未来は、ほんとうに綺麗な子でした。容姿は勿論のこと、心もです。家族から疎外されている私のことをバイト初日から気にかけてくれたんです。
だからこそ、私は彼女を守りたかった。母からは家族内で知り得たことを決して他言するな、など幾つかのルールを設けられていましたが私はタイミングをみて全てを打ち明け、未来には店を辞めてもらうつもりでいました。ですが、それよりも前に事態は想像もしない方向へと動きました。両親が出演した動画が炎上し、人々の目が一気に向けられることになったのです。母は最初どこ吹く風という感じでお店を営業していましたが、次第におかしくなっていきました。いつも日が暮れると三人は店を出ていくのですが、その少し前からおかしなやり取りをするようになりました。あれは、言語なのか。それすらも分かりません。とにかく聞いたこともない言葉で父と母と悠斗は話すようになりました。
私は時間がないかもと、未来がバイトの日に全てを打ち明けることにしました。最初は戸惑ってはいましたが、未来は間近で母が私に向ける態度や言動をみていた為にすぐに納得してくれました。でも、それから私たちは過ちを犯しました。あれが一体なにか突き止めやろう。その判断に至ってしまったのです。
私と未来は日が暮れるのを待ち、三人が店を出ていくのを待ちました。最初に母が、それから父と悠斗が店を出ていきました。悠斗の手には仕上げたばかり装花を差した鉢がありました。花は、咲いていませんでした。ええ、蕾です。三人は夜が溶け落ちた道なりを一時間程歩き、やがてある一軒家の前で立ち止まりました。家には明かりが灯っており、玄関には自転車が二台止まっていました。
最初に動いたのは悠斗でした。手にしていた鉢を地面に置き、頭を垂れました。父と母はそれをみるなり、同じように頭を垂れ、互いの頭をくっつけました。やがて、鉢を中心にちょうど円を描くみたいにくるくると周り始めたんです。頭をつけたまま、決して離れないように。明らかに異常でした。私たちは影からそれを見守っていましたが、私の腕を掴む未来の手の震えが、荒い息遣いが、果たしてどちらが先に始まったのか分かりませんでした。三人は囁くような声でなにかをぶつぶつと呟いていました。「る、か、私もうむり、いや」と未来が駆け出したのはそんな時です。私はすぐにあとを追いかけましたが、その寸前一瞬母と目が合ったような気がしました。
間違いであることを祈りましたが、夏が終わる頃には未来がおかしなことを口にするようになっていました。ある言葉が頭に浮かぶ。それがあるせいで日常生活に集中出来ないと。私は必死に支えようとしました。その時の私はもう自分の家にはいません。未来の家に住ませて貰っていました。あんなものをみてしまったのです。帰ることは出来ませんでした。
頑張っ、たんです。私は。たった一人の親友だったから。懸命に未来を支えようとしました。
でも、無理でした。秋でした。目が覚め、リビングに降りると、いつもそこにいるはずの未来の姿はありませんでした。その代わり、椅子のところに前日の夜に未来が着ていた服だけが萎れた花みたいにぶら下がっていました。
だからこそ、私は彼女を守りたかった。母からは家族内で知り得たことを決して他言するな、など幾つかのルールを設けられていましたが私はタイミングをみて全てを打ち明け、未来には店を辞めてもらうつもりでいました。ですが、それよりも前に事態は想像もしない方向へと動きました。両親が出演した動画が炎上し、人々の目が一気に向けられることになったのです。母は最初どこ吹く風という感じでお店を営業していましたが、次第におかしくなっていきました。いつも日が暮れると三人は店を出ていくのですが、その少し前からおかしなやり取りをするようになりました。あれは、言語なのか。それすらも分かりません。とにかく聞いたこともない言葉で父と母と悠斗は話すようになりました。
私は時間がないかもと、未来がバイトの日に全てを打ち明けることにしました。最初は戸惑ってはいましたが、未来は間近で母が私に向ける態度や言動をみていた為にすぐに納得してくれました。でも、それから私たちは過ちを犯しました。あれが一体なにか突き止めやろう。その判断に至ってしまったのです。
私と未来は日が暮れるのを待ち、三人が店を出ていくのを待ちました。最初に母が、それから父と悠斗が店を出ていきました。悠斗の手には仕上げたばかり装花を差した鉢がありました。花は、咲いていませんでした。ええ、蕾です。三人は夜が溶け落ちた道なりを一時間程歩き、やがてある一軒家の前で立ち止まりました。家には明かりが灯っており、玄関には自転車が二台止まっていました。
最初に動いたのは悠斗でした。手にしていた鉢を地面に置き、頭を垂れました。父と母はそれをみるなり、同じように頭を垂れ、互いの頭をくっつけました。やがて、鉢を中心にちょうど円を描くみたいにくるくると周り始めたんです。頭をつけたまま、決して離れないように。明らかに異常でした。私たちは影からそれを見守っていましたが、私の腕を掴む未来の手の震えが、荒い息遣いが、果たしてどちらが先に始まったのか分かりませんでした。三人は囁くような声でなにかをぶつぶつと呟いていました。「る、か、私もうむり、いや」と未来が駆け出したのはそんな時です。私はすぐにあとを追いかけましたが、その寸前一瞬母と目が合ったような気がしました。
間違いであることを祈りましたが、夏が終わる頃には未来がおかしなことを口にするようになっていました。ある言葉が頭に浮かぶ。それがあるせいで日常生活に集中出来ないと。私は必死に支えようとしました。その時の私はもう自分の家にはいません。未来の家に住ませて貰っていました。あんなものをみてしまったのです。帰ることは出来ませんでした。
頑張っ、たんです。私は。たった一人の親友だったから。懸命に未来を支えようとしました。
でも、無理でした。秋でした。目が覚め、リビングに降りると、いつもそこにいるはずの未来の姿はありませんでした。その代わり、椅子のところに前日の夜に未来が着ていた服だけが萎れた花みたいにぶら下がっていました。
