マヨヒガ

※本章は、2026年4月28日夜から5月2日までの記録を、
 時系列順にまとめたものである。
※推測を避け、事実のみ記す。

4月28日 午後8時17分

 自宅帰着。

 機材を確認。
 SDカード内の映像データをバックアップ。

 現地で撮影した映像は三本。

 再生。

 更地。
 井戸。
 霧。

 異常なし。

 だが、一本目のファイルの再生時間が、撮影時より長い。

 撮影時間:14分32秒。
 ファイル再生時間:16分08秒。

 差分1分36秒。

 後半を再生。

 霧の中、固定カメラ映像。

 私の姿は映っていない。

 カメラは更地中央を向いている。

 その画面の奥、霧がわずかに裂ける。

 屋根の輪郭。

 縁側。

 開いた引き戸。

 映像は無音。

 1分36秒後、再び更地。

 私はこの映像を撮っていない。

4月28日 午後9時02分

 女性Dからメッセージ。

行きましたよね。

「行きました」

霧、出ました?

「出ました」

家、ありましたよね?

 返信できず。

4月29日 午前1時10分

 夢。

 2016年の車内。

 男性Bが眠っている。

 女性Cが笑う。

 男性Aがカメラを回す。

 後部座席に、私が座っている。

 私はスーツ姿である。

 右手に荒縄。

 目が覚める。

 心拍数が高い。

4月29日 午後7時33分

 USBを再確認。

 新しいフォルダが生成されている。

 フォルダ名:_RETURN

 作成日時:4月28日 15時21分(現地踏査中)。

 中にファイル一本。

 再生。

 室内映像。

 居間。

 畳。

 湯呑が机に置かれている。

 座布団が四枚。

 視点は縁側。

 カメラはゆっくり室内へ進む。

 奥の襖。

 襖がわずかに開いている。

 映像はそこで終わる。

 この映像を撮影した記憶はない。

4月30日 午前0時22分

 男性Eから着信。

「先生、祖母の古いアルバム見つけました」

 写真を送ってくる。

 昭和初期の集合写真。

 山中の家の前。

 中央に立つ青年。

 男性Bである。

 私は確認する。

「これは合成ではありませんか」

「いえ、アルバムに貼ってあったものです」

 写真裏面に日付。

 昭和九年。

 男性Bは1994年生まれである。

4月30日 午前2時

 ブログ管理画面にログイン。

 記事タイトルが自動的に変更されている。

『マヨヒガ 還る家の記録』

 私は「記録」としか書いていない。

 「還る家」という語は本文中にはあるが、タイトルにはしていない。

 編集履歴に、私のアカウント以外のログイン記録はない。

5月1日 午後6時12分

 女性Cからボイスメッセージ。

あの夜、Bがいなくなったとき、
 一瞬、縁側に立ってたんです。
 スーツで。

「スーツ?」

うん。2016年なのに、
 今みたいな。

 私は沈黙する。

5月1日 午後11時54分

 自室。

 背後で畳の擦れる音。

 振り向く。

 フローリングである。

 音は続かない。

 机上の古写真が落ちている。

 私は触れていない。

 写真を拾う。

 そこに写る男性Bの背後に、もう一人。

 輪郭のみ。

 スーツの肩。

 荒縄の先端。

5月2日 午前0時41分

 録音メモ。

「踏査後、現地映像に未撮影部分が追加された。
 USB内に_RETURNフォルダ生成。
 昭和写真と男性B一致。
 時間整合性崩壊。」

 再生。

 私の声の後ろで、低い囃子。

 音量を上げる。

 微かに。

「オーンサーンヤリカケロー」

 録音当時、私は唱えていない。

5月2日 午前1時

 夢。

 居間。

 湯呑が四つ。

 座布団が四枚。

 私は五枚目に座っている。

 男性Bが言う。

「まだ、開けてないよね」

 襖。

 ゆっくりと開く。

 中に吊られたスーツ姿。

 顔は見えない。

 だが、首元の結び目は知っている。

 TikTok映像と同じ。

暫定整理

 一、現地映像に未撮影映像が追加された。
 二、USBに_RETURNフォルダ生成。
 三、昭和写真に男性Bが写る。
 四、証言にスーツ姿の目撃情報。
 五、記録者の夢に襖が出現。

 私はまだ襖を現実で開けていない。

 だが、映像では既に開きかけている。

 2016年の彼らは、開けた。

 その先に、Bはいた。

 では2026年の私は何を開けるのか。

 踏査は未完である。

 次章では、再訪を行う。

 霧の夜に。