マヨヒガ

※本章は、2026年5月5日深夜に実施した二度目の現地踏査の記録である。
※録音・映像ログを時系列順に記載する。
※主観的解釈は極力排する。

5月5日 午後10時18分

 自宅出発。

 天候:曇り。
 山間部は夜半より濃霧予報。

 装備:
 ・ハンディカメラ
・三脚
・ICレコーダー
・予備バッテリー
・LEDライト

 目的:
 井戸跡周辺の夜間観測。

午後11時47分 山道進入

 ナビ正常。

 だが山に入ると通信が途切れる。

 画面白地。
 青い矢印のみ。

 前回と同じ現象。

 録音。

私「ナビ、白地表示確認。再現性あり」

 矢印は、道なき場所を進む。

 私はそのまま進行。

午前0時19分 現地到着

 更地。

 霧あり。

 視界約10メートル。

 井戸跡確認。

 カメラ設置。

 固定撮影開始。

午前0時27分

 霧が急激に濃くなる。

 録音には風音のみ。

 私は井戸の縁に立つ。

 前回と同様、身体が自然に歩く。

 玄関位置。

 六歩。

 左へ三歩。

 蔵。

 私は立ち止まる。

 何もない。

 だが、音がある。

 低い太鼓。

 遠い。

午前0時31分

 映像確認(その場で再生)。

 画面奥、霧の向こうに直線。

 屋根の軒。

 縁側の影。

 映像には、家が半透明で写っている。

 肉眼では確認困難。

 だが画面上にはある。

 私は三脚を移動。

 縁側があったはずの位置へ。

午前0時34分

 録音。

私「縁側位置、空間密度が違う」

 足元の地面が固い。

 更地の土ではない感触。

 私は手を伸ばす。

 空中に何か触れる。

 冷たい木材の感触。

 目視では霧のみ。

 カメラを向ける。

 画面には柱。

午前0時37分

 居間に相当する位置へ移動。

 カメラ映像には畳の縁が見える。

 肉眼では更地。

 私は一歩踏み込む。

 足が沈む。

 畳の感触。

 同時に、現実の土の感触。

 二重。

 録音に私の息遣いが入る。

午前0時40分

 奥の襖位置へ。

 霧が裂ける。

 木枠の輪郭がはっきりする。

 私は襖の前に立つ。

 録音。

私「ここが開かずの間」

 背後で足音。

 振り向く。

 更地。

 だが映像には、居間に四人の影。

 男性B、男性A、女性C、女性D。

 2016年の姿。

 男性Bがこちらを見る。

 口が動く。

 音声はない。

午前0時42分

 非通知着信。

 電話に出る。

 無音。

 やがて声。

「開けないで」

 女性Dの声に似ている。

 通話切断。

 履歴なし。

午前0時44分

 私は襖に手をかける。

 手のひらに冷たい感触。

 木目。

 確実に存在する。

 カメラを襖へ向ける。

 画面には完全な襖。

 中央にわずかな隙間。

 内側は暗い。

 囃子がはっきり聞こえる。

 2016年映像と同一旋律。

午前0時46分

 録音。

私「今、襖に触れている」

 背後から声。

「絶対に開けないで」

 振り向く。

 誰もいない。

 再び襖へ。

 手が震える。

 だが、開ける。

午前0時47分

 襖が数センチ開く。

 中は暗い。

 ライトを差し込む。

 吊られた影。

 スーツ姿。

 首元の結び目。

 TikTok映像と同一。

 顔は見えない。

 私は一歩踏み込む。

 その瞬間、映像が乱れる。

午前0時48分

 カメラ映像断絶。

 録音のみ継続。

 録音抜粋:

(荒い息)
私「……B?」

 別の声。

「やっと来た」

 私の声ではない。

午前0時52分

 映像復帰。

 更地。

 霧は薄い。

 襖も家もない。

 私は井戸跡の前に立っている。

 三脚は倒れている。

 カメラのレンズに土。

 時計を見る。

 午前1時13分。

 約20分の空白。

帰路

 ナビは正常。

 山を下る。

 バックミラーに、後部座席の影。

 私は振り向かない。

データ確認(帰宅後)

 撮影ファイル。

 午前0時47分以降の映像は破損。

 だが、最後のフレームに一枚の静止画が残っている。

 居間。

 座布団が五枚。

 中央に座る人物。

 スーツ姿。

 右手に荒縄。

 顔は――

 私である。

暫定整理

 一、夜間に家が部分的に可視化。
 二、襖に物理的接触あり。
 三、20分間の記録空白。
 四、静止画に自分が写る。
 五、2016年の四人の影を確認。

 私は襖を開けた。

 それは事実である。

 だが、その先に何があったかは記録されていない。

 あるいは、記録されたが、消えた。

 還るという語が頭から離れない。

 私はまだここにいる。

 だが、あの静止画の中の私は、既に座っている。

 次章では、時間の整合性崩壊について整理する。

 もし私が既に還っているならば――
 この記録は誰が書いているのか。