいくしかないっすね。」
「なるほど、貸出不可とは、盲点だった。ヤマナシ君、ゴールデンウィークの予定はあるかい?」
「特にないっす。」
「ふむ、では、ゴールデンウィークも毎日ここはやっているみたいだから、通いつめようか。」
「は?!」
それで、俺とアンドウ先輩はゴールデンウィークに毎日顔を合わせることになったのである。毎日毎日、地域新聞とにらめっこしつつ、互いの身の上話もしてくなかで、お互いの共通点も見えてきた。
「え、アンドウ先輩も祖父母と暮らしているんですか?」
「も、ってことはヤマナシ君もかい?」
「そうっす。物事ついたころから両親いなくて、祖父母に育てられたんすよ。祖父母からは、両親ともに俺を産んですぐ、交通事故で亡くなって聞いてて。俺を引き取った時にはすでに還暦を超えてて、もうすぐ、七十歳も後半に差し掛かるのに、俺を実の息子かのように時に優しく、時に厳しくここまで育ててくれたんすよ。」
「そうだったんだね。すまないね、つらい話を。」
「いいんすよ、今や俺、月見里神社の一人息子って言われんの、嬉しいんすよ、なんか、両親を早々に亡くした可哀そうなお孫さんじゃなくなってきて…照れくさいっすけど。」
照れくさそうにする俺を見るアンドウ先輩の瞳と微笑みはとても優しさに満ちていた。似たような境遇だからなのか、慈悲なのか、そこまでは分からないけれど。
「なんだか、ヤマナシ君にだけ話させてしまったし、僕も話さないと、公平性に欠けるよね。」
「話すのつらくないっすか?」
「ああ、別に大丈夫だよ。」
そうして、アンドウ先輩自身の身の上話が始まった。
「僕、出身が東京でさ、今は隣の市の祖父母宅で暮らしているんだけど、小さい時から霊感があって。僕が友達だと思って喋っていたのが、戦争孤児の幽霊だったり。」
「だいぶ霊感強いっすね」
「でしょ、で、母親がそれが嫌だったみたいで。なんとかしようと新興宗教みたいなところにすごいお金使っちゃって。まずそれで離婚、で、その後、母親がおかしくなって、母親、閉鎖病棟にぶち込まれた。で、僕は母方の実家であるこっちに来たんだよね。中学上がる前に。」
「…………すみません、俺より全然重いっすね」
「気にしないでおくれ、まぁ、閉鎖病棟に行く前の母親には確実に何かに取り憑かれていたからね。」
いつか、悪霊や心霊現象で何かの危機に晒されている人を助けたいんだ。と決意を語るアンドウ先輩の横顔に並々ならぬ信念を感じ、心のどこかで何か力になれたら…………と少し思った。
「さて、調査を続けよう。」
「うす。」
結果として、ゴールデンウィーク中に全てのバックナンバーに目を通すことはできなかった。
「多すぎ…………。」
「これは…………想定外だね…………途中で両面だと気づいた絶望たるや…………」
そうして、ゴールデンウィークが終わっても、タイミングが合えば図書館へ足を運んでいるのである。
【二〇××/〇五/二十×】
ゴールデンウィークの思い出話を駅前のファストフード店でハルの部活動が終わるのを待ちながら、ミナトくんに話していた。
フライドポテトをつまみ、コーラを飲みながら、ミナトくんはひらすら俺の話を聞いていてくれていた。
「ふーん、そんな感じなんだ、アンドウって。」
「うん、案外関わりやすいかもって。」
「ヒロ、チョロいな。」
「なっ…………」
「図書館通いつめんのもいいけど、そろそろ期末の時期だからな。」
五月も末に近づいているということはそういうことである、地獄のテスト週間の訪れ。幸い、勉強にはついていけてるから、提出物さえ忘れなければそうそう評価を落とすことはないだろう。
「とはいえ、ハル遅いな。」
「ホントだ、もうとっくのとうに最終下校時間過ぎてる。連絡する?」
心配して連絡しようとスマートフォンをカバンから出したタイミングで店の入店音がなった。入口を見るとハルが俺らを探してキョロキョロしていた。
「ハル!こっちこっち!」
「あ…兄貴!ヒロもいる!」
「いえーい、今日は俺もいるよ。」
「遅くなってごめんね」
「いいんだよ、部活お疲れ」
「…あ、うん!ありがとう」
一瞬ハルの横顔に陰りを感じた、でも、すぐいつもの笑顔に戻ったもんだから、気のせいだと思ったけど、その陰りは俺の心に少しの靄を残した。
