『Friends』

〜遠山楓理〜


朝の教室って、どうしてあんなに退屈なんだろう。窓から入る光はきれいだし、みんなそれぞれ真面目な顔してるし、悪くはない。悪くはないけど、ちょっと地味。だから私は、少しくらい色を足してあげないといけないと思うの!鞄を机に置いて、軽く髪を整える。今日の前髪、完璧。鏡がなくてもわかる。だって昨日の夜、ちゃんと確認したもの。こういう準備を怠らないところが大事なんだから。
「ねえ聞いて!」
まだチャイムも鳴ってないのに、私は後ろの席の子に声をかける。昨日見つけたカフェの話。内装がすごくおしゃれで、スイーツが芸術的で、店員さんも感じよくて——あ、ちょっと盛ったかも。でもいいの。話は楽しいほうがいいに決まってる!
みんなが笑ってくれると、やっぱり安心する。教室の空気がぱっと明るくなる感じ。こういうの、誰にでもできるわけじゃないんだから。

ふと横を見る。樹くんは、いつもの席で静かに本を閉じていた。騒がしい教室の中でも、あの人はちゃんと自分のペースを崩さない。余裕っていうのかな。そういうの、ちょっとずるい。

目が合った。

にこっと笑ってくれる。気のせいかも知れないけどきっとそう!

……ほら。

やっぱり。

授業が始まっても、私はたまに樹くんの横顔を盗み見る。ノートをとる手つきも落ち着いてるし、先生に当てられても慌てない。すごいわけじゃないけど、ちゃんとしてる。ああいうの、安心感って言うのかも。
でも安心するだけじゃ足りないよね?

昼休み、廊下でばったり会った。
「遠山さん、さっきの話、面白かった」
さらっと言う。え、なにそれ。そんな自然に褒めるの反則なんだけど!?
「でしょ!? 私、話すの上手いから!」
ちょっと大きめに返す。わざと。だって控えめにする理由ないし。彼は軽く笑うだけ。否定もしない。余計なことも言わない。

……余裕。

放課後、文化委員の集まりがあった。私は当然、中心で話す。文化祭の企画、もっと派手にできるはずだし、絶対そのほうが楽しい!
「せっかくなんだから、目立たなきゃ意味ないでしょ!」
みんなが少し驚くけど、最終的には頷く。そう。そうなの。私の言うこと、だいたい正しいの。でも本当は、ちょっとだけ焦ってる。最近、樹くんは福祉委員会の子たちと話してる時間が増えた。莉央ちゃんとか、結衣ちゃんとか。あの二人、静かでやわらかい感じ。悪くない。むしろ、いい子たちだと思う。

でも。

でも、だよ?

私が一番目立つでしょ?

私はちゃんと明るいし、話してて楽しいし、話題も豊富だし。並んだら、どう見ても私のほうが華やかじゃない?

帰り道、偶然を装って同じタイミングで昇降口に出る。
「樹くん、今帰り?」
「うん」
短い会話。だけど、隣に並ぶ。歩幅を少しだけ合わせる。彼は気づいてるのかいないのか、特に何も言わない。でも嫌そうじゃない。むしろ自然。夕陽がきれい。私の髪、たぶん光ってる。今なら最高のタイミングかも、って思う。でも今日はやめた。告白って、やっぱりちゃんと準備してあげないと失礼だし? いきなりすぎるのも、向こうがびっくりしちゃうし?キュン死ってやつ?
だから、もう少しだけ様子を見る。
教室で、彼が誰かと話しているのを横目で見るたび、胸の奥がちょっとざわつく。あれ、私こんなに落ち着きなかったっけ?

いや、違う。

私は余裕があるの。

だって、最終的に選ばれるのは私だし!

それはもう、ほぼ決まってるみたいなものだし!!

放課後の廊下で、ガラスに映る自分を見る。悪くない。むしろかなり可愛い。背筋も伸びてるし、表情も完璧。そろそろ、だよね。ちゃんとタイミングを見計らって、私が言ってあげよう。きっと、驚く。ちょっと赤くなるかも。そして、困ったみたいに笑って、「嬉しい」って言うんだと思う。

うん、想像できる。

だって、相手は私だもの。

明日もまた、教室は少し退屈で、少し騒がしい。その中で私はちゃんと輝いてる。

そして、あの人はきっと、気づいてる。私の魅力に。

まだ言ってないだけ。余裕そうな樹くんでも、私に告白する勇気がまだ出ないんだ!

だから大丈夫。

私は鞄を肩にかけ、軽く髪を払う。

——もう少ししたら、私から言ってあげるんだから!