読者諸氏の皆々様!!ー
本日はまことに喜ばしき、いや訂正、誠に重大なる、しかしながら祝祭的とも言うべき案件を携えて参上いたしました次第でございます!!
私は地方紙の片隅に記事を書かせていただいております、駆け出しも駆け出し、まだ靴底の擦り減りも甘い新聞記者でございます。大学を卒業して二年が経とうとしております。二年。にねん。二回目の春が近づいているはずです。ええ、はずですとも。
さて!
本題に入らせていただきますと――
大学時代の友人から、実に興味深い小包が届いたのであります!
これは朗報です!!
ええ、朗報。なぜなら彼は現在、行方不明だからです!
……ああ、どうかご安心を。命に別状があるとは、現時点では考えておりません。考えておりませんとも。考えないことにしております。
小包は今朝、午前九時三分、もしくは九時五分頃に届きました。時計は確か九時三分を指していましたが、秒針が一瞬止まった気がいたしましたので五分かもしれません。時間というものは時折、足を滑らせるものですから。
差出人は、彼の名。
確かに彼の筆跡でした。少し震えておりましたが、元来そういう字を書く男でしたので、特段の異常とは言えません。言えませんよね?
小包は軽く、しかし妙に重かった。
比喩ではありません。軽いのに、腕に負担がかかる。重力が局所的に濃い、とでも申しましょうか。私は二階の自室へとそれを運び込み、机の上に置きました。机はわずかに軋みました。普段は軋まない机です。新品ですから。まだ二年しか使っていません。二年。
封はきちんと糊付けされておりました。几帳面な男でしたから。
カッターを入れる瞬間、妙な静寂がありました。外では通学途中の小学生の声がしていたはずなのに、そのときだけ、音が引き潮のように退いたのです。
それはさておき!
中には、テープがいくつか。カセットテープです。今どき珍しい。さらに封筒が三通。厚みのある封筒。そして、写真が数枚。
実にわくわくする内容ではありませんか!!
ああ、しかし本稿ではこれらの中身には触れません。触れませんとも。触れてしまうと順序が狂いますので。彼は順序を重んじる男でした。順番を。順番が崩れると、世界が裏返ると彼は言っていた。
裏返る。
あはは。
いえ、笑うところではありませんでした。
私はすぐさま彼に電話をかけました。もちろんです。受話器の向こうで呼び出し音が鳴り続けました。規則正しく、しかしどこか一拍多い。トゥルルル、トゥルルルル。余分な一音が混じっていた気がいたします。
応答はありませんでした。
メールも送りました。既読はつきません。
しかし、私は悲観しておりません!
彼は昔から、ふっと姿を消す癖があったのです。大学二年の夏も、三日間連絡が取れなかったことがありました。戻ってきた彼は、妙に晴れやかな顔をしておりました。まるで遠足帰りの子供のように。
「音が増えたんだ」
そう言っていた気がします。
音が、増える?
はて。
ともかく!
連絡がつかないからといって、即座に悲劇を想定するのは早計であります。新聞記者たるもの、事実を積み上げてから判断すべきです。私は冷静です。極めて冷静。
それでも念のため、私は彼の自宅を訪ねました。職業柄、足を運ぶことには慣れておりますから。
彼の住まいは、駅から徒歩十分ほどの古いアパートの二階。外階段は鉄製で、踏むと高い音が鳴ります。コン、コン、と。今日も鳴りました。三回。いつもは二回のはずなのに。
ポストには郵便物が溜まっておりませんでした。つまり最近まで出入りしていたということになります。安心材料です。実に喜ばしい。
玄関は――
開いておりました。
鍵が、かかっていなかったのです。
私はしばし逡巡いたしましたが、友人の安否確認という大義名分のもと、声をかけつつ中へ入りました。
「おーい!」
返事はありません。
室内は整然としておりました。生活感はありますが、どこか薄い。テーブルの上には何もなく、カーテンは半分閉じられている。冷蔵庫を開けると、同じメーカーのヨーグルトが三つ、きれいに並んでおりました。賞味期限はすべて同日。同時に買ったのでしょう。
几帳面。
彼らしい。
壁に、丸い跡がありました。直径十センチほどの円形の色抜け。何かを掛けていた形跡。複数。五つ。いや六つ。数え直すたびに増減いたしますが、これは光の加減でしょう。
私は写真のことを思い出しました。
いえ、触れません。まだ触れません。
部屋には匂いがありました。無臭の匂い、と申しますか。空気が均一すぎる。換気が行き届いているのかもしれません。
彼はどこへ行ったのでしょうか。
旅行? 出張? 取材?
ああ、そうだ。彼は最近、何かを調べていると言っておりました。
「聞こえる人を探している」
と。
私はそのとき、冗談だと思って笑いました。
今も笑っています。
大丈夫です。
彼はきっと戻ります。
この小包は、その前触れに違いありません。
もしくは招待状。
あるいは予告編。
いずれにせよ、素晴らしい出来事の始まりであることは疑いようがございません!!
読者諸氏の皆々様、どうか落ち着いてお読みください。私は落ち着いております。筆も滑らかに走っております。
ただ、時折、耳鳴りのような音がします。
キィン、という高い音。
テープの再生開始前の、あの空白に似た。
しかし再生はしておりません。まだ。順番がありますから。
彼は順番を大切にしておりました。
順番。
まずは、皆様に現状をご報告すること。
次に、資料の公開。
そして、彼の帰還。
完璧な構成です!!
どうかご安心ください。
彼は大丈夫です。
私は大丈夫です。
世界も、いまのところは。
――と、書いている最中に、机が再び軋みました。
軽いはずの小包が、わずかに沈んでおります。
気のせいでしょう。
ええ、気のせいですとも。
本章はここまでといたします。
次章にて、さらなる朗報をお届けできることを信じて疑いません!!
どうか、彼がこれを読んでいましたら、すぐにご連絡を。
電話でも、手紙でも、音でも構いません。
音でも。
それでは、ひとまず。
万歳。
本日はまことに喜ばしき、いや訂正、誠に重大なる、しかしながら祝祭的とも言うべき案件を携えて参上いたしました次第でございます!!
私は地方紙の片隅に記事を書かせていただいております、駆け出しも駆け出し、まだ靴底の擦り減りも甘い新聞記者でございます。大学を卒業して二年が経とうとしております。二年。にねん。二回目の春が近づいているはずです。ええ、はずですとも。
さて!
本題に入らせていただきますと――
大学時代の友人から、実に興味深い小包が届いたのであります!
これは朗報です!!
ええ、朗報。なぜなら彼は現在、行方不明だからです!
……ああ、どうかご安心を。命に別状があるとは、現時点では考えておりません。考えておりませんとも。考えないことにしております。
小包は今朝、午前九時三分、もしくは九時五分頃に届きました。時計は確か九時三分を指していましたが、秒針が一瞬止まった気がいたしましたので五分かもしれません。時間というものは時折、足を滑らせるものですから。
差出人は、彼の名。
確かに彼の筆跡でした。少し震えておりましたが、元来そういう字を書く男でしたので、特段の異常とは言えません。言えませんよね?
小包は軽く、しかし妙に重かった。
比喩ではありません。軽いのに、腕に負担がかかる。重力が局所的に濃い、とでも申しましょうか。私は二階の自室へとそれを運び込み、机の上に置きました。机はわずかに軋みました。普段は軋まない机です。新品ですから。まだ二年しか使っていません。二年。
封はきちんと糊付けされておりました。几帳面な男でしたから。
カッターを入れる瞬間、妙な静寂がありました。外では通学途中の小学生の声がしていたはずなのに、そのときだけ、音が引き潮のように退いたのです。
それはさておき!
中には、テープがいくつか。カセットテープです。今どき珍しい。さらに封筒が三通。厚みのある封筒。そして、写真が数枚。
実にわくわくする内容ではありませんか!!
ああ、しかし本稿ではこれらの中身には触れません。触れませんとも。触れてしまうと順序が狂いますので。彼は順序を重んじる男でした。順番を。順番が崩れると、世界が裏返ると彼は言っていた。
裏返る。
あはは。
いえ、笑うところではありませんでした。
私はすぐさま彼に電話をかけました。もちろんです。受話器の向こうで呼び出し音が鳴り続けました。規則正しく、しかしどこか一拍多い。トゥルルル、トゥルルルル。余分な一音が混じっていた気がいたします。
応答はありませんでした。
メールも送りました。既読はつきません。
しかし、私は悲観しておりません!
彼は昔から、ふっと姿を消す癖があったのです。大学二年の夏も、三日間連絡が取れなかったことがありました。戻ってきた彼は、妙に晴れやかな顔をしておりました。まるで遠足帰りの子供のように。
「音が増えたんだ」
そう言っていた気がします。
音が、増える?
はて。
ともかく!
連絡がつかないからといって、即座に悲劇を想定するのは早計であります。新聞記者たるもの、事実を積み上げてから判断すべきです。私は冷静です。極めて冷静。
それでも念のため、私は彼の自宅を訪ねました。職業柄、足を運ぶことには慣れておりますから。
彼の住まいは、駅から徒歩十分ほどの古いアパートの二階。外階段は鉄製で、踏むと高い音が鳴ります。コン、コン、と。今日も鳴りました。三回。いつもは二回のはずなのに。
ポストには郵便物が溜まっておりませんでした。つまり最近まで出入りしていたということになります。安心材料です。実に喜ばしい。
玄関は――
開いておりました。
鍵が、かかっていなかったのです。
私はしばし逡巡いたしましたが、友人の安否確認という大義名分のもと、声をかけつつ中へ入りました。
「おーい!」
返事はありません。
室内は整然としておりました。生活感はありますが、どこか薄い。テーブルの上には何もなく、カーテンは半分閉じられている。冷蔵庫を開けると、同じメーカーのヨーグルトが三つ、きれいに並んでおりました。賞味期限はすべて同日。同時に買ったのでしょう。
几帳面。
彼らしい。
壁に、丸い跡がありました。直径十センチほどの円形の色抜け。何かを掛けていた形跡。複数。五つ。いや六つ。数え直すたびに増減いたしますが、これは光の加減でしょう。
私は写真のことを思い出しました。
いえ、触れません。まだ触れません。
部屋には匂いがありました。無臭の匂い、と申しますか。空気が均一すぎる。換気が行き届いているのかもしれません。
彼はどこへ行ったのでしょうか。
旅行? 出張? 取材?
ああ、そうだ。彼は最近、何かを調べていると言っておりました。
「聞こえる人を探している」
と。
私はそのとき、冗談だと思って笑いました。
今も笑っています。
大丈夫です。
彼はきっと戻ります。
この小包は、その前触れに違いありません。
もしくは招待状。
あるいは予告編。
いずれにせよ、素晴らしい出来事の始まりであることは疑いようがございません!!
読者諸氏の皆々様、どうか落ち着いてお読みください。私は落ち着いております。筆も滑らかに走っております。
ただ、時折、耳鳴りのような音がします。
キィン、という高い音。
テープの再生開始前の、あの空白に似た。
しかし再生はしておりません。まだ。順番がありますから。
彼は順番を大切にしておりました。
順番。
まずは、皆様に現状をご報告すること。
次に、資料の公開。
そして、彼の帰還。
完璧な構成です!!
どうかご安心ください。
彼は大丈夫です。
私は大丈夫です。
世界も、いまのところは。
――と、書いている最中に、机が再び軋みました。
軽いはずの小包が、わずかに沈んでおります。
気のせいでしょう。
ええ、気のせいですとも。
本章はここまでといたします。
次章にて、さらなる朗報をお届けできることを信じて疑いません!!
どうか、彼がこれを読んでいましたら、すぐにご連絡を。
電話でも、手紙でも、音でも構いません。
音でも。
それでは、ひとまず。
万歳。


