『Friends』

浅倉(あさくら) 琉生(るい)


―――目が覚めた。ここは何処だ?寝惚(ねぼ)けた目を擦ると、そこに映ったのは見慣れた車内と車窓越しの見慣れない風景だった。やっと()え始めた僕の頭に、何度も耳にしたであろう二文字の言葉が浮かんだ。「転居」...つまり引っ越しである。父親の仕事の都合でどうしても必要だったらしい。だが、やはり不満が募る。今は中学二年の六月、やっと中学校に慣れてきたと思えばこの様だ。クラスにも少しずつ馴染み、放課後に残って他愛もない話をする相手もできた。部活だって、ようやく先輩の名前と顔が一致してきたばかりだったのに。積み上げてきたものが、何の前触れもなく崩されるような感覚。昨日までの「当たり前」が、今日からはもう手の届かない場所にあるのだと思うと、胸の奥がじくりと痛んだ。それでも時間は待ってくれない。車は止まらず、知らない街へと僕を運んでいく。窓ガラスに映る自分の顔は、どこか拗ねた子どものようで、思わず視線を逸らした。

車は緩やかな坂道を上っていた。窓の外には、低い家並みと、その向こうに広がる田畑が見える。前の街とは違い、高い建物も派手な看板もない。代わりに、空がやけに広かった。雲がゆっくりと流れているのを、こんなに大きく感じたのは初めてかもしれない。
「もうすぐ着くぞ」
運転席から父の声が飛んできた。母は助手席で地図アプリを見ながら、
「この辺り、静かでいいところらしいわよ」
と気楽に言う。僕は曖昧な返事を返し、再び窓の外に目を向けた。

やがて車は、小さな駅前ロータリーを抜け、商店が数軒並ぶ通りへと入った。新しい生活の匂いがする。期待よりも不安のほうが大きく、胸の奥がじわりと重い。アパートは二階建ての淡いクリーム色の建物だった。荷物を運び入れ、最低限の片付けを終えるころには、もう夕方になっていた。窓を開けると、どこからか蝉の鳴き声が聞こえる。六月の湿った風が、カーテンを揺らした。