僕のたった1人のフォロワー

 雪が溶け始めた頃。卒業式も終わり今日から僕達は三年生になる。
 「次も一緒のクラスなれるかな?」
 「なれるよ、きっと」
 「もしなれなくてもまた一緒に部活やろうね」
 「そだね、碧くんがそう言ってくれるの嬉しい」
 僕達はいつものように一緒に登校していた。僕が寒くないようにと陽太くんは手も繋いでくれている。
 「よっ、熱々カップルさん」
 「あ、池田くん」
 後ろから声をかけてきたのは池田くんだった。修学旅行以来からはずっと仲良くさせてもらってる。僕達が付き合ってることを知ってる数少ない人。
 「あれ?お前は一緒じゃねえんだ」
 「あいつの家反対側って言ったろ、だから無理なの」
 「あれ?そうだっけ?」
 「そーそー、じゃ先行ってるわ」
 そう言って池田くんはそのまま学校まで走っていってしまった。
 「行っちゃった」
 「まあ俺達はゆっくり行こっか」
 「うん」
 そう言って僕はそのまま歩きだそうとしたが陽太くんは足を止めたまま動かない。
 かと思えば突然繋いでいた手を上げ指と指を絡めて繋ぎなおした。
 「こっちのほうがいいでしょ、恋人繋ぎ」
 「だ、誰かに見られたら………」
 「大丈夫、碧くんのこと笑うやつなんて俺がやっつけてあげる」
 「……ありがと」
 「今日もかわいいね」
 不意打ちのようなその言葉に僕は一瞬照れて固まる。僕はその赤い顔を隠すように(うつむ)きながらボソッとつぶやく。
 「陽太くんも……かっこいいよ」
 「え」
 どうやら聞こえてたらしい、見えないしっぽがブンブンと激しく振られてるような気がする。
 「ほんとかわいい」
 パシャリとシャッターの音まで鳴っている。周りの目線も感じるから勘弁してほしい。
 「これプイッターとかピンスタにあげていい?」
 「えっ、なんで」
 「俺の彼氏かわいすぎって自慢したいなーって」
 「えー……」
 「嫌?」
 「嫌じゃないけど、バレたらヤバいんじゃ」
 ただでさえ校内で有名な陽太くんなんだからアカウントなんて知れ渡ってそうだ。そんなアカウントで僕のことを投稿されたら刺されるのでは………
 「大丈夫だよ、もうバレてるし」
 「えっ」
 「池田と鈴島くらいしか知らないって思ってるでしょ、みんな俺らのこと知ってるよ」
 「……マジ?」
 「マジ」
 衝撃の事実だ、まさかバレていたとは………それならもう恥ずかしいとかないか。
 「じゃあ大丈夫なのか………」
 「うわあああああ!!!」
 「!?」
 突然後ろから叫び声が上がったと思えばナイフを持った女子が僕目掛けて走ってくる。
 「避けて」
 ただ僕に届く前に陽太くんがナイフを振り払い取り押さえる。
 「もうこんなことしないでね」
 「はい……♡」
 「じゃあ行こっか」
 「う、うん………」
 (恥ずかしいとかはないけど逆に怖くなってきたな)
 守ってくれるのは嬉しいけど、流石に今回みたいにいつも襲われてたらまずい、護身術でも習おうかな。

 ようやく学校に到着したがやはりクラス分けが書かれた表の前は人でいっぱいだ。上の方がギリギリ読めるかな?ってくらい。
 「飲み込まれんでね」
 そう言って僕の手を握る陽太くんの力は少し強くなる。
 人混みをかき分けてようやく全部読める場所まで来れた。
 「えーっと………」
 必死に僕と陽太くんの名前を探す。一組にはいない、この学校は四クラスあるからここにいないならまだ二人一緒の確率は高くなった。
 (二組は……)
 二組のクラス分けを上から探していると途中池田くんの名前が見える。だが僕達の名前はない。
 「どんな感じ?」
 「い、池田くんが二組だって、一組も見たけど僕達はまだ見つけれてない」
 「へーじゃあニブイチで一緒じゃん」
 流石に二分の一なら一緒になれるはず。僕は期待を膨らませ三組の表を見る。

 「いやーよかったねー」
 「……よくない」
 二分の一は外れてしまい、僕と陽太くんは離れ離れになってしまった。
 「でも俺いるじゃん、池田は二組だろ?知ってるやついないよりかはさ」
 「それはそうだけど」
 一緒のクラスになった鈴島くんが必死にフォローしてくれるが納得がいかない。
 「抗議しようかな……」
 「やめとけー、部活一緒になればいいじゃん」
 「でも………」
 「俺だって池田と初めて離れてさ、寂しいよ」
 「えっ、そうなの?」
 鈴島くんが寂しがるなんて珍しい。コミュ力高いから誰と一緒でも退屈しないと思ってたのに。
 「そーだよー?付き合ってるし」
 「………えっ」
 「え?」
 「ええ!?!?」
 衝撃の事実だった。まさかそこの二人も付き合ってたなんて。
 「い、いつから?」
 「んー秘密。お前らよりかは後だけどね」
 「教えてよー」
 「やだねー」
 僕達が席でそんな話をしていると突然、木野村先生が慌てた様子で教室に入ってきた。
 「皆さんに連絡です、学校側のほうでちょっとクラス分けにミスがあったので訂正させてもらいます」
 (ミス……?どんなミスだろ……)
 先生のその言葉に教室中がざわめく。そして扉からある生徒が入ってきた。
 「えー四組から人数の調整の関係で西宮陽太くんが三組に編入することとなりました」
 「えっ」
 「ういーっす」
 「連絡は以上です。では席に着いてください」
 「よかったな、大逆転じゃん」
 「え、え???」
 まだ状況が飲み込めていない。僕が固まっているまま隣に陽太くんが座ってきた。
 「隣だね、碧くん」
 「しかも隣じゃんよかったね」
 「よ、よろしく……」
 まさかこんな奇跡が起こるなんて思ってもなかった。ただ池田くんは二組のままらしい………
 「なんで俺だけ二組なんだよ」
 「日頃の行いだろ」
 「別に悪いことしてねーし」
 「でもあんなことあるんだね」
 人数調整で人が移るなんて初めて聞いた。しかも陽太くんが来るなんて。
 「あー、なんか急に転校したやついたらしくてそのせいだってさ」
 「なるほど?」
 池田くんの情報は定かではないけどそんなことよりまた陽太くんと同じクラスになれただけでも幸せだ。
 「じゃあ帰りにレタバでも寄りますか!」
 「賛成!」
 「行こっか」
 「うい」
 そして僕達は学校近くのレタバへ入ったのだがその時突然前から歩いてきた人にぶつかってしまった。
 「うわっ」
 「ご、ごめん!大丈夫……?」
 僕の制服はクリームやコーヒーでべちゃべちゃになってしまった。ぶつかった人もそれを見て慌てた様子で店員さんを呼びに行ってくれた。

 「ごめんね、前見てなくて」
 「いえ、こっちこそ……」
 「大丈夫?碧くん、怪我とかない?」
 「はい、大丈夫です」
 僕がそう言うとその人はホッとした表情で立ち上がる。
 「あのさ、群青高校の子だよね」
 「えっ、はい」
 「ならうち近くだから服あげるよ」
 「えっ、いや大丈夫です!」
 「先輩としてさ、弁償させてよ」
 「え、先輩?」
 先輩という言葉に驚いていると何か気づいたのか池田くんが口を開いた。
 「佐野先輩ですか?」
 「うん、そうだよ?」
 「?」
 三人でピンと来ないでいるとその人のほうから僕達に話してきた。
 「まあ陸上部だったから仕方ないか、君達サッカー部だよね、この前やってるの見たよ」
 「まあ、はい」
 「それより着替えのほうが先か、着いてきて」
 佐野先輩に連れられ僕は先輩の車の助手席に乗せられる。残った三人は後ろでむさ苦しそうに座る。
 「あ!思い出した、陸上部のマネだったっていう?」
 「そうだよー」
 「ああ」
 そういえば僕がマネージャーやるってなった時もそんな話されて入ったような。
 「そういえば名前は?」
 「あ、常磐です」
 「常盤くんはどのポジションなの?」
 「マ、マネージャーです」
 「同じじゃん、それに四人組も懐かしいな」
 佐野先輩は僕とバックミラーを見て遠くを見つめるような目で運転する。
 「俺も四人組でいたんだけどさ……」
 「うっ………」
 「し、心中お察ししま………」
 鈴島くんがそう言いかけると佐野先輩は急にクスッと笑いだした。
 「いやいや、死んでないから!ただ上京してっただけ」
 「そうなんですね」
 「うん、俺もしようかなって思ったんだけど親のこととか考えるとここに残ったほうが楽なんだよね」
 そんな話をしていればあっという間に大豪邸の前で車が止まった。
 「降りていいよ」
 「この近くに家が?」
 「家の前で停めたらいいんじゃないですか?」
 僕と陽太くんがそう聞くと佐野先輩はキョトンとした顔で僕らを見る。
 「うん?だから停めたよ」
 「「えっ」」
 「ここが俺ん家」
 「「えー!?!?」」
 流石にこれにはみんなびっくりしたみたいで四人で家をただ口を開けて見つめていた。
 そんな時に向こうから誰か来るみたいだった。
 「あ!友里ー!おかえり!」
 「燈也、ただいまー。この子にぶつかって服ダメにしちゃったから服あげようと思うんだけど」
 「ん、ああいいよおいで」
 その人は僕達を手招きして家まで連行してきてしまった。
 「えっと、あの人は?」
 「ん、燈也?俺の彼氏」
 「………え!」
 「今は若社長してんだよ、しかも前よりすごい業績伸びててさ」
 「なるほど?」
 「プイッターとかピンスタもフォロワー五百万人いるし」
 「そんなに!?」
 「お前の百倍だな」
 その言葉にすかさず池田くんが陽太くんに向かってそう囁く。
 陽太くんは無反応に見えたが内心めっちゃ驚いてそうだな………
 「この辺からあっちまで好きなの持ってっていいよ、そっちに着替える場所あるし」
 「あ、ありがとうございます」
 僕はパパっと安そうな服を選びチャチャっと着替えて陽太くん達のもとへ戻った。
 「ど、どう?」
 「似合ってるね、碧くん。すごいかわいい」
 「おお、シンプルイズベスト!」
 「なんか、うんいい感じ」
 なんか薄いリアクションの人もいる気がするけど似合ってない訳じゃなさそう。
 「あの、洗って返すので」
 「あげるよ!受け取って」
 「でも………」
 いくら先輩の頼みだからといって服なんて貰えない。洗って返すと申し訳なさそうに言い続けてると燈也先輩が間に入ってきた。
 「後輩のくせに遠慮なんかしてんじゃねーよ、貰え」
 「え、えっと………はい」
 燈也先輩にも押され僕はこの服を貰うことにし、家を後にした。

 「フォロワー抜かしに行く?今太陽って五万いるだろ」
 「いや、いいよ。俺には一人だけでも十分」
 「それって俺?嬉しいこと言うねー!」
 「んな訳ねえだろ、アオくんはどう?」
 「うっ」
 僕のフォロワーも今は陽太くんのおかげもあってか二百人くらいいる。けど僕も陽太くんもフォロー中は一人だけ。
 「僕も一人だけでもいいよ、たった一人のフォロワー大事にする」
 「ふふっ、同じだね」
 僕達はスマホを片手に手を繋ぎながら家へと帰っていく。
 たった一人のフォロワーからまさかこんなことになるなんて。
 実際は陽太くんのおかげかもしれないけど、太陽がいたからこそ僕も自信を持てたのもある。
 陽太くんにも太陽にもどっちにも感謝しなきゃ。
 「てかここどこ?」
 「先輩のとこ戻るか………」
 「あはは………」