雨と傘と君と

「うわっ」

 朝、目が覚めるときの気分は基本的に良くない。中でも今日は最悪だった。
 夢? 夢か、夢だったのか。
 何が?
 頭の中から抜けていく記憶を繋ぎ止めるように、純粋に夢の内容を思い出そうとした。風、カーテン、自習室――絹本。
 俺は枕に顔を埋めて唸った。思い出さなきゃよかった。

 ひとしきり後悔し終え、時計を確認しようと顔を上げた。布団の外の空気が冷たくない。もうすぐ春が来るらしい。
 冬布団の中は暑いし、いつもなら朝食をとっている時間でもある。今すぐにでも脱出したい。なのに、なかなか布団から這い出る気になれなかった。夢の続きを見たいと、少しだけ思ってしまった。
 そんな俺を急き立てるように、階段を登ってくる足音が聞こえた。きっと母が起こしに来たのだろう。
 小言を言われたくなくて、布団を飛び出して勢いよくドアを開けた。母と目が合った。

「起きてる」

「だったら早く降りてきなさんな」

 母は呆れたように眉間に皺を寄せると、俺に背を向けて階段を降りた。正論だった。