雪中彼岸御身花開く

読者諸氏の皆々様!!

引き続き、朗報の続報をお届けいたします!!

朗報とは何かと問われれば、ええ、彼がまだ「どこかにいる」という確信であります。確信は証拠よりも軽やかで、証拠よりも強い。紙よりも薄く、鉄よりも固い。私はそれを胸ポケットに入れております。名刺入れの裏側に。二年使った名刺入れの。二年。

さて。

前章にてご報告いたしました通り、私は彼に電話をかけました。受話器を持つ手は震えておりませんでした。決して。むしろ安定しておりました。新聞記者たるもの、緊急時こそ平常心。私は平常心の権化であります。

呼び出し音。

トゥルルル。

トゥルルル。

トゥルルルル。

三回目だけ、ひとつ多い。気のせいでしょうか。回線の都合でしょう。現代の通信網は時折、息継ぎをしますから。

十回鳴らしました。

十一回目で、切れました。

彼が切ったのか、回線が諦めたのか。判断はつきません。しかし私は楽観的です。彼は出られない場所にいるのでしょう。地下。あるいはトンネル。あるいは水の中。

水の中?

ははは、冗談です。

私はすぐにメッセージを残しました。

「もしもし、例の件、受け取りました。非常に興味深い内容です。順番は守ります。安心してください。」

順番。

私はその言葉を自然に口にしておりました。なぜでしょう。彼の口癖だったからでしょうか。それとも――

いえ。

その後、メールを送りました。件名は「受領報告および現状確認」。記者らしい簡潔な件名。本文には三行。無駄はありません。送信時刻は十時二分。あるいは十時三分。送信ボタンを押した瞬間、画面が一瞬だけ白くなりました。

既読はつきません。

しかし私は焦っておりません!

焦燥は誤報の母。私は母を敬愛しますが、誤報は愛せません。

そこで私は、彼のSNSを確認いたしました。最終更新は三日前。内容は短い動画。無音。真っ暗な画面に、わずかなざらつき。コメント欄には「何も見えないよ」との書き込みが複数。彼は返信しておりません。

無音の動画。

無音。

私は再生しました。スピーカーを耳に近づけました。すると――

何かが、ある。

あるいは、ない。

高周波のような、耳鳴りのような、キィン、という。ああ、前章でも触れましたね。偶然でしょう。偶然はよくある。二年も生きていれば、偶然は何百回も訪れます。

私は動画を停止しました。順番がありますから。

順番を守る。

守るべきは順番。

私はメモを取りました。取材ノートに。

【確認事項】
・呼び出し音の余分な一拍
・無音動画の微細なノイズ
・既読未確認

冷静です。

実に冷静。

それから、大学時代の共通の友人に連絡を取りました。三名。うち二名は「最近会っていない」と返答。一名は既読になりません。

既読にならない。

既読にならないという事実が、妙に規則的に積み重なります。三日。三人。三回。数字は整列を好みます。彼も整列を好みました。ノートの端をきちんと揃えて机に置く男でした。

私はさらに、彼の勤務先へ電話をしました。彼はフリーランスのはずでしたが、最近はどこかの制作会社と仕事をしていると聞いておりました。電話口の女性は「最近は出社されていません」と穏やかに告げました。

「いつからですか?」

「ええと……二週間ほど前から」

二週間。

私は計算しました。二週間前は、彼が小包を発送したであろう日付よりも後。つまり――

彼は、消えてから送った。

いえ、違います。順番を守らねば。

発送日。消印。

私は小包を再確認しました。消印は確かに二週間前。しかし数字の印字がわずかに滲んでいる。日付の「1」が「7」にも見える。あるいは「4」。

数字は裏返る。

彼の言葉が浮かびました。

私は笑いました。

裏返るのはパンケーキだけです。数字は裏返りません。

そうでしょう?

読者諸氏の皆々様、どうか安心してお読みください。私は常識の範囲内で思考しております。

ただ、時折、背後で小さな物音がします。

コツ。

コツ。

机の上には小包しかありません。窓は閉まっている。換気扇も止まっている。

コツ。

規則正しい。呼び出し音のように。

私は振り向きません。振り向くのは順番外です。

その代わり、再び電話をかけました。今度はスピーカーにして。呼び出し音が部屋に広がります。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルルル。

やはり一拍多い。

私は数えました。一、二、三、四――五?

五回目で音が途切れました。

そして、無音。

しかし、通話は切れていない。画面には「通話中」の表示。秒数が増えていく。十秒。二十秒。三十秒。

向こう側で、何かが息をしている。

あるいは、回線が風を吸っている。

「……もしもし?」

私は言いました。

返事はありません。

しかし、確かに、向こう側は空ではない。

空はもっと静かです。

私は通話を切りました。

冷静です。

極めて冷静。

ただ、メモ帳に書いた文字が少し歪んでおります。インクが滲んでいる。手が震えたのでしょうか。いえ、ペン先の不具合です。二年使ったペンですから。

二年。

二年という数字が、妙に膨らみます。二が三に、三が五に。フィボナッチ数列。彼は数列も好んでいました。増殖する数。増殖する音。

私は立ち上がり、窓を開けました。外気を入れるため。新鮮な空気は理性を保ちます。

外では、子供たちの声がしていました。

しかし、どこか遠い。

まるで水の底から聞くような。

水の中。

ああ、また水です。

私は水を連想しすぎている。理由は単純。昨夜シャワーを長く浴びたから。

それだけです。

決して、彼が最後に送ってきたメッセージが「沈む」という単語だったからではありません。

……今、書きましたか?

いいえ。書いていません。書いていないことにします。順番が崩れますから。

読者諸氏の皆々様、どうかご協力ください。

彼からの連絡があれば、どんな些細なことでもお知らせください。呼び出し音の違和感、無音の動画、数字の滲み――何でも結構です。

私は明るく待っております!!

明るく。

部屋の照明を最大にしました。蛍光灯は白く、影を消します。影が消えれば、不安も消える。

机の上の小包が、わずかに湿っているように見えました。

気のせいです。

触れてみると、乾いている。

しかし指先に冷たさが残る。

冷たい。

まるで受話器の向こう側の空気のように。

私は笑いました。

これはすべて、取材です。

優れた取材は、対象と同じ高さまで降りること。彼が聞こうとしていた音を、私はいま、共有しているに過ぎません。

共有。

それは友情。

友情は消えません。

人は消えても、音は残る。

音は消えても、記録は残る。

記録は消えても、順番は残る。

順番は――

……

コツ。

背後でまた音がしました。

今度は二回。

私は振り向きました。

机の上に置いたはずのカセットテープが、ほんの少し、角度を変えていました。

気のせいです。

きっと床が傾いている。築年数の問題でしょう。

私はそれを元の位置に戻しました。

順番は守らねばなりません。

まだ再生はしません。

まだ。

彼が連絡をくれるまでは。

きっと、もうすぐです。

呼び出し音は、規則正しく、少しだけ多い。

それは、合図に違いありません。

合図。

もうすぐ。

こちら側に。