マヨヒガ

※本章は、第16章以降のデータ整理および関係者への再取材をまとめたものである。
※主観的解釈を極力排し、確認可能な事実のみ記載する。

1 映像の再解析

 5月6日午前。

 第16章で記録した夜間踏査映像を、専門業者に依頼しデータ復旧を試みた。

 破損部分は完全復旧不可。

 だが、断片フレームが数枚抽出された。

 以下、抜粋。

フレーム01

 居間。
 畳。
 座布団五枚。

フレーム02

 中央に座る人物。
 スーツ。
 右手に荒縄。

フレーム03

 襖の内側。
 吊られた影。

フレーム04

 縁側。
 2016年の四人が立っている。

 フレーム04が特に問題である。

 2016年映像に存在しない角度からの映像。

 縁側中央に男性B。

 その隣に――

 私。

 スーツ姿。

 荒縄を持っている。

2 男性BのLINEログ

 佐藤(男性1)から、失踪直前のLINE履歴を再送してもらった。

 最後のメッセージ。

『用事、思い出し。還ります』

 だが、履歴をさらに遡ると、未確認のメッセージが存在する。

『やっと来た』

 送信日時は、2016年8月。

 しかし、当時の佐藤の端末には表示されていなかったという。

 バックアップ復元時にのみ出現。

 2016年8月。

 古民家訪問の夜。

3 女性Dの追加証言

 再度、女性Dへ取材。

私「2016年の夜、襖を開けたのはあなたですか」

女性D「……はい」

私「中に何を見ましたか」

女性D「Bが……吊られてた」

私「それだけですか」

女性D「……違う」

沈黙。

私「他に誰がいましたか」

女性D「誰か、座ってた」

私「誰ですか」

女性D「……先生、でした」

 私は取材を一時中断した。

4 男性Aの所在

 男性Aは2016年以降、行方が分かっていない。

 住民票は残っているが、連絡は取れない。

 SNSアカウントは2016年8月を最後に停止。

 最終投稿。

懐かしい。

5 時間の重複

 2016年映像を再度精査。

 車内シーン。

 女性C「男性Bのおじいちゃん家、泊まりに行くの楽しみ!」

 後部座席窓の反射。

 五人目の影。

 拡大。

 スーツ。

 荒縄。

 フレームを重ねると、第16章の静止画と輪郭が一致する。

 すなわち、

 2016年の車内に、2026年の私が映っている。

6 昭和写真の再検証

 男性Eから送られた昭和九年の写真。

 専門家による鑑定。

 印画紙、インク、劣化具合ともに当時のもの。

 加工痕なし。

 拡大。

 中央の青年(男性B)の背後。

 もう一人。

 輪郭のみ。

 だが、スーツの肩と結び目。

 荒縄。

 顔は不鮮明。

7 円環仮説の修正

 これまでの仮説。

 2016年 → 2026年 → 昭和初期。

 だが新たなデータは、円環が三点で閉じていないことを示す。

 2016年の時点で、既に2026年の私が存在している。

 つまり、

 円環は過去から始まらない。

 常に存在している。

 迷い家は時間の外側にある可能性がある。

8 記録者の自覚

 私は映像を繰り返し見る。

 縁側中央。

 座布団五枚。

 中央に座る私。

 私はまだ現地に一度しか襖を開けていない。

 だが映像では既に座っている。

 男性Bが言う。

「やっと来た」

 これは2016年の夜か。

 2026年の霧夜か。

 それとも昭和九年か。

9 録音データ

 第16章の録音。

 空白20分の直前。

私「……B?」

 別の声。

「やっと来た」

 音声解析。

 声紋一致率87%。

 私の声である。

 だが、私は発声した記憶がない。

10 暫定整理

 一、2016年映像に未来の私が映る。
 二、昭和写真にも同様の輪郭がある。
 三、女性Dは2016年に私を見たと証言。
 四、録音に私の声が重複。
 五、時間順序が成立しない。

 迷い家は時間の接点ではなく、

 時間そのものの断層である可能性がある。

 往く者も還る者も、同時に存在する。

11 現在

 私はいま、この原稿を書いている。

 だが映像の中の私は既に縁側に座っている。

 襖の前で待っている。

 荒縄を持って。

 男性Bが言う。

「還るんだよ」

 私はまだ帰っていない。

 だが、還っている可能性がある。

 次章で、この記録は終わる。

 あるいは、始まる。

 襖の向こうに。