帝都鵺恋綺譚

 とおりゃんせ――
 ここはどこの 咎道じゃ
 彼岸の手前で とおりゃんせ 
 とおりゃ……ん……せ

 雨は、すべてを洗い流してはくれなかった。
 
 湿った土の匂い。
 庭に咲き乱れる彼岸花の、不吉な赤。
 
 少年の視線の先で、彼よりもさらに幼い身体が震えていた。
 擦りむいた肘から滴る、一滴の紅。
 
「……っ」
 
 あれに、触れてはいけない。
 決して。
 
 そう命じる理性を、喉の奥からせり上がる凶暴な飢えが嘲笑う。
 
 駆け寄り、跪き、その熱を舌先で掬い取った瞬間――。
 彼の記憶の深い場所に、永遠に消えない呪いを宿した。
  
 遠くで、聞こえるかそけき歌声。

 ――彼岸の手前で とおりゃんせ
 
 あの日から。
 鳴神朔夜(なるがみさくや)は、夜毎、彼を支配しようとする甘い毒に、責め立てられている。