修学旅行も終わり二年生のやる気がなくなってきた頃、部活では三年生が引退し新しい部長を決めていた。
「じゃあ部長やりたいって人いるか?」
「………」
ただ亀田先生のその問いに誰も答えることはなく沈黙の時間だけが過ぎていく。
「黙ってても終わらないだろ、西宮はどうだ?」
「えー嫌です」
「そこをなんとか頼むよ、一番リーダーシップありそうだろ」
「そんなこと初めて言われたー部長ってめんどくさい仕事多いでしょ、嫌ですよ」
亀田さんは小さくため息をつきながらジーッと陽太くんのほうを見る。
「残念だな、マネージャーと関わるチャンスも増えるのに」
「やっぱやります」
亀田先生がそう呟いた途端、陽太くんは前のめりになりながらそう伝える。
「じゃあよろしくな!」
「はい」
そのまま部活動は時間的に厳しいということで僕と磯山さんは使わなかった物を戻すため器具室へと入っていった。
「えっと………」
器具室はなんだかいつもよりごちゃごちゃしていて歩きにくい。
そしてやっと道具を置き終えると突然後ろからガチャンと扉が閉まる音がした。
「えっ」
もしかしていないと思われたのか?でもそれなら磯山さんもいるはず……
そう思っていたものの磯山さんはそこにはいなかった。多分磯山さんが扉の鍵を閉めたのだろう。でもなんで………
(っていうか僕鍵持ってない………)
スマホもバッグの中で連絡もできない。絶対絶命だ。
「窓とかは……」
と思ったけれど窓は開ける機会が少ないせいか固くて動かない。
扉の前で必死に誰かを呼ぼうとするも誰も来ない。扉も開いていないか色々試してみたがしっかりと施錠されていて開かなかった。
「どうしよ……」
蹴破るか……?いやこんな鉄の扉じゃ硬すぎるし僕の力じゃ無理だ。窓を割って出ようとも考えたが狭くて破片が刺さりそうだし割ったら怒られる。
不運なことに今日グラウンドを使うのはサッカー部だけ。みんな帰ったみたいで外からは何も聞こえない。
僕は助けが来ることを信じ一度マットに座り込んだ。
部長になったことで碧くんと接触する機会が増えた。毎日部活でもいいからずっと碧くんといたい。
今日は中途半端な時間で終わったせいでそのまま帰宅という流れになり俺は校門前で碧くんを待っていた。
「西宮くん、一緒に帰ろう」
「……あー磯山か」
校門前で声をかけてきたのは磯山だった。こいつが帰っているということは碧くんももうすぐ来るだろう。
「ごめん、今日は無理」
「誰か待ってるの?池田くんとか?」
「まあな、碧くんは?」
「ああ……常磐くんならお腹痛いからトイレ行くって」
「そうなんだ」
お腹が痛いなら俺が支えてあげたほうがいいだろうか、せっかく恋人同士になれたのだから彼氏らしいことはしなくては。
「じゃあ俺様子見に行くよ」
「大丈夫、先生が付き添ってくれるって言ってた」
「そうなん?」
「うん、だから一緒に帰ろ」
でもだからといって放ってはおけない。俺が磯山を無視して校舎のほうへ向かおうとすると突然腕を掴まれ引き止められる。
「亀田先生なんだし大丈夫だよ!」
「でも……」
「ほらいいから!」
「ちょっ……!」
俺はそのまま磯山に強引に引っ張られ仕方なく一緒に帰ることにした。
「ねぇ、西宮くんってさ……好きな人とかいるの?」
「え?あーいるけど」
「……そっか」
「それがどしたん」
正直、磯山のことはあまり信用していない。部活でも俺にばっかり媚び売ってるみたいで気持ち悪いし、ぶりっ子って訳でもないけどそんな話し方もしてくる。
そんなことより碧くんのほうが心配だ。LIME送っといたほうがいいだろうか、いつも部活終わりに更新しているプイッターも更新されてないし。
「あのさ、実は西宮くんに話があるの」
「あ?何?」
「………私、西宮くんが好き」
「あー……」
またこれか。好きな人がいると聞いておいてこんなこと言えるのはすごいけどどう断ろうか。
「好きな人がいても諦めれないの、西宮くんと一緒にいたくてサッカー部入ったんだよ?」
(そんな軽い理由で………)
いや、正直俺も碧くんを無理やり勧誘したようなもんだけど元からそんな理由で入ってたなんてドン引きだ。やっぱり顔しか見てないんだろう、ずっと俺の顔を見ている。
「ごめん、無理」
「そうだよね……」
「うん」
「あのさ、もしかして西宮くんってゲイ?」
「は?」
突然、苦虫を噛み潰したような顔でそう聞いてくるもんだから睨んでしまった。
磯山は一瞬ビビったように見えたが怪訝な顔のまま続けた。
「常磐のこと好きなの?」
「……そうって言ったら?」
「あんな片目隠した陰キャより私のほうがよくない?だから………」
その言葉に俺の何かが切れる音がした。
「お前いい加減にしろよ」
「えっ」
「人のこと余裕でバカにできる女やっぱ無理だわ、人が誰好きになろうが勝手だろ、他人のお前が口出しするなよ」
「それは………でも常磐はもう………」
磯山は何が言いかけたようだったがハッとして口を抑えた。
恐らく絶対何かある。
俺は急いで学校へと戻った。薄暗く街灯が道を照らす中俺は一心不乱に駆け出した。
「亀田先生!碧くん知りませんか!」
「え?常磐?帰ってないのか?俺は見てないぞ」
その言葉に俺は胸が締め付けられた。何か事故にでもあったのか、事件に巻き込まれたのか。そんなことが頭をよぎる。
俺は急いで碧くんに電話をかける。
「繋がらねえ……!」
俺は学校中を探した。シーンと静まる教室の中一人で碧くんの名前を呼びながら走り回った。
(あれは……)
校内の行きそうなところを探し終えいないことを確認した俺は校庭へ向かったが隅には碧くんのカバンがあった。
「碧くん!いるー?」
ただ返事はない。こんな開けてる場所にいたらそりゃすぐ見つかる。
「……まさか」
俺は嫌な予感がして急いで職員室へ向かった。
「亀田先生!器具室の鍵ある?」
「え?ああ、あるけど」
「忘れ物したんで借ります!」
「おう、帰る時戻しに来いよ。あと廊下誰もいないからって走るな」
「はーい」
とは言いつつ俺は碧くんが心配で走って校庭に戻り器具室の前まで立った。
―――あれからどれくらい経っただろうか、外はすっかり暗くなって器具室も少し肌寒い。
(誰か助けて………)
震えながらうずくまって窓から外を見るが学校の明かりも付いていない。
寂しい、怖い、不安、そんな感情が一気に押し寄せ僕の目からは徐々に涙が垂れてくる。
そんな時だった。
ガチャン
鍵が開く音だ。誰かが来た。僕は泣きそうな目で見上げるとそこには走ってきたのか息を切らした陽太くんが立っていた。
「碧くん!」
陽太くんはうずくまっていた僕を見つけると真っ先に抱きしめてくれた。
やっと来てくれた。そう思うとなんだか安心して涙がもっと零れてきた。
「怖かった………」
「うん、ごめんね。遅くなって、もう大丈夫」
「来てくれて……ありがとう」
「当たり前じゃん、恋人なんだから」
陽太くんはそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。僕は涙でぐしゃぐしゃになった顔を必死に擦る。
「その目………」
僕がゴシゴシと涙を拭いていると陽太くんがそう呟いた。
そして気がついた。今の僕を。
「あっこれは………!」
咄嗟に僕は片目を隠す。この目のせいでまた嫌われるから………
あれは小学生の時だった。
「お前片方だけ目の色違うのかよ気持ち悪い」
「化け物だ!」
「ううっ」
僕はこの目のせいで化け物と言われみんなから避けられていた。
「うわ!化け物だ!」
「殺されるー!」
そう言ってクラスの男子から逃げられるのは当たり前。女子からも青い目のせいで日本語が伝わらないと噂が広まり孤独に生きていた。
「先生、その……えっと………みんなから嫌なことされて」
「常磐くん、あなたが何かしたんじゃないの?」
「いや、そんなこと!」
「茂山くんから聞いてたんだけど、あなたに消しゴムを盗まれたって言われてるの。それはどうなの?」
「盗んでないです……!」
「でもあなた、最近変えたでしょ?消しゴム」
確かにその頃は匂い付きの消しゴムが人気で僕もわがままを言ってお母さんに買ってもらっていた。けれど盗んではいない。
何度もそう言ったのだが先生は信じてくれなかった。何を言っても化け物と言われ泥棒扱いされる。そんなせいで僕はこの目を隠して過ごしてきた。何度も引っ越して、転校して今に至る。
けれど今絶体絶命のピンチが訪れた。せっかく好きになってくれて人ができたのにその人にこの化け物の目を見られた。
もう僕もこれで終わり………そう思っていた時だった。
「やっぱ綺麗………」
「……えっ」
西宮くんはキョトンとした僕の髪をかきあげ僕の目を見つめる。
「見ないで……」
「ああ、ごめん。でもなんでこんなに綺麗なのに隠してるの?」
「………化け物だから」
「……そんなことない、碧くんの目は綺麗だよ」
陽太くんは僕の目の涙を指で拭いもう一度僕を抱きしめてくれた。
「俺は碧くんのその目もかわいくて好きだよ。化け物なんて思わない、綺麗だよ」
「でも……みんなと違うから」
「みんなと違ったら何かあるの?みんな何かしら違うよ。だから碧くんの目がちょっと違ったとしても気にしなくていいの、それが当たり前なんだから」
「……僕のこと嫌いになってない?」
「嫌いになるわけないじゃん、むしろ余計好きになった」
そう言って陽太くんは僕のおでこにキスをしてくれた。
「元気になれるおまじない、泣かないで」
「……うん」
僕は陽太くんに支えられながら職員室へと歩いていった。
「ん、西宮……と常磐?」
「亀田先生、これ返すね。あとちょっと話が」
「おう、どうした?」
「磯山のことなんだけど、あいつ退部にしといて」
「えっ、なんで?どういうことだ」
「実は……」
陽太くんは僕が器具室に閉じ込められていたことを先生に報告し器具室に最後に入った磯山さんが犯人だろうと先生に相談してくれた。
「……わかった、今日はもう遅いから俺が送ってやる。磯山には明日話しておく」
「お願いします」
そうして僕達は亀田先生の車で家まで送られお母さん達にも事情を話し、ベッドへと向かった。
(あ、陽太くんからLIME)
僕を探してくれたのか「大丈夫?」と心配のメッセージや着信履歴が残っていた。
(嬉しいな……)
家族以外からこんなに心配されたのは初めてだった。僕は陽太くんとのLIMEを見てニヤつきながらベッドでゴロゴロする。
その時、太陽からDMが送られてきた。
「アオくん、大丈夫だった?」
「え?何が………」
「いや、そのいつもは部活終わったって投稿してるでしょ?今日はなかったから」
「大丈夫だよ、ちょっと色々あって」
僕がそう送ると太陽からは「よかった」と返ってきて安心してくれたようだ。
「でも器具室に閉じ込められちゃって、それは怖かったです」
「え?器具室に?」
太陽になら言ってもいいよね、そう思い僕は今日あったことを全て話した。「恋人の子が助けてくれた」と自慢げに。
そんな話が惚気話っぽくなると突然太陽からこんな返信が来た。
「俺も碧くんにそう言われて嬉しいな」
(……ん?碧くん?)
「やっぱりこれ碧くんだったんだね、俺陽太だよ」
「えっ」
思わず声が出てしまった。いつも話していた太陽があの陽太くんだったなんて。そうわかると惚気話もだんだん恥ずかしくなってきた。
「俺も碧くんのこと大好きだよ」
「忘れて!」
「そうだね、アオくんだもんね」
「陽太くんのバカ」
「かわいい」
その後も僕と太陽……陽太くんは時間を忘れ夜明けまで話した。というか今気づいたが太陽と陽太って逆にしただけか……もっと早く気づけたのに。
次からの部活は磯山さんが参加することはなかった。
噂によると僕を閉じ込めれば陽太くんに振り向いてもらえると思ったと自白したらしい。
自分勝手な理由で監禁したとしてみんなから距離を置かれ結局転校したらしい。
僕としては密室がトラウマになり器具は部長になった陽太くんが準備や片付けをしてくれることになった。
「ごめんね、準備とかさせちゃって」
「いいよ気にしないで、あんなことあったんだし」
「ありがとう」
「もっと俺のこと頼っていいよ。俺は碧くんの彼氏なんだから。あ、あとアオくんの」
「それは……!あんまり言わないでね」
「ふふっ、はーい」
一人でマネージャーは忙しいと思ったが陽太くんが一緒に手伝ってくれるのなら平気だ。僕は今日もマネージャーとしてみんなを支えよう。そして陽太くんの恋人として堂々と生きていくんだ。
僕は片目を隠していた髪をピンで止めて陽太くんと一緒に部活へと向かったのだった。
「じゃあ部長やりたいって人いるか?」
「………」
ただ亀田先生のその問いに誰も答えることはなく沈黙の時間だけが過ぎていく。
「黙ってても終わらないだろ、西宮はどうだ?」
「えー嫌です」
「そこをなんとか頼むよ、一番リーダーシップありそうだろ」
「そんなこと初めて言われたー部長ってめんどくさい仕事多いでしょ、嫌ですよ」
亀田さんは小さくため息をつきながらジーッと陽太くんのほうを見る。
「残念だな、マネージャーと関わるチャンスも増えるのに」
「やっぱやります」
亀田先生がそう呟いた途端、陽太くんは前のめりになりながらそう伝える。
「じゃあよろしくな!」
「はい」
そのまま部活動は時間的に厳しいということで僕と磯山さんは使わなかった物を戻すため器具室へと入っていった。
「えっと………」
器具室はなんだかいつもよりごちゃごちゃしていて歩きにくい。
そしてやっと道具を置き終えると突然後ろからガチャンと扉が閉まる音がした。
「えっ」
もしかしていないと思われたのか?でもそれなら磯山さんもいるはず……
そう思っていたものの磯山さんはそこにはいなかった。多分磯山さんが扉の鍵を閉めたのだろう。でもなんで………
(っていうか僕鍵持ってない………)
スマホもバッグの中で連絡もできない。絶対絶命だ。
「窓とかは……」
と思ったけれど窓は開ける機会が少ないせいか固くて動かない。
扉の前で必死に誰かを呼ぼうとするも誰も来ない。扉も開いていないか色々試してみたがしっかりと施錠されていて開かなかった。
「どうしよ……」
蹴破るか……?いやこんな鉄の扉じゃ硬すぎるし僕の力じゃ無理だ。窓を割って出ようとも考えたが狭くて破片が刺さりそうだし割ったら怒られる。
不運なことに今日グラウンドを使うのはサッカー部だけ。みんな帰ったみたいで外からは何も聞こえない。
僕は助けが来ることを信じ一度マットに座り込んだ。
部長になったことで碧くんと接触する機会が増えた。毎日部活でもいいからずっと碧くんといたい。
今日は中途半端な時間で終わったせいでそのまま帰宅という流れになり俺は校門前で碧くんを待っていた。
「西宮くん、一緒に帰ろう」
「……あー磯山か」
校門前で声をかけてきたのは磯山だった。こいつが帰っているということは碧くんももうすぐ来るだろう。
「ごめん、今日は無理」
「誰か待ってるの?池田くんとか?」
「まあな、碧くんは?」
「ああ……常磐くんならお腹痛いからトイレ行くって」
「そうなんだ」
お腹が痛いなら俺が支えてあげたほうがいいだろうか、せっかく恋人同士になれたのだから彼氏らしいことはしなくては。
「じゃあ俺様子見に行くよ」
「大丈夫、先生が付き添ってくれるって言ってた」
「そうなん?」
「うん、だから一緒に帰ろ」
でもだからといって放ってはおけない。俺が磯山を無視して校舎のほうへ向かおうとすると突然腕を掴まれ引き止められる。
「亀田先生なんだし大丈夫だよ!」
「でも……」
「ほらいいから!」
「ちょっ……!」
俺はそのまま磯山に強引に引っ張られ仕方なく一緒に帰ることにした。
「ねぇ、西宮くんってさ……好きな人とかいるの?」
「え?あーいるけど」
「……そっか」
「それがどしたん」
正直、磯山のことはあまり信用していない。部活でも俺にばっかり媚び売ってるみたいで気持ち悪いし、ぶりっ子って訳でもないけどそんな話し方もしてくる。
そんなことより碧くんのほうが心配だ。LIME送っといたほうがいいだろうか、いつも部活終わりに更新しているプイッターも更新されてないし。
「あのさ、実は西宮くんに話があるの」
「あ?何?」
「………私、西宮くんが好き」
「あー……」
またこれか。好きな人がいると聞いておいてこんなこと言えるのはすごいけどどう断ろうか。
「好きな人がいても諦めれないの、西宮くんと一緒にいたくてサッカー部入ったんだよ?」
(そんな軽い理由で………)
いや、正直俺も碧くんを無理やり勧誘したようなもんだけど元からそんな理由で入ってたなんてドン引きだ。やっぱり顔しか見てないんだろう、ずっと俺の顔を見ている。
「ごめん、無理」
「そうだよね……」
「うん」
「あのさ、もしかして西宮くんってゲイ?」
「は?」
突然、苦虫を噛み潰したような顔でそう聞いてくるもんだから睨んでしまった。
磯山は一瞬ビビったように見えたが怪訝な顔のまま続けた。
「常磐のこと好きなの?」
「……そうって言ったら?」
「あんな片目隠した陰キャより私のほうがよくない?だから………」
その言葉に俺の何かが切れる音がした。
「お前いい加減にしろよ」
「えっ」
「人のこと余裕でバカにできる女やっぱ無理だわ、人が誰好きになろうが勝手だろ、他人のお前が口出しするなよ」
「それは………でも常磐はもう………」
磯山は何が言いかけたようだったがハッとして口を抑えた。
恐らく絶対何かある。
俺は急いで学校へと戻った。薄暗く街灯が道を照らす中俺は一心不乱に駆け出した。
「亀田先生!碧くん知りませんか!」
「え?常磐?帰ってないのか?俺は見てないぞ」
その言葉に俺は胸が締め付けられた。何か事故にでもあったのか、事件に巻き込まれたのか。そんなことが頭をよぎる。
俺は急いで碧くんに電話をかける。
「繋がらねえ……!」
俺は学校中を探した。シーンと静まる教室の中一人で碧くんの名前を呼びながら走り回った。
(あれは……)
校内の行きそうなところを探し終えいないことを確認した俺は校庭へ向かったが隅には碧くんのカバンがあった。
「碧くん!いるー?」
ただ返事はない。こんな開けてる場所にいたらそりゃすぐ見つかる。
「……まさか」
俺は嫌な予感がして急いで職員室へ向かった。
「亀田先生!器具室の鍵ある?」
「え?ああ、あるけど」
「忘れ物したんで借ります!」
「おう、帰る時戻しに来いよ。あと廊下誰もいないからって走るな」
「はーい」
とは言いつつ俺は碧くんが心配で走って校庭に戻り器具室の前まで立った。
―――あれからどれくらい経っただろうか、外はすっかり暗くなって器具室も少し肌寒い。
(誰か助けて………)
震えながらうずくまって窓から外を見るが学校の明かりも付いていない。
寂しい、怖い、不安、そんな感情が一気に押し寄せ僕の目からは徐々に涙が垂れてくる。
そんな時だった。
ガチャン
鍵が開く音だ。誰かが来た。僕は泣きそうな目で見上げるとそこには走ってきたのか息を切らした陽太くんが立っていた。
「碧くん!」
陽太くんはうずくまっていた僕を見つけると真っ先に抱きしめてくれた。
やっと来てくれた。そう思うとなんだか安心して涙がもっと零れてきた。
「怖かった………」
「うん、ごめんね。遅くなって、もう大丈夫」
「来てくれて……ありがとう」
「当たり前じゃん、恋人なんだから」
陽太くんはそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。僕は涙でぐしゃぐしゃになった顔を必死に擦る。
「その目………」
僕がゴシゴシと涙を拭いていると陽太くんがそう呟いた。
そして気がついた。今の僕を。
「あっこれは………!」
咄嗟に僕は片目を隠す。この目のせいでまた嫌われるから………
あれは小学生の時だった。
「お前片方だけ目の色違うのかよ気持ち悪い」
「化け物だ!」
「ううっ」
僕はこの目のせいで化け物と言われみんなから避けられていた。
「うわ!化け物だ!」
「殺されるー!」
そう言ってクラスの男子から逃げられるのは当たり前。女子からも青い目のせいで日本語が伝わらないと噂が広まり孤独に生きていた。
「先生、その……えっと………みんなから嫌なことされて」
「常磐くん、あなたが何かしたんじゃないの?」
「いや、そんなこと!」
「茂山くんから聞いてたんだけど、あなたに消しゴムを盗まれたって言われてるの。それはどうなの?」
「盗んでないです……!」
「でもあなた、最近変えたでしょ?消しゴム」
確かにその頃は匂い付きの消しゴムが人気で僕もわがままを言ってお母さんに買ってもらっていた。けれど盗んではいない。
何度もそう言ったのだが先生は信じてくれなかった。何を言っても化け物と言われ泥棒扱いされる。そんなせいで僕はこの目を隠して過ごしてきた。何度も引っ越して、転校して今に至る。
けれど今絶体絶命のピンチが訪れた。せっかく好きになってくれて人ができたのにその人にこの化け物の目を見られた。
もう僕もこれで終わり………そう思っていた時だった。
「やっぱ綺麗………」
「……えっ」
西宮くんはキョトンとした僕の髪をかきあげ僕の目を見つめる。
「見ないで……」
「ああ、ごめん。でもなんでこんなに綺麗なのに隠してるの?」
「………化け物だから」
「……そんなことない、碧くんの目は綺麗だよ」
陽太くんは僕の目の涙を指で拭いもう一度僕を抱きしめてくれた。
「俺は碧くんのその目もかわいくて好きだよ。化け物なんて思わない、綺麗だよ」
「でも……みんなと違うから」
「みんなと違ったら何かあるの?みんな何かしら違うよ。だから碧くんの目がちょっと違ったとしても気にしなくていいの、それが当たり前なんだから」
「……僕のこと嫌いになってない?」
「嫌いになるわけないじゃん、むしろ余計好きになった」
そう言って陽太くんは僕のおでこにキスをしてくれた。
「元気になれるおまじない、泣かないで」
「……うん」
僕は陽太くんに支えられながら職員室へと歩いていった。
「ん、西宮……と常磐?」
「亀田先生、これ返すね。あとちょっと話が」
「おう、どうした?」
「磯山のことなんだけど、あいつ退部にしといて」
「えっ、なんで?どういうことだ」
「実は……」
陽太くんは僕が器具室に閉じ込められていたことを先生に報告し器具室に最後に入った磯山さんが犯人だろうと先生に相談してくれた。
「……わかった、今日はもう遅いから俺が送ってやる。磯山には明日話しておく」
「お願いします」
そうして僕達は亀田先生の車で家まで送られお母さん達にも事情を話し、ベッドへと向かった。
(あ、陽太くんからLIME)
僕を探してくれたのか「大丈夫?」と心配のメッセージや着信履歴が残っていた。
(嬉しいな……)
家族以外からこんなに心配されたのは初めてだった。僕は陽太くんとのLIMEを見てニヤつきながらベッドでゴロゴロする。
その時、太陽からDMが送られてきた。
「アオくん、大丈夫だった?」
「え?何が………」
「いや、そのいつもは部活終わったって投稿してるでしょ?今日はなかったから」
「大丈夫だよ、ちょっと色々あって」
僕がそう送ると太陽からは「よかった」と返ってきて安心してくれたようだ。
「でも器具室に閉じ込められちゃって、それは怖かったです」
「え?器具室に?」
太陽になら言ってもいいよね、そう思い僕は今日あったことを全て話した。「恋人の子が助けてくれた」と自慢げに。
そんな話が惚気話っぽくなると突然太陽からこんな返信が来た。
「俺も碧くんにそう言われて嬉しいな」
(……ん?碧くん?)
「やっぱりこれ碧くんだったんだね、俺陽太だよ」
「えっ」
思わず声が出てしまった。いつも話していた太陽があの陽太くんだったなんて。そうわかると惚気話もだんだん恥ずかしくなってきた。
「俺も碧くんのこと大好きだよ」
「忘れて!」
「そうだね、アオくんだもんね」
「陽太くんのバカ」
「かわいい」
その後も僕と太陽……陽太くんは時間を忘れ夜明けまで話した。というか今気づいたが太陽と陽太って逆にしただけか……もっと早く気づけたのに。
次からの部活は磯山さんが参加することはなかった。
噂によると僕を閉じ込めれば陽太くんに振り向いてもらえると思ったと自白したらしい。
自分勝手な理由で監禁したとしてみんなから距離を置かれ結局転校したらしい。
僕としては密室がトラウマになり器具は部長になった陽太くんが準備や片付けをしてくれることになった。
「ごめんね、準備とかさせちゃって」
「いいよ気にしないで、あんなことあったんだし」
「ありがとう」
「もっと俺のこと頼っていいよ。俺は碧くんの彼氏なんだから。あ、あとアオくんの」
「それは……!あんまり言わないでね」
「ふふっ、はーい」
一人でマネージャーは忙しいと思ったが陽太くんが一緒に手伝ってくれるのなら平気だ。僕は今日もマネージャーとしてみんなを支えよう。そして陽太くんの恋人として堂々と生きていくんだ。
僕は片目を隠していた髪をピンで止めて陽太くんと一緒に部活へと向かったのだった。



