※本章は、2026年4月28日に実施した現地踏査の記録である。
※録音・映像記録の書き起こしを中心に構成する。
1 出発
午前10時12分
都内発。
私はレンタカーを借り、井戸跡の推定座標へ向かった。
天候は曇り。午後から霧の予報。
車内に録音機を設置。
「これより、失踪事例2026-01に関する現地踏査を開始する」
自分の声がわずかに硬い。
2 山道
午後2時03分
山道へ進入。
ナビは正常に作動している。
だが、山に入った途端、通信状況が不安定になる。
画面の地図表示が一瞬白くなる。
青い矢印だけが表示される。
私は一瞬、手を止めた。
2016年映像と同じ表示。
再読み込み。
地図は復帰する。
偶然である可能性が高い。
3 更地
午後2時27分
推定地点到着。
そこは確かに更地であった。
雑草が生い茂り、建物の痕跡はない。
だが、中央付近に円形の石組みがある。
井戸跡。
私は写真を撮影し、石組みの直径を測定した。
約90センチ。
井戸としては標準的。
周囲に基礎の残骸は見当たらない。
建物が存在した痕跡は薄い。
4 録音メモ
午後2時41分
「更地。家はない。
井戸のみ存在。
視覚的異常なし」
記録は冷静である。
しかし、ここに立っていると奇妙な感覚がある。
懐かしい。
私はこの場所に来たことがあるのではないか。
足の運びが自然である。
玄関があったはずの位置に、無意識に立つ。
六歩進む。
何もない。
だが、身体はそこで止まる。
5 霧
午後3時12分
急速に霧が発生。
視界が白くなる。
気温が下がる。
録音に風音が混じる。
ナビ画面が再び白地になる。
青い矢印のみ。
私はエンジンを止める。
霧の中、石組みがぼんやりと浮かぶ。
その向こうに――
影。
私は瞬きをした。
影はない。
6 映像記録
カメラを回す。
更地を360度撮影。
再生確認。
通常の更地。
だが、再生をもう一度行う。
フレームの端、霧の中に直線。
屋根の軒に見える。
拡大。
ノイズ。
もう一度再生。
今度は何もない。
7 井戸
私は井戸の縁に立つ。
中を覗く。
暗い。
深さは不明。
小石を落とす。
数秒後、音。
水音は聞こえない。
井戸は塞がれている可能性がある。
だが、底は見えない。
霧が井戸の中へ流れ込む。
その瞬間、背後で音。
「……カタン」
振り向く。
何もない。
だが、視界の端に木製の柱のような影が一瞬見えた。
瞬きをする。
更地。
8 録音抜粋
午後3時21分
私「いま、何か見えた」
無音。
私「家の……柱のような」
録音を確認。
私の声のみ。
環境音に異常なし。
9 間取りの再現
霧の中で、私は無意識に歩き始めた。
玄関があった位置。
六歩。
左へ三歩。
蔵。
右奥へ。
襖。
そこに立つ。
何もない空間。
だが、空気の密度が違う。
耳鳴り。
遠くで囃子の低音。
私は立ち止まる。
背後から声。
「絶対に開けないで」
振り向く。
霧。
誰もいない。
10 映像確認
車内に戻り、直前の映像を確認。
更地。
私が一人で歩いている。
だが、一箇所、不可解な点。
襖の位置に立った瞬間、霧の中に直線が現れる。
四角い枠のような影。
一瞬。
次のフレームでは消えている。
11 電話
午後3時37分
携帯電話が鳴る。
着信表示:非通知。
出る。
無音。
数秒後、微かな声。
「還る?」
通話は切れる。
通話履歴は残っていない。
12 撤退
霧がさらに濃くなる。
視界は数メートル。
私は撤退を決める。
エンジンをかける。
ナビは現在地を示さない。
青い矢印が白地を漂う。
私は道を知っている。
来た道を戻る。
だが、途中で一瞬、同じ曲がり角を二度通った感覚。
時間が歪む。
再び舗装路へ出る。
ナビ復帰。
13 帰路
午後5時02分
山を離れる。
霧は晴れている。
私は後部座席のミラーを見る。
誰もいない。
だが一瞬、スーツの肩が映った気がした。
瞬き。
消える。
14 総括(暫定)
一、現地は公式には更地である。
二、井戸跡が存在する。
三、霧発生時、視覚的異常が確認された(記録上は不明瞭)。
四、非通知着信あり(履歴未保存)。
五、記録者は間取りを身体で把握している。
私は家を見たとは断言できない。
だが、家が「ない」とも断言できない。
霧の中、何かが立ち上がりかけていた。
井戸の上。
縁側中央。
奥の襖。
私はまだ開けていない。
だが、襖の前に立った。
それは事実である。
次章では、踏査後に発生した異常現象を整理する。
家は、現地だけにあるのではない可能性がある。
※録音・映像記録の書き起こしを中心に構成する。
1 出発
午前10時12分
都内発。
私はレンタカーを借り、井戸跡の推定座標へ向かった。
天候は曇り。午後から霧の予報。
車内に録音機を設置。
「これより、失踪事例2026-01に関する現地踏査を開始する」
自分の声がわずかに硬い。
2 山道
午後2時03分
山道へ進入。
ナビは正常に作動している。
だが、山に入った途端、通信状況が不安定になる。
画面の地図表示が一瞬白くなる。
青い矢印だけが表示される。
私は一瞬、手を止めた。
2016年映像と同じ表示。
再読み込み。
地図は復帰する。
偶然である可能性が高い。
3 更地
午後2時27分
推定地点到着。
そこは確かに更地であった。
雑草が生い茂り、建物の痕跡はない。
だが、中央付近に円形の石組みがある。
井戸跡。
私は写真を撮影し、石組みの直径を測定した。
約90センチ。
井戸としては標準的。
周囲に基礎の残骸は見当たらない。
建物が存在した痕跡は薄い。
4 録音メモ
午後2時41分
「更地。家はない。
井戸のみ存在。
視覚的異常なし」
記録は冷静である。
しかし、ここに立っていると奇妙な感覚がある。
懐かしい。
私はこの場所に来たことがあるのではないか。
足の運びが自然である。
玄関があったはずの位置に、無意識に立つ。
六歩進む。
何もない。
だが、身体はそこで止まる。
5 霧
午後3時12分
急速に霧が発生。
視界が白くなる。
気温が下がる。
録音に風音が混じる。
ナビ画面が再び白地になる。
青い矢印のみ。
私はエンジンを止める。
霧の中、石組みがぼんやりと浮かぶ。
その向こうに――
影。
私は瞬きをした。
影はない。
6 映像記録
カメラを回す。
更地を360度撮影。
再生確認。
通常の更地。
だが、再生をもう一度行う。
フレームの端、霧の中に直線。
屋根の軒に見える。
拡大。
ノイズ。
もう一度再生。
今度は何もない。
7 井戸
私は井戸の縁に立つ。
中を覗く。
暗い。
深さは不明。
小石を落とす。
数秒後、音。
水音は聞こえない。
井戸は塞がれている可能性がある。
だが、底は見えない。
霧が井戸の中へ流れ込む。
その瞬間、背後で音。
「……カタン」
振り向く。
何もない。
だが、視界の端に木製の柱のような影が一瞬見えた。
瞬きをする。
更地。
8 録音抜粋
午後3時21分
私「いま、何か見えた」
無音。
私「家の……柱のような」
録音を確認。
私の声のみ。
環境音に異常なし。
9 間取りの再現
霧の中で、私は無意識に歩き始めた。
玄関があった位置。
六歩。
左へ三歩。
蔵。
右奥へ。
襖。
そこに立つ。
何もない空間。
だが、空気の密度が違う。
耳鳴り。
遠くで囃子の低音。
私は立ち止まる。
背後から声。
「絶対に開けないで」
振り向く。
霧。
誰もいない。
10 映像確認
車内に戻り、直前の映像を確認。
更地。
私が一人で歩いている。
だが、一箇所、不可解な点。
襖の位置に立った瞬間、霧の中に直線が現れる。
四角い枠のような影。
一瞬。
次のフレームでは消えている。
11 電話
午後3時37分
携帯電話が鳴る。
着信表示:非通知。
出る。
無音。
数秒後、微かな声。
「還る?」
通話は切れる。
通話履歴は残っていない。
12 撤退
霧がさらに濃くなる。
視界は数メートル。
私は撤退を決める。
エンジンをかける。
ナビは現在地を示さない。
青い矢印が白地を漂う。
私は道を知っている。
来た道を戻る。
だが、途中で一瞬、同じ曲がり角を二度通った感覚。
時間が歪む。
再び舗装路へ出る。
ナビ復帰。
13 帰路
午後5時02分
山を離れる。
霧は晴れている。
私は後部座席のミラーを見る。
誰もいない。
だが一瞬、スーツの肩が映った気がした。
瞬き。
消える。
14 総括(暫定)
一、現地は公式には更地である。
二、井戸跡が存在する。
三、霧発生時、視覚的異常が確認された(記録上は不明瞭)。
四、非通知着信あり(履歴未保存)。
五、記録者は間取りを身体で把握している。
私は家を見たとは断言できない。
だが、家が「ない」とも断言できない。
霧の中、何かが立ち上がりかけていた。
井戸の上。
縁側中央。
奥の襖。
私はまだ開けていない。
だが、襖の前に立った。
それは事実である。
次章では、踏査後に発生した異常現象を整理する。
家は、現地だけにあるのではない可能性がある。



