【広報 きたかた 平成8年4月刊行】
町の未来を支える拠点として
北潟町冷凍冷蔵倉庫が完成
平成8年、北潟町において建設が進められておりました冷凍冷蔵倉庫施設が、このたび無事完成し、供用を開始いたしました。
本施設は、町内外の農水産物を安定的に保管・流通させることを目的として計画されたもので、北潟町にとってかつてない規模の一大プロジェクトとして、関係各所のご尽力のもと実現したものです。
冷凍・冷蔵の両機能を備えた本倉庫は、収穫期や水揚げ期に左右されがちな農水産物の品質保持を可能とし、出荷調整や価格安定に寄与することが期待されています。また、災害時や不測の事態においても、一定量の食料を確保できる拠点としての役割も担います。
建設にあたっては、町内から多くの声が寄せられ、「北潟の産業を次の世代につなげる施設を」という思いが計画の根底にありました。工事期間中は、近隣住民の皆さまにご不便をおかけする場面もありましたが、ご理解とご協力をいただき、予定通り完成を迎えることができました。
今後は、本施設を活用した流通体制の整備や、新たな雇用の創出、関連産業の活性化など、町全体の発展につながる取り組みを段階的に進めていく予定です。
北潟町はこれからも、「暮らし」と「産業」を支える基盤づくりを大切にしながら、安心して住み続けられる町を目指してまいります。
住民の声コーナー
― 新しい施設への期待 ―
◆ 農業従事者(60代・男性)
収穫した作物をすぐに出荷しなくても保管できるようになるのは、本当に助かります。天候や相場に左右されずに済むのは、農家にとって大きな安心です。
◆ 水産加工業者(40代・女性)
冷凍設備が整うことで、品質を保ったまま町外へ出荷できるようになるのはありがたいですね。北潟町の名前をもっと広めるきっかけになればと思います。
◆ 近隣在住(30代・男性)
最初は大きな建物ができると聞いて驚きましたが、説明会で話を聞いて安心しました。町の将来を考えた施設だと思います。
◆ 主婦(50代・女性)
災害時の備えとしても役立つと聞いて心強く感じています。町全体で支え合える拠点になってほしいですね。
よくあるご質問(Q&A)
Q1:冷凍冷蔵倉庫はどのような目的で建設されたのですか?
A:町内の農水産物の安定的な保管・流通を目的としています。品質保持や出荷調整を可能にし、産業振興と地域経済の活性化を図るための施設です。
Q2:一般の住民も利用できますか?
A:現在は、町内事業者を中心とした利用を想定していますが、今後の運用状況を踏まえ、柔軟に検討していく予定です。
Q3:騒音や安全面は大丈夫でしょうか?
A:稼働音や振動については、事前に十分な対策を講じています。また、定期的な点検と管理を行い、安全な運営に努めてまいります。
Q4:雇用はどのくらい生まれるのでしょうか?
A:施設運営に伴い、一定数の新規雇用が見込まれています。町内からの雇用を優先し、地域に根ざした運営を目指します。
Q5:今後、施設の拡張や新たな計画はありますか?
A:現時点では未定ですが、利用状況や町の発展に応じて、必要な検討を行っていく予定です。
【内部資料】
北潟町冷凍冷蔵倉庫建設計画
社内メール履歴(平成7年4月〜12月)
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■メール①
送信日時:平成7年4月18日 09:12
差出人:株式会社東洋建設 北潟現場事務所
現場代理人 山崎誠
宛先:北潟開発株式会社 事業推進部
主任 高梨浩一
件名:基礎工事進捗のご報告
高梨様
お世話になっております。
基礎杭打設工事は予定通り進行しております。
一点、施工中に若干の違和感がありましたので念のため共有いたします。
敷地南西側にて杭の貫入抵抗値が想定よりも高く、地盤調査報告書の数値と若干の乖離が見られました。再測定を行いましたが、数値は安定せず、硬質層の分布にばらつきがある印象です。
現時点では施工上の支障はございません。
工程への影響も軽微と判断しております。
以上、ご報告まで。
山崎
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■メール②
送信日時:平成7年4月18日 11:02
差出人:北潟開発株式会社
主任 高梨浩一
宛先:東洋建設 山崎様
件名:Re: 基礎工事進捗のご報告
山崎様
ご報告ありがとうございます。
地盤の件ですが、当初の地質調査は町の予算で実施しており、追加調査の余裕はございません。
工程に影響がないのであれば、予定通り進めてください。
本件は町の補助金事業です。
9月末までに上屋完成が必須条件となっております。
スケジュール厳守でお願いいたします。
高梨
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■メール③
送信日時:平成7年6月3日 17:44
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:夜間作業中の事象について(報告)
高梨様
夜間のコンクリート打設作業中、作業員より複数の報告がありました。
・打設済みの区画から水音のような音が断続的に聞こえる
・内部温度計が一時的に異常値(−8℃)を示す
・誰もいないはずの仮設通路で足音が反響する
冷凍設備はまだ設置前です。
機械的要因は現時点で確認できておりません。
作業員の間で「気味が悪い」との声が出ており、夜間作業の人員確保に若干の支障が出始めています。
工程への影響は今のところ軽微ですが、念のため共有いたします。
山崎
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■メール④
送信日時:平成7年6月4日 08:15
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 夜間作業中の事象について
山崎様
設備未設置で−8℃というのは計器の不具合でしょう。
仮設通路は鉄骨が鳴ることもあります。
作業員の不安については現場で対応してください。
根拠のない噂が広まると町との関係に影響します。
繰り返しますが、9月末の上屋完成は補助金交付条件です。
遅延は認められません。
高梨
________________________________________
■メール⑤
送信日時:平成7年8月12日 22:03
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:至急:作業員負傷事故および不可解事象
高梨様
本日20時頃、南側冷蔵区画にて鉄骨梁が落下。
作業員1名が軽傷。
原因調査中ですが、固定ボルトの緩みが確認されました。
締結確認は当日午前に実施済みです。
さらに不可解な点として、
梁の内側に水濡れのような痕跡があり、塩分を含む白い結晶が付着していました。
当該区画はまだ外壁未完成で、海水の侵入経路は考えられません。
複数の作業員が「床下から叩く音がした」と証言しています。
現場の士気が著しく低下しております。
お祓い等の実施を検討いただけないでしょうか。
山崎
________________________________________
■メール⑥
送信日時:平成7年8月13日 09:41
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 至急:作業員負傷事故
山崎様
事故は労災処理を適切にお願いします。
塩分についてはコンクリート材料由来の可能性もあります。
科学的説明のつかない内容を公式文書に記載しないよう注意してください。
祈祷や祭事の実施は現時点で予定しておりません。
本計画は既に町の広報、議会、スポンサー企業に対して完成時期を公表済みです。
遅延は資金繰りに直結します。
冷静な対応をお願いします。
高梨
________________________________________
■メール⑦
送信日時:平成7年10月1日 01:16
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:【再三報告】床下空洞の件
高梨様
本日、冷凍区画中央部にて床版沈下が発生。
調査のため一部解体したところ、
設計図に存在しない空洞を確認しました。
直径約2.5m。
内部は水分を含み、異臭あり。
さらに奇妙なことに、
内部壁面に爪で引っ掻いたような多数の線状痕が確認されました。
地盤改良記録には該当箇所なし。
埋設物報告にも記載なし。
作業員の一部が出勤を拒否しています。
工程を一時停止し、地質再調査を行うべきと判断します。
山崎
________________________________________
■メール⑧
送信日時:平成7年10月1日 07:58
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 【再三報告】床下空洞の件
山崎様
工程停止は認められません。
空洞は施工時の掘削残留の可能性があります。
速やかに充填処理を行い、復旧してください。
町長は今月末に現場視察予定です。
スポンサー企業(東北流通開発)も同行します。
この事業は北潟町の命運を左右します。
既に支援金は受領済みであり、後戻りはできません。
冷凍設備搬入日は変更不可。
以上、強く要請します。
高梨
________________________________________
■メール⑨(最後の記録)
送信日時:平成7年12月14日 23:52
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:最終報告(内部共有)
高梨様
本日、試運転を実施しました。
外気温7℃に対し、
未稼働区画の温度が−18℃を記録。
冷凍機は停止状態。
床下から連続的な衝撃音。
振動計に微弱反応。
作業員の一名が
「冷気の中に誰かが立っている」と証言。
本メールは正式報告書とは別にお送りします。
完成引き渡しは可能です。
工程上の支障はありません。
ただし
この施設は、
何かを閉じ込める構造になっているように思われます。
以上。
山崎
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【補足】
その後、平成8年4月
広報誌『広報 きたかた』にて
「予定通り完成」と掲載。
事故・空洞・異常温度の記録は
公式資料には一切残されていない。
月刊ルポルタージュ東北
平成9年3月号特別取材
「消えた五人」
北潟町冷凍冷蔵倉庫 集団失踪の深層
取材・文/編集部特別取材班
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第一章 深夜、五人は消えた
平成8年12月某日未明。
北潟町の湾岸部に建設されたばかりの巨大施設――北潟町冷凍冷蔵倉庫で、前代未聞の出来事が起きた。
夜間作業に従事していた従業員五名が、忽然と姿を消したのである。
当夜、倉庫では翌日の出荷調整のため、冷凍区画での仕分け作業が行われていた。午後10時から翌午前3時までの予定で、総勢12名が勤務していたという。
午前1時半頃、冷凍第二区画で作業していた班と連絡が取れなくなった。無線に応答がない。冷凍庫の扉は内側から閉ざされ、外部モニターには人影が映っていなかった。
異変に気付いた責任者が内部を確認したとき、そこには積み上げられたコンテナと、床に転がる手袋、そして作業用無線機が残されていただけだった。
五人の姿はなかった。
冷凍庫は外部からの開閉履歴が記録される仕組みだが、当該時間帯に扉の開閉は確認されていない。
非常口も施錠されたままだった。
まるで、空気の中へ溶けるように。
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第二章 「ここから出してくれ」
事件直後、警察は施設内外の徹底捜索を実施した。
床下、天井裏、ダクト内部、冷凍機械室、排水溝。
さらに周辺海岸や山林まで範囲を広げたが、五人の痕跡は一切発見されなかった。
倉庫内部の冷凍区画は外気温とは隔絶された密閉空間である。氷点下20度近い温度で人が長時間生存することは困難だ。
しかし、不思議なことに。
失踪当夜、冷凍機は一部停止していたという証言がある。
関係者の一人は本誌の取材に対し、こう語った。
「あの日、なぜか一部の区画だけ温度が安定しなかった。
冷凍機が動いていないのに、冷気だけが満ちていたんです」
さらに別の作業員は、失踪直前の異様な音を証言している。
「誰もいない冷凍庫の奥から、ドン、ドンって扉を叩く音がした。
冗談かと思ったけど、音は内側からだった」
警察は機械的誤作動やいたずらの可能性を示唆したが、正式な説明はなされていない。
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第三章 消える前の兆候
失踪した五人には、共通する異変があった。
同僚の証言を総合すると、彼らは事件の数週間前から体調不良を訴えていたという。
倦怠感、微熱、頭痛。
しかし医療機関での検査では異常なし。
作業中、ふいに動きを止め、虚空を見つめる姿が何度も目撃されている。
「呼びかけても反応が遅い。
まるで誰かの話を聞いているみたいだった」
そのうちの一人、三十代男性は、家族にこんな夢の話をしていた。
荒れ果てた灰色の大地。
皮と骨だけになった老若男女が、地面を這い、呻き、のたうち回っている。
空はなく、光もない。
ただ冷たい風が吹き、凍り付いたような荒野が広がる。
その中心に、巨大な穴が口を開けている。
「みんな、あそこに戻るんだ」
男性はそう呟いたという。
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第四章 倉庫に棲むもの
北潟町冷凍冷蔵倉庫は、町の一大プロジェクトとして平成8年春に完成した。
広報誌には「予定通り完成」「町の未来を支える拠点」と華々しく掲載され、住民の期待も高かった。
だが、現場では以前から奇妙な現象が語られていた。
・ダクトの内部を何かが這うような音
・冷凍庫の奥から響く叩打音
・通路に立つ人影
・耳元での囁き
複数の従業員が同様の証言をしている。
中でも多いのが「囁き」の証言だ。
「名前を呼ばれた」
「帰れと言われた」
「ここは違うと言われた」
音源は特定できない。
監視カメラにも異常は映らない。
しかし、耳元で息を感じたという者は少なくない。
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第五章 神棚と読経
倉庫事務所の一角には、簡素な神棚が設けられている。
これは当初の設計にはなかった。
関係者によれば、開業後しばらくして設置されたものだという。
理由は「安全祈願のため」と説明されているが、内部事情を知る者は口を揃えて言う。
「夜間作業が怖かったからだ」
実際、夜間の冷凍作業時には、読経を録音したカセットテープが流されていた。
低く単調な読経が、巨大なコンクリート空間に反響する。
氷点下の白い空気の中で響く読経。
それでも異変は止まらなかった。
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第六章 消えた五人の最後
失踪当夜、防犯カメラは奇妙な映像を残している。
午前1時27分。
冷凍第二区画の通路を、五人が並んで歩く姿。
しかし、映像は途中で激しく乱れ、数秒間のノイズの後、通路は空になっていた。
編集痕は確認されていない。
五人は、同じ方向を見つめて歩いていたという。
そこには何も映っていない。
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第七章 町の沈黙
事件後、倉庫は一時的に稼働を停止した。
しかし、町の基幹施設であること、補助金事業であること、スポンサー企業の関与などが重なり、施設は数か月後に再開された。
公式見解は「集団失踪」。
事故でも事件でもない。
町は沈黙を選んだ。
広報誌には、失踪についての記述は一切ない。
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第八章 いまも続く音
本誌取材班が夜間に倉庫周辺を訪れた際、内部から微かな振動音が聞こえた。
稼働時間外である。
関係者は「冷媒循環音」と説明する。
だが、その音は一定ではなかった。
まるで、何かが内側から叩いているかのように。
ドン。
ドン。
ドン。
冷凍庫は、何かを保管する場所だ。
だが、もし。
あの建物が最初から――
「閉じ込める」ための器だったとしたら。
消えた五人は、どこへ行ったのか。
それは事故か。
事件か。
それとも――
凍りつくような沈黙だけが、北潟町の夜を包んでいる。
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(了)
月刊ルポルタージュ東北
平成9年4月号追跡特集
「冷凍庫の底」
― 消えた五人と、残された記録 ―
取材・文/編集部特別取材班
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第一章 内部資料A ― 捜索記録の矛盾
本誌は、県警関係者より提供を受けた内部資料の写しを入手した。
平成8年12月18日付
「北潟町冷凍冷蔵倉庫 失踪事案 捜索報告書(抄)」
その中に、公式発表には存在しない記述がある。
・冷凍第二区画中央部において床面下より空洞音を確認
・打診に対し反響あり
・内部温度測定時、一時的に−28℃を記録(機械停止状態)
・捜索員一名が耳鳴りおよび幻聴を訴える
さらに不可解なのは、最後の一文だ。
「内部より複数人の叩打音を確認。音源特定不可。」
この一文は、最終版の報告書から削除されている。
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第二章 家族の証言
失踪者の一人、佐々木(仮名)さんの妻は、本誌に語った。
「主人は夜中に何度も目を覚ましていました。
“呼ばれてる”って言うんです。
どこから?って聞くと、“下から”って。」
別の失踪者の母親は、こんな手紙を見せてくれた。
便箋の端に書かれた走り書き。
「床の下が鳴る。
空気が冷たいのに、汗が止まらない。
あの空洞は埋めたはずなのに。」
空洞。
それは建設時、設計図に存在しないと報告された地下空間を指すのか。
その空洞は、公式には「充填処理済み」となっている。
だが。
複数の従業員は言う。
「完全には埋まっていなかった」
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第三章 読経テープの異音
夜間作業中に流されていた読経テープ。
その一本を、元従業員が保管していた。
本誌は音響専門家に解析を依頼した。
結果。
読経の背後に、微弱な低周波ノイズが確認された。
速度を落とし、周波数を調整すると――
断続的な音声のようなものが浮かび上がる。
「……さむい」
「……ここ……」
「……あけて」
音響専門家は慎重に言葉を選びながら述べた。
「偶然のノイズが言語に聞こえることはあります。
ただし、この繰り返しの規則性は説明が難しい。」
録音日は、失踪当夜のものだった。
________________________________________
第四章 ダクト内部調査
平成9年1月、倉庫は一時閉鎖された。
その際、ダクト内部の点検が実施されている。
点検報告書(社内用)より抜粋。
・内部に原因不明の擦過痕多数
・結露では説明不能な塩分結晶付着
・一部区間に体毛様繊維物質確認(分析不能)
ダクトは人が通れる大きさではない。
しかし、擦過痕は「内側から」伸びていたという。
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第五章 最後の映像
警察が押収した監視映像。
ノイズの直前、五人の視線は一点に集中していた。
そこは、床中央。
ちょうど、かつて空洞が報告された位置である。
解析画像を拡大すると、床面に微かな歪みが見える。
まるで、下から圧がかかっているかのように。
その直後、映像は乱れ、五人は消える。
切断痕なし。
編集痕なし。
物理的説明なし。
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第六章 再稼働
平成9年3月。
倉庫は静かに再稼働した。
神棚は以前より大きくなり、榊が絶えない。
夜間作業では、今も読経が流れているという。
だが、最近になって新たな証言が寄せられた。
「冷凍庫の奥に霜がつく形が、人の手に見える」
「ダクトから落ちる水滴が、赤く見えた」
「空の区画から、五人分の足音がする」
町はコメントを控えている。
スポンサー企業も沈黙している。
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終章 閉じ込められたもの
冷凍庫とは、腐敗を止める場所だ。
時間を止める場所。
もしあの建物が、
何かを封じ込めるために建てられたのだとしたら。
それは、保管庫ではない。
封印庫だ。
失踪した五人は、
“出て行った”のではない。
“下へ行った”のではないか。
あの、設計図にない空洞へ。
そして今も。
氷点下の底で、叩いているのかもしれない。
ドン。
ドン。
ドン。
(完)
町の未来を支える拠点として
北潟町冷凍冷蔵倉庫が完成
平成8年、北潟町において建設が進められておりました冷凍冷蔵倉庫施設が、このたび無事完成し、供用を開始いたしました。
本施設は、町内外の農水産物を安定的に保管・流通させることを目的として計画されたもので、北潟町にとってかつてない規模の一大プロジェクトとして、関係各所のご尽力のもと実現したものです。
冷凍・冷蔵の両機能を備えた本倉庫は、収穫期や水揚げ期に左右されがちな農水産物の品質保持を可能とし、出荷調整や価格安定に寄与することが期待されています。また、災害時や不測の事態においても、一定量の食料を確保できる拠点としての役割も担います。
建設にあたっては、町内から多くの声が寄せられ、「北潟の産業を次の世代につなげる施設を」という思いが計画の根底にありました。工事期間中は、近隣住民の皆さまにご不便をおかけする場面もありましたが、ご理解とご協力をいただき、予定通り完成を迎えることができました。
今後は、本施設を活用した流通体制の整備や、新たな雇用の創出、関連産業の活性化など、町全体の発展につながる取り組みを段階的に進めていく予定です。
北潟町はこれからも、「暮らし」と「産業」を支える基盤づくりを大切にしながら、安心して住み続けられる町を目指してまいります。
住民の声コーナー
― 新しい施設への期待 ―
◆ 農業従事者(60代・男性)
収穫した作物をすぐに出荷しなくても保管できるようになるのは、本当に助かります。天候や相場に左右されずに済むのは、農家にとって大きな安心です。
◆ 水産加工業者(40代・女性)
冷凍設備が整うことで、品質を保ったまま町外へ出荷できるようになるのはありがたいですね。北潟町の名前をもっと広めるきっかけになればと思います。
◆ 近隣在住(30代・男性)
最初は大きな建物ができると聞いて驚きましたが、説明会で話を聞いて安心しました。町の将来を考えた施設だと思います。
◆ 主婦(50代・女性)
災害時の備えとしても役立つと聞いて心強く感じています。町全体で支え合える拠点になってほしいですね。
よくあるご質問(Q&A)
Q1:冷凍冷蔵倉庫はどのような目的で建設されたのですか?
A:町内の農水産物の安定的な保管・流通を目的としています。品質保持や出荷調整を可能にし、産業振興と地域経済の活性化を図るための施設です。
Q2:一般の住民も利用できますか?
A:現在は、町内事業者を中心とした利用を想定していますが、今後の運用状況を踏まえ、柔軟に検討していく予定です。
Q3:騒音や安全面は大丈夫でしょうか?
A:稼働音や振動については、事前に十分な対策を講じています。また、定期的な点検と管理を行い、安全な運営に努めてまいります。
Q4:雇用はどのくらい生まれるのでしょうか?
A:施設運営に伴い、一定数の新規雇用が見込まれています。町内からの雇用を優先し、地域に根ざした運営を目指します。
Q5:今後、施設の拡張や新たな計画はありますか?
A:現時点では未定ですが、利用状況や町の発展に応じて、必要な検討を行っていく予定です。
【内部資料】
北潟町冷凍冷蔵倉庫建設計画
社内メール履歴(平成7年4月〜12月)
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■メール①
送信日時:平成7年4月18日 09:12
差出人:株式会社東洋建設 北潟現場事務所
現場代理人 山崎誠
宛先:北潟開発株式会社 事業推進部
主任 高梨浩一
件名:基礎工事進捗のご報告
高梨様
お世話になっております。
基礎杭打設工事は予定通り進行しております。
一点、施工中に若干の違和感がありましたので念のため共有いたします。
敷地南西側にて杭の貫入抵抗値が想定よりも高く、地盤調査報告書の数値と若干の乖離が見られました。再測定を行いましたが、数値は安定せず、硬質層の分布にばらつきがある印象です。
現時点では施工上の支障はございません。
工程への影響も軽微と判断しております。
以上、ご報告まで。
山崎
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■メール②
送信日時:平成7年4月18日 11:02
差出人:北潟開発株式会社
主任 高梨浩一
宛先:東洋建設 山崎様
件名:Re: 基礎工事進捗のご報告
山崎様
ご報告ありがとうございます。
地盤の件ですが、当初の地質調査は町の予算で実施しており、追加調査の余裕はございません。
工程に影響がないのであれば、予定通り進めてください。
本件は町の補助金事業です。
9月末までに上屋完成が必須条件となっております。
スケジュール厳守でお願いいたします。
高梨
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■メール③
送信日時:平成7年6月3日 17:44
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:夜間作業中の事象について(報告)
高梨様
夜間のコンクリート打設作業中、作業員より複数の報告がありました。
・打設済みの区画から水音のような音が断続的に聞こえる
・内部温度計が一時的に異常値(−8℃)を示す
・誰もいないはずの仮設通路で足音が反響する
冷凍設備はまだ設置前です。
機械的要因は現時点で確認できておりません。
作業員の間で「気味が悪い」との声が出ており、夜間作業の人員確保に若干の支障が出始めています。
工程への影響は今のところ軽微ですが、念のため共有いたします。
山崎
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■メール④
送信日時:平成7年6月4日 08:15
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 夜間作業中の事象について
山崎様
設備未設置で−8℃というのは計器の不具合でしょう。
仮設通路は鉄骨が鳴ることもあります。
作業員の不安については現場で対応してください。
根拠のない噂が広まると町との関係に影響します。
繰り返しますが、9月末の上屋完成は補助金交付条件です。
遅延は認められません。
高梨
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■メール⑤
送信日時:平成7年8月12日 22:03
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:至急:作業員負傷事故および不可解事象
高梨様
本日20時頃、南側冷蔵区画にて鉄骨梁が落下。
作業員1名が軽傷。
原因調査中ですが、固定ボルトの緩みが確認されました。
締結確認は当日午前に実施済みです。
さらに不可解な点として、
梁の内側に水濡れのような痕跡があり、塩分を含む白い結晶が付着していました。
当該区画はまだ外壁未完成で、海水の侵入経路は考えられません。
複数の作業員が「床下から叩く音がした」と証言しています。
現場の士気が著しく低下しております。
お祓い等の実施を検討いただけないでしょうか。
山崎
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■メール⑥
送信日時:平成7年8月13日 09:41
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 至急:作業員負傷事故
山崎様
事故は労災処理を適切にお願いします。
塩分についてはコンクリート材料由来の可能性もあります。
科学的説明のつかない内容を公式文書に記載しないよう注意してください。
祈祷や祭事の実施は現時点で予定しておりません。
本計画は既に町の広報、議会、スポンサー企業に対して完成時期を公表済みです。
遅延は資金繰りに直結します。
冷静な対応をお願いします。
高梨
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■メール⑦
送信日時:平成7年10月1日 01:16
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:【再三報告】床下空洞の件
高梨様
本日、冷凍区画中央部にて床版沈下が発生。
調査のため一部解体したところ、
設計図に存在しない空洞を確認しました。
直径約2.5m。
内部は水分を含み、異臭あり。
さらに奇妙なことに、
内部壁面に爪で引っ掻いたような多数の線状痕が確認されました。
地盤改良記録には該当箇所なし。
埋設物報告にも記載なし。
作業員の一部が出勤を拒否しています。
工程を一時停止し、地質再調査を行うべきと判断します。
山崎
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■メール⑧
送信日時:平成7年10月1日 07:58
差出人:北潟開発 高梨
宛先:東洋建設 山崎
件名:Re: 【再三報告】床下空洞の件
山崎様
工程停止は認められません。
空洞は施工時の掘削残留の可能性があります。
速やかに充填処理を行い、復旧してください。
町長は今月末に現場視察予定です。
スポンサー企業(東北流通開発)も同行します。
この事業は北潟町の命運を左右します。
既に支援金は受領済みであり、後戻りはできません。
冷凍設備搬入日は変更不可。
以上、強く要請します。
高梨
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■メール⑨(最後の記録)
送信日時:平成7年12月14日 23:52
差出人:東洋建設 山崎
宛先:北潟開発 高梨
件名:最終報告(内部共有)
高梨様
本日、試運転を実施しました。
外気温7℃に対し、
未稼働区画の温度が−18℃を記録。
冷凍機は停止状態。
床下から連続的な衝撃音。
振動計に微弱反応。
作業員の一名が
「冷気の中に誰かが立っている」と証言。
本メールは正式報告書とは別にお送りします。
完成引き渡しは可能です。
工程上の支障はありません。
ただし
この施設は、
何かを閉じ込める構造になっているように思われます。
以上。
山崎
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【補足】
その後、平成8年4月
広報誌『広報 きたかた』にて
「予定通り完成」と掲載。
事故・空洞・異常温度の記録は
公式資料には一切残されていない。
月刊ルポルタージュ東北
平成9年3月号特別取材
「消えた五人」
北潟町冷凍冷蔵倉庫 集団失踪の深層
取材・文/編集部特別取材班
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第一章 深夜、五人は消えた
平成8年12月某日未明。
北潟町の湾岸部に建設されたばかりの巨大施設――北潟町冷凍冷蔵倉庫で、前代未聞の出来事が起きた。
夜間作業に従事していた従業員五名が、忽然と姿を消したのである。
当夜、倉庫では翌日の出荷調整のため、冷凍区画での仕分け作業が行われていた。午後10時から翌午前3時までの予定で、総勢12名が勤務していたという。
午前1時半頃、冷凍第二区画で作業していた班と連絡が取れなくなった。無線に応答がない。冷凍庫の扉は内側から閉ざされ、外部モニターには人影が映っていなかった。
異変に気付いた責任者が内部を確認したとき、そこには積み上げられたコンテナと、床に転がる手袋、そして作業用無線機が残されていただけだった。
五人の姿はなかった。
冷凍庫は外部からの開閉履歴が記録される仕組みだが、当該時間帯に扉の開閉は確認されていない。
非常口も施錠されたままだった。
まるで、空気の中へ溶けるように。
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第二章 「ここから出してくれ」
事件直後、警察は施設内外の徹底捜索を実施した。
床下、天井裏、ダクト内部、冷凍機械室、排水溝。
さらに周辺海岸や山林まで範囲を広げたが、五人の痕跡は一切発見されなかった。
倉庫内部の冷凍区画は外気温とは隔絶された密閉空間である。氷点下20度近い温度で人が長時間生存することは困難だ。
しかし、不思議なことに。
失踪当夜、冷凍機は一部停止していたという証言がある。
関係者の一人は本誌の取材に対し、こう語った。
「あの日、なぜか一部の区画だけ温度が安定しなかった。
冷凍機が動いていないのに、冷気だけが満ちていたんです」
さらに別の作業員は、失踪直前の異様な音を証言している。
「誰もいない冷凍庫の奥から、ドン、ドンって扉を叩く音がした。
冗談かと思ったけど、音は内側からだった」
警察は機械的誤作動やいたずらの可能性を示唆したが、正式な説明はなされていない。
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第三章 消える前の兆候
失踪した五人には、共通する異変があった。
同僚の証言を総合すると、彼らは事件の数週間前から体調不良を訴えていたという。
倦怠感、微熱、頭痛。
しかし医療機関での検査では異常なし。
作業中、ふいに動きを止め、虚空を見つめる姿が何度も目撃されている。
「呼びかけても反応が遅い。
まるで誰かの話を聞いているみたいだった」
そのうちの一人、三十代男性は、家族にこんな夢の話をしていた。
荒れ果てた灰色の大地。
皮と骨だけになった老若男女が、地面を這い、呻き、のたうち回っている。
空はなく、光もない。
ただ冷たい風が吹き、凍り付いたような荒野が広がる。
その中心に、巨大な穴が口を開けている。
「みんな、あそこに戻るんだ」
男性はそう呟いたという。
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第四章 倉庫に棲むもの
北潟町冷凍冷蔵倉庫は、町の一大プロジェクトとして平成8年春に完成した。
広報誌には「予定通り完成」「町の未来を支える拠点」と華々しく掲載され、住民の期待も高かった。
だが、現場では以前から奇妙な現象が語られていた。
・ダクトの内部を何かが這うような音
・冷凍庫の奥から響く叩打音
・通路に立つ人影
・耳元での囁き
複数の従業員が同様の証言をしている。
中でも多いのが「囁き」の証言だ。
「名前を呼ばれた」
「帰れと言われた」
「ここは違うと言われた」
音源は特定できない。
監視カメラにも異常は映らない。
しかし、耳元で息を感じたという者は少なくない。
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第五章 神棚と読経
倉庫事務所の一角には、簡素な神棚が設けられている。
これは当初の設計にはなかった。
関係者によれば、開業後しばらくして設置されたものだという。
理由は「安全祈願のため」と説明されているが、内部事情を知る者は口を揃えて言う。
「夜間作業が怖かったからだ」
実際、夜間の冷凍作業時には、読経を録音したカセットテープが流されていた。
低く単調な読経が、巨大なコンクリート空間に反響する。
氷点下の白い空気の中で響く読経。
それでも異変は止まらなかった。
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第六章 消えた五人の最後
失踪当夜、防犯カメラは奇妙な映像を残している。
午前1時27分。
冷凍第二区画の通路を、五人が並んで歩く姿。
しかし、映像は途中で激しく乱れ、数秒間のノイズの後、通路は空になっていた。
編集痕は確認されていない。
五人は、同じ方向を見つめて歩いていたという。
そこには何も映っていない。
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第七章 町の沈黙
事件後、倉庫は一時的に稼働を停止した。
しかし、町の基幹施設であること、補助金事業であること、スポンサー企業の関与などが重なり、施設は数か月後に再開された。
公式見解は「集団失踪」。
事故でも事件でもない。
町は沈黙を選んだ。
広報誌には、失踪についての記述は一切ない。
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第八章 いまも続く音
本誌取材班が夜間に倉庫周辺を訪れた際、内部から微かな振動音が聞こえた。
稼働時間外である。
関係者は「冷媒循環音」と説明する。
だが、その音は一定ではなかった。
まるで、何かが内側から叩いているかのように。
ドン。
ドン。
ドン。
冷凍庫は、何かを保管する場所だ。
だが、もし。
あの建物が最初から――
「閉じ込める」ための器だったとしたら。
消えた五人は、どこへ行ったのか。
それは事故か。
事件か。
それとも――
凍りつくような沈黙だけが、北潟町の夜を包んでいる。
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(了)
月刊ルポルタージュ東北
平成9年4月号追跡特集
「冷凍庫の底」
― 消えた五人と、残された記録 ―
取材・文/編集部特別取材班
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第一章 内部資料A ― 捜索記録の矛盾
本誌は、県警関係者より提供を受けた内部資料の写しを入手した。
平成8年12月18日付
「北潟町冷凍冷蔵倉庫 失踪事案 捜索報告書(抄)」
その中に、公式発表には存在しない記述がある。
・冷凍第二区画中央部において床面下より空洞音を確認
・打診に対し反響あり
・内部温度測定時、一時的に−28℃を記録(機械停止状態)
・捜索員一名が耳鳴りおよび幻聴を訴える
さらに不可解なのは、最後の一文だ。
「内部より複数人の叩打音を確認。音源特定不可。」
この一文は、最終版の報告書から削除されている。
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第二章 家族の証言
失踪者の一人、佐々木(仮名)さんの妻は、本誌に語った。
「主人は夜中に何度も目を覚ましていました。
“呼ばれてる”って言うんです。
どこから?って聞くと、“下から”って。」
別の失踪者の母親は、こんな手紙を見せてくれた。
便箋の端に書かれた走り書き。
「床の下が鳴る。
空気が冷たいのに、汗が止まらない。
あの空洞は埋めたはずなのに。」
空洞。
それは建設時、設計図に存在しないと報告された地下空間を指すのか。
その空洞は、公式には「充填処理済み」となっている。
だが。
複数の従業員は言う。
「完全には埋まっていなかった」
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第三章 読経テープの異音
夜間作業中に流されていた読経テープ。
その一本を、元従業員が保管していた。
本誌は音響専門家に解析を依頼した。
結果。
読経の背後に、微弱な低周波ノイズが確認された。
速度を落とし、周波数を調整すると――
断続的な音声のようなものが浮かび上がる。
「……さむい」
「……ここ……」
「……あけて」
音響専門家は慎重に言葉を選びながら述べた。
「偶然のノイズが言語に聞こえることはあります。
ただし、この繰り返しの規則性は説明が難しい。」
録音日は、失踪当夜のものだった。
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第四章 ダクト内部調査
平成9年1月、倉庫は一時閉鎖された。
その際、ダクト内部の点検が実施されている。
点検報告書(社内用)より抜粋。
・内部に原因不明の擦過痕多数
・結露では説明不能な塩分結晶付着
・一部区間に体毛様繊維物質確認(分析不能)
ダクトは人が通れる大きさではない。
しかし、擦過痕は「内側から」伸びていたという。
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第五章 最後の映像
警察が押収した監視映像。
ノイズの直前、五人の視線は一点に集中していた。
そこは、床中央。
ちょうど、かつて空洞が報告された位置である。
解析画像を拡大すると、床面に微かな歪みが見える。
まるで、下から圧がかかっているかのように。
その直後、映像は乱れ、五人は消える。
切断痕なし。
編集痕なし。
物理的説明なし。
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第六章 再稼働
平成9年3月。
倉庫は静かに再稼働した。
神棚は以前より大きくなり、榊が絶えない。
夜間作業では、今も読経が流れているという。
だが、最近になって新たな証言が寄せられた。
「冷凍庫の奥に霜がつく形が、人の手に見える」
「ダクトから落ちる水滴が、赤く見えた」
「空の区画から、五人分の足音がする」
町はコメントを控えている。
スポンサー企業も沈黙している。
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終章 閉じ込められたもの
冷凍庫とは、腐敗を止める場所だ。
時間を止める場所。
もしあの建物が、
何かを封じ込めるために建てられたのだとしたら。
それは、保管庫ではない。
封印庫だ。
失踪した五人は、
“出て行った”のではない。
“下へ行った”のではないか。
あの、設計図にない空洞へ。
そして今も。
氷点下の底で、叩いているのかもしれない。
ドン。
ドン。
ドン。
(完)


