雨と傘と君と

 手当は案外簡単に終わった。思えば、保健室を訪れたことは今までなかったかもしれない。大したことない傷でも来ていいんだ、と今更ながら思った。
 養護教諭の「お大事にー」という義務的な声に送り出され、来た道を戻る。
 保健室に入る直前の言葉がどうしても気になって、訊いてみた。

「さっき、絶対なんか言おうとしただろ」

「あー……上崎、最近自習室来ないよな」

 直前の会話と繋がらないから、きっと誤魔化されているのだと思う。だが、それを言う気にはなれなかった。
 彼と最後に会ったのは傘を返してもらった昼休み。仲良くなりたいというような姿勢を示してくれた彼に対し、距離を取っているような行動を続けていることに引け目があった。
 俺はずっと考えていた言い訳を使った。

「考査近いし。家の方が集中できるから」

 大嘘だった。家で、静かな場所で一人になると彼のことを思い出して、何をしていても気が散る。前回の小テストもその兆候だったのかもしれない。

「そっか」

 シンプルな返事だった。けれど、話はそこで終わらなかった。

「今日も一瞬上の空っぽかったし。体調悪いんじゃないかって心配だった」

 なんかバレてる。
 このままだと本当のことがバレるのも時間の問題かもしれないと、慌てた俺は取り繕うように言葉を吐いた。

「絹本が気にすることじゃないから」

 それが多分、失敗だった。