僕のたった1人のフォロワー

 今日は待ちに待った修学旅行。
 太陽くんより早くおはようって送ってびっくりさせてやろうとスマホを見ると既に僕が起きる数十分前には「おはよ」と送られていた。
 「おはよう、早起きなんだ」
 「修学旅行だからね」
 「え、太陽くんも?」
 「うんアオくんもそうなの?」
 まさか太陽くんまで修学旅行だなんて、奇跡なんてレベルじゃない。同じ学校なんじゃないだろうか。
 そんなことを考えていると西宮くんから一通のLIMEが来た。
 「弁当できたよ」
 そのメッセージと一緒に送られてきた写真にはいつもの茶色多めで申し訳程度にとうきびの入ったお弁当が映っていた。
 「美味しそう」
 「暑いから流石にデザートはフルーツ単品ね」
 「ありがと、修学旅行の時まで作ってくれて」
 流石に修学旅行はと断ったのだが西宮くんは作らなかったら地球が終わるのかというレベルで必死に作りたいと懇願していたので根負けした結果作ってもらうことにした。
 「なんなら朝昼晩全部用意してもいいよ」
 「え、でも夜とかはホテルで食べるんじゃ?」
 「まあね、じゃあ迎えに行くわ」
 「うん」
 (………ん?)
 迎えに行くという文字に困惑しているとメッセージが届いた。
 「家の前着いたから開けて!」
 「わかった」
 僕がそう返信をしてカバンを持ってドアを開けると西宮くんがすぐそこに立っていた。
 「おはよ、碧くん」
 「お、おはよう」
 「はいこれ弁当!じゃあ行こっか、電車乗り遅れちゃう」
 西宮くんにお弁当を突っ込まれ手を引っ張られ走る。
 でも今まで帰宅部だった僕に西宮くんの速さはキツイ………

 僕達が電車に乗ると同時に電車のドアが閉まる。
 「ギリギリセーフ」
 息切れした僕を座らせ西宮くんは僕の前に立つ。
 「西宮くんは座らないの?」
 「んーこっちのほうが話しやすいしいいや」
 「でも走ってきて疲れない?」
 「全然?ごめんね、碧くん無理やり走らせちゃって」
 でも結局あのままだと電車に乗り遅れてたから割と助かった。けれどまだ走った疲れはあまり取れてない。
 「明日さ、誕生日じゃん?だから二人きりでデートしようよ」
 「えっ」
 デートという言葉に僕は困惑する。デートなんてしたことないのもあるけど僕らは男だ。けど友達同士でもデートなんて言うのか?
 「ダメ?」
 「いや全然、西宮くんがしたいなら」
 「やったね」
 西宮くんがそう言った途端僕のお腹が大きな音を立てる。
 「朝食って来てないよね」
 「うん、全く」
 「後で俺が朝飯用に作ってきたおにぎりあげる」
 「ほんと!?」
 「うん、ちょうど二つあるし一緒に分けようぜ」
 西宮くんが笑いかけると僕の心はなんだかドキッとした。
 最近、こういうことが多い気がする。西宮くんといると落ち着くけど落ち着かないというか、前より眩しく見える。
 でも僕達はただの友達、こんな気持ちただの気のせいだ。
 電車を降り僕達はおにぎり片手に学校へと向かう。
 「おはよー西宮」
 「おう」
 「………と常磐?だっけ」
 「うん」
 同じ班になった池田(いけだ)くんだ。バスケ部で西宮くん並の人気がある。
 「いいなーお前ら、俺にもくれよ」
 「作ってきてねーよお前の分」
 「ケチー俺だって朝食ってきてねーのに」
 「あ、じゃあこれどうぞ」
 僕はカバンから飴を取り出し池田くんに渡す。
 「こんなのしかないけど」
 「お、ありがと。常磐は優しいな、俺らはじめましてじゃん」
 「そうだね、でも同じ班になったし」
 「どっかのケチと違って常磐はいい子だなー」
 池田くんは西宮くんをチラチラ見ながらそう言う。
 「碧くん、俺にもちょうだい」
 「うん、いいよ」
 「さんきゅ」
 西宮くんは僕が渡した飴を大事そうにしまった。それを見た池田くんは飴を舐めながらずるいと言わんばかりに不機嫌そうな顔をする。
 「溶けちゃうから早めに食べていいんじゃない?」
 「んー碧くんがそう言うなら?」
 西宮くんは残念そうに飴を口に入れる。
 「そういや鈴島(すずしま)は?」
 「あいつなら家反対側だから知らねー」
 飴玉を口の中で転がすイケメン二人に挟まれる僕は場違いじゃないだろうかとわざとゆっくり歩こうとするも、西宮くんは僕の手を掴んで離さないのですぐ引っ張られる。
 「そうだ、常磐さー後でLIME交換しようぜ」
 「え、うん?僕なんかでよければ」
 「えーなんでよ」
 僕らがそう話していると西宮くんは不機嫌そうに話に入る。
 「同じ班なんだからいいだろ」
 「そう言って俺から碧くん取る気?」
 「別にお前のじゃねーだろ常磐、な?」
 「え、んーと………まあ別に僕は気にしないけど」
 僕がそう呟くと池田くんはマジかという引くような顔をして西宮くんはマジか!という嬉しそうな顔で僕を見る。
 「お前詐欺とか引っかかんじゃねえの?」
 「引っかからないようには気をつける」
 「俺が守るから引っかからないよ」
 そう言って西宮くんは握っている手を持ち上げ池田くんに見せつける。
 「お前らって付き合ってんの?」
 「え、いや別に」
 「まだ付き合ってないだけだよ、ね?碧くん」
 「ふーん、まあいいけどめっちゃ見られてるよ」
 池田くんにそう言われ周りを見ると確かにみんなこっちを見ている。
 流石に恥ずかしいからと解こうとするも力の弱い僕じゃ全然抜けない。
 「別によくね?これで変な虫寄ってこないでしょ」
 「俺は変な虫じゃねえんだ」
 「んーまあ一応?」
 「一応ってなんだよ」
 そんな話をしていると学校に到着しこっちを見て手招きする人影が見えた。
 「おーい、池田ー!西宮ー!こっちこっち!」
 「おー、朝から元気そうだね。俺まだねみーわ」
 その朝から元気そうな人こそ鈴島くんだ。
 成績も常にトップにいて面倒見もよくママと呼ぶ生徒もいるほど。
 「ママー、俺まだ眠い」
 「寝れば?池田なんて置いてくから」
 「えーママさいてー!」
 「あ、鈴島くん、おはよう………」
 周りにかき消されて聞こえないかもとは思ったが流石鈴島くん。ちゃんと聞こえていたらしく「おはよ」と返してくれた。
 「常磐くんだよね、よろしく」
 「うん、よろしく」
 鈴島くんのコミュ力は誰よりも高いので僕なんかでもあっさり受け入れてくれて流れるようにLIME交換もした。
 というかイケメン二人とコミュ力化け物の陽キャ軍団に僕なんていてもいいんだろうか。

 点呼も終わり僕達はバスに乗る。
 「僕窓側」
 「俺碧くんの隣!」
 僕が窓側の席に座ると西宮くんは何食わぬ顔で隣に座る。
 「碧くんの隣嬉しいな」
 「そう?ありがと」
 「着くまで寝てていいよ、着いたら起こすね」
 「ん、でもせっかく西宮くんと同じ班になったし一緒に話してたい」
 僕は眠たい目を擦りながらそう呟く。
 西宮くんはキョトンとした顔で僕の方を見る。
 「………でも無理しないでね、俺らは寝てても気にしないから。起きてる間は話してようか」
 「うん」
 西宮くんはそんな僕を可愛がるように頭をわしゃわしゃと撫でる。
 そのわしゃわしゃが妙に気持ちよくてお話をすることを忘れいつしか僕はゆっくりと目を閉じていた。
 「……寝ちゃった」

 そして後ろから肩をトントンと叩かれる感覚で目を覚ます。
 「ん………」
 「おはよ、ちゃんと寝れた?」
 「!?」
 気づくとどうやら僕は西宮くんの肩に寄りかかって爆睡していて慌てて体を起こす。
 「ご、ごめん」
 「いいよ全然、じゃあ行こっか」
 後ろから僕を起こした池田くんは僕が起きたのを確認してそそくさとバスを降りる。
 「まだ眠い?」
 「もう大丈夫」
 「また、寝るなら俺が運んだけど」
 「運ぶ?」
 「お姫様抱っこで」
 手を繋いでたのですら恥ずかしかったのにお姫様抱っこまでされたらどうなるかわからない。
 僕が恥ずか死ぬか刺されるかの二択じゃないか。
 「おーいイチャイチャしてねーで降りろ」
 なかなか降りてこない僕達を呼びに池田くんがまた乗ってくる。
 バス内に残ってたのも僕達だけだったので僕は急いでバスを降りた。

 そして新幹線の中、各自が持参したお弁当を班のみんなで食べる。
 「今日のお弁当、碧くんが好きそうなのいっぱい入れたからね」
 「え、常磐くんのお弁当西宮が作ったの?」
 「うん、いつも作ってもらってる」
 「えーすご、西宮料理できたんだ」
 そう言って鈴島くんは僕のお弁当を羨ましそうに覗く。
 「よかったら食べる?」
 「いいの!?」
 「一口だけなら……いいよね?西宮くん」
 「………まあ碧くんがしたいなら」
 僕は卵焼きをつまみ鈴島くんの口元まで運んだがその腕を西宮くんにがっしり捕まれ横取りされてしまう。
 「おい西宮!俺の卵焼きー!」
 「やっぱヤダ、俺の食え同じだから」
 「同じなら横取りすんなよ」
 「いや、ダメだ。お前は俺の取って食え」
 「でもお前常磐がしたいならいいよーって言ったじゃん」
 「俺にあげていいか聞くってことは俺がダメならダメなの」
 そんな話をしている二人を横目にお弁当を食べていた池田くんは西宮くんを見て鼻で笑う。
 「要するにあーんはダメってことだろ、嫉妬しててかわいいー」
 そう言われた西宮くんは図星だったのか一瞬黙り込んでしまう。
 「ご、ごめん。ああしたほうがよかったかなって、楽で」
 「じゃあ俺以外にするの禁止ね」
 「えっ」
 「誰にでもあーんなんてしないだろ普通」
 「うーん………」
 まあ確かにそれもそうだ。普段、西宮くんの距離感がバグってるから自分も距離感の掴み方がイマイチわからなくなってきている。
 そんなことを考えていると西宮くんが小さいタッパーのようなお弁当箱を取り出す。
 「はい、デザート」
 「ありがと」
 その四文字に反応して奪うように素早く受け取る。
 「俺にもちょうだい」
 「碧くんのだからダメ」
 「常磐のなら常磐が決めりゃいいじゃん、俺も欲しいなー」
 池田くんはそう言って西宮くんを退けながら物欲しそうな目で僕を見る。
 「ど、どうぞ………」
 「どうせならあーんしてほしいかも」
 「えっ」
 そのタイミングで西宮くんが間に入り池田くんは残念そうに鈴島くんの方へと狙いを変える。
 「俺のはやらねえからな!?」
 「いいじゃんかよ、減るもんじゃねえし」
 「減るわ!!」
 そんなやり取りを見ながら僕はデザートも食べ終え片付けに入る。
 「美味しかった?」
 「うん、ありがと」
 「よかったー、明日も楽しみにしててね」
 「わかった。楽しみにしてる」
 その話を聞いていた池田くんは前のめりになるように間に入ってきた。
 「明日って何?ネズミーランドの日か?」
 「えっと、明日僕の誕生日で………」
 「嘘!?マジか、おめでと!」
 それを聞いた鈴島くんも続いて僕の誕生日をお祝いしてくれた。
 「明日俺らも祝ってやるよ〜、常磐くんの誕生日まさか修学旅行中だとはな」
 「池田くんも鈴島くんもありがとう、もうすぐ着くみたいだよ」
 新幹線はゆっくりと速度を落とし、先生達はみんなに降りるよう指示を出した。
 「リュックとか持つよ、重いでしょ」
 「いいよ申し訳ないし」
 「遠慮しないで〜、明日誕生日なんだから」
 「でもほんとに重いよ?」
 「大丈夫だって、俺鍛えてるし」
 そう言って西宮くんは服を少し上げ腹筋をチラリと見せる。
 「うわーセクハラ、正気かよ西宮」
 「池田には見せてねえよ」
 「常磐可哀想に」
 哀れんだ目でこちらを見る池田くんを押し出し西宮くんは本当に僕の重たいカバンを持って新幹線を降りる。
 「本当にいいの?」
 「いいよ、だって碧くん朝から重そうにしてたじゃん」
 (気付かれてた………)
 流石モテ男、そういう所もしっかり見てるんだな。みんなから好印象持たれるならそういうのも気にした方がいいのか?参考にしておこう。

 初日は東京観光………と行くはずだったが突然の雨で中止になりそのままホテルへ直行することになった。
 「雨とか最悪」
 「天気予報では晴れって言ってたのにね」
 「碧くん濡れなかった?大丈夫?」
 「大丈夫、傘持ってたし」
 そういう時のためにと折り畳み傘を持たされていたがまさか使うことになるとは。
 「にしても凄いな、千葉の方は?」
 「今のところは晴れらしい、明日も晴れだってさ」
 「ならよかったー、正直二日目が本番まである」
 「ネズミーランドだしね」
 他のみんなも東京観光がなしになったのは辛そうだがネズミーランドだけは中止にさせまいと天に祈ったり謎の儀式を始める男子やてるてる坊主を作り出す人までいた。
 西宮くんも暗い空気を気にしないようにいつものような明るい表情で僕に話しかける。
 「明日晴れるといいね」
 「うん」
 「それでさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
 「何?」
 西宮くんは池田くん達に耳打ちしたあと先ほどより少し真剣な表情で僕を見つめる。
 「明日さ、俺と……二人きりで回らない?ネズミーランド」
 「えっ」
 「ダメかな」
 西宮くんがしょぼんとした顔をするので僕は慌てて西宮くんの顔を覗き込む。
 「いいよ、二人で回ろ。池田くんと鈴島くんがいいなら」
 「ん、いいよ?別に。俺らは俺らで回るわ」
 「二人で楽しんできな」
 思ったよりあっさりした回答に僕は思わずびっくりした。班行動してないのがバレたら先生からどう言われるか分からないのに。
 ふと西宮くんを見るとさっきまでの顔が嘘だったかのようにいつもの明るい顔に戻ったいた。
 「じゃあ約束ね」
 「うん、約束」
 西宮くんも嬉しそうだ。かく言う僕も西宮くんに誘われてすごく嬉しかったんだから。
 というか今気付いたのだがこれデートじゃ………?しかもネズミーランドだ。そして相手が西宮くんと来たもんだ。絶対目立ちそう。
 けど目立つからなんだ、友達の誘いを今更断ると嫌われかねない。それに僕だって嬉しいんだから堂々としていよう………とは思ったけどやっぱちょっと恥ずかしいかも?

 早めにチェックインが済まされホテル内で自由時間となった。
 他の班の部屋に勝手に入らない、迷惑にならないと二つの決まりを守る約束で本当はまだのはずだった自由時間が中止になったお陰で増えたのだ。
 「UNOしよ!」
 「えーお前弱いじゃん」
 「もう強いし」
 「え、池田くんと鈴島くんって幼馴染か何か?」
 「そだよー、俺と池田幼稚園から一緒」
 どうやら二人が幼馴染ということは一部では超有名らしくめちゃくちゃ仲がいいらしい。通りで今まで二人で色々話してたりしたわけだ。
 「だからよく二人で話してたの?」
 「や、それはお前と西宮が二人きりで話してたから。普通に毎日一緒だし部活以外」
 「それはごめん、けど二人ってそんなに一緒だったの?」
 「そーそー、クラス分けも別になったことないからもう話し飽きたくらい話してる」
 「なんなら身長もミリ違いだしな」
 生き別れの双子ではと言いたくなるくらい二人がここまで一緒だったとは、もはや兄弟なんじゃないか?
 「とりあえずUNOしよー」
 「えーお前弱いじゃん」
 「もう弱くねーし」
 「小中で負けまくってんじゃん」
 「………え、二人って小中同じなの?」
 「ああ、なんなら幼稚園からずっと一緒」
 そう言って池田くんは鈴島くんの肩に抱きつく。鈴島くんはそれを上手くすり抜け無言で僕の隣に座ってきた。
 「ひでー、幼馴染にする仕打ちかよそれ」
 「距離近すぎなだけでしょ」
 「あはは……」
 「幼馴染なんだから近くていいじゃんかよー」
 池田くんは不機嫌そうに鈴島くんを睨むがそんな視線はお構いなしにスマホをいじる。
 「いいよじゃあ、常磐と西宮とUNOやるもん」
 「え?俺やるなんて言ってないけど」
 ちょうど部屋に戻ってきた西宮くんが秒で答える。
 「常磐はするよな?」
 「えっ、あ、したいなら?」
 「じゃあしようぜー!二人っきりで!」
 その言葉を聞いた西宮くんと鈴島くんはさっきまでやらないの一点張りだったにも関わらず「やってあげなくもないけど?」みたいな顔で平然とカードを引く。
 「………遼馬(りょうま)も参加するとは思ってなかった」
 「まあ、蒼空(そら)と常盤くんだけじゃ寂しそうだし?」
 「ありがと、常盤もよかったねー西宮参加してくれて」
 そう言いながら池田くんは僕よ頭をわしゃわしゃと撫でる。
 「「おい」」
 それを二人が止め僕は西宮くんによって避難させられ、池田くんは鈴島くんによって僕の斜め向かいに置かれる。
 「常盤の頭めっちゃ撫でるの気持ちいい」
 「お前に碧くんはまだ早い」
 「常盤くん以外でも同じだろ」
 二人とも僕を触らせまいと必死で池田くんを睨む。池田くんは不服そうにカードを捨てる。
 「はいUNO」
 「俺ももうあと一枚」
 けれど二人はまだ七枚近くカードを持っている池田くんを気にせず負かす気満々だ。
 「………常盤は?」
 「僕あと三枚………」
 「俺に勝たせて」
 「だーめ、碧くんの番だよ。好きなの出しな」
 でもこれも勝負だ。池田くんには申し訳ないがドローフォーを出すことにする。
 「……お前さいてー」
 「ごめん………でも負けたくはないから」
 池田くんは泣く泣く山札から四枚引き西宮くんの番になる。
 「UNO、碧くんがんばってね」
 「えっと、スキップでUNO。なんかごめん」
 「もう一回!次は勝つから!」
 けれど何回やっても結果は変わらず、池田くんは全部最下位でお風呂の時間となった。
 「あそこまで負けれるの才能じゃね」
 「な、遼馬って昔からUNOやりたがるくせに一番弱いんだよ」
 「いや、普通にカードが悪くね?」
 「カードのせいにすんなよな」
 「まあ運が悪い日なんて誰にでもあるよ……」
 「俺の場合はUNOやる時だけ運悪いんだよ」
 必死にフォローを試みたがやはり連敗で心も折れていたからフォローしたところであまり効果はなかったみたいだ。
 「てか常盤細すぎだろ飯食ってんの」
 「俺が食わせてるからそういう体質なんだろ」
 「うん、昔から食べても太れなくて」
 「ふーん、にしても細すぎだろ」
 そう言って池田くんは僕の腕を掴み、指で輪っかを作りそれを僕の腕に回す。
 「ほらー片手で収まる」
 「そりゃ鍛えてもないし」
 「でもマネっしょ?鍛えるのもありだよ、腹筋割れてるくらいのがモテるぞ」
 そう言いながら腰まで伸びる手を西宮くんが止める。
 「セクハラやめなよ池田、風邪引いちゃうから早く風呂入ろ」
 「う、うん」
 「ちぇ」
 「あと俺は別に鍛えなくてもいいと思うよ、そのままのほうがスリムでかわいいし」
 「そう?」
 「うん、俺はちゃんと食べてさえいてくれれば十分だと思うな」
 なぜかその言葉は今まで以上に嬉しかった。ただその言葉に何も返せなかった。けれどそんな僕の頭を西宮くんは優しく撫で、お風呂場へと連れてってくれた。
 「………なあ、常磐ってなんでいつも片目隠してるの?見えにくくね?」
 「えっ………」
 「確かに、転んで怪我とかしないでね?常盤くん」
 僕は慌てて隠している片目を手で覆う。
 この目は絶対に隠さなきゃダメなんだ、あの時みたいにならないように、嫌われないように。
 「まあ別に出せとは言ってないから二人とも、そんなに覆わなくてもいいよ」
 「……うん」
 「なー、お前らって付き合ってんの?」
 突然のそんな質問に固まってしまう。
 確かにそう思われても仕方ない距離感だけど西宮くん的には普通……なのかもしれない。
 僕はチラッと西宮くんを見つめるが西宮くんは曇った表情になり下を向かれてしまった。
 「まあ、想像に任せる」
 「ああ……なんかごめん」
 「いいよ全然」
 西宮くんのあんな表情初めて見た。付き合ってるとか言われて嫌だったのかな、確かに僕は男だから嫌になるのもわからなくはない。
 近年LGBTとして同性カップルは尊重されるようになってはいるけどまだあまりよくない目で見られることも多い。
 「そろそろ上がろっか、ここちょっと熱いしのぼせそう」
 「うん、わかった」
 「……明日さ、ちょっと話したいことあるんだ。いいかな」
 「うん、なんでもいいよ?あ、けどお金はそんなに……」
 「金はいいよ困ってないし、関係壊すじゃん」
 「あ、うん」
 その後、僕達は夜まであまり会話できずに消灯時間を迎えた。
 「なあなあ、お前ら好きな人いる?」
 先生の足音が消えた瞬間池田くんがそんなことを聞いてきた。
 「いない」
 「僕も………いないかも」
 「俺はいるよー、西宮もいるよな」
 そう言って池田くんはニヤリとした顔で僕の隣に寝そべる西宮くんを見る。
 「……まあいるけど」
 「告んねえの?絶対OK貰えそうだけど」
 「まあそのうち」
 その言葉を聞いて僕は胸が締め付けられるような感覚になった。
 好きな人がいる相手と僕が二人きりで本当にいいのだろうか、明日二人きりで回ろうとつい約束してしまったが楽しめるだろうか。
 「そういうお前は告んないの?」
 「え?んー、俺はいいかな……」
 「お前人のこと言うなら自分でも告れよな」
 僕はいたたまれない気持ちになりながら話を聞いていたが同時に眠気も襲ってきた。
 ここの中で話せるかどうかも不安だし寝ちゃおうかな。
 「常磐ってどんなやつがタイプなん?」
 「えっ?僕?」
 池田くんの興味津々でキラキラした眼差しに戸惑っていると間に西宮くんが入ってきた。
 「眠たい?無理しなくていいよ」
 「ん、大丈夫。ちょっとだけなら」
 「そっか、明日デートなんだから寝坊しないでね」
 「デッ!?ち、遅刻はしないから」
 「そっか、じゃあ起こさないよ」
 暗くてもよくわかる西宮くんの笑顔に僕はドキッとした。見慣れているはずなのに………
 「ちょっとー俺と話してたんですけど常磐は」
 「あ、ごめん………なんだっけ?」
 「好きなタイプ、こんな人がいいなーとかはあるでしょ」
 好きなタイプ………意外と考えたことなかったかも。
 「んー、料理美味しくて甘やかしてくれる人とか?」
 「えっ」
 「え?」
 池田くんは驚いた目で僕を見つめる。顔に何かついてるのだろうか?
 「え、常磐って男行ける?」
 「んえ?まあ僕は別に好きになったなら性別とか気にしない」
 「………マジか」
 池田くんは開いた口が塞がらない程に固まってしまう。僕が男も行けるってことがそんなにやばかったのだろうか。
 そして静まり返る部屋の中、僕はそのまま睡魔に負け寝落ちしてしまった。
 「……おやすみアオくん」

 翌日
 待ちに待ったネズミーランドに到着。みんな今すぐ行こうと言わんばかりにワクワクしているのがわかる。
 「今日はネズミーランドで自由行動とします、迷惑をかけないよう気をつけて行動してください」
 「早く行こーぜ」
 そう急かすクラスメイトを抑え、先生はこう続けた。
 「もし、迷惑行為が発覚したり集合時間までにここに集まらず遊び続けるようなら責任は取らないので覚悟してください」
 「はーい」
 そして自由行動の時間になった瞬間みんなは小学生にでも戻ったかのようにはしゃぎながらアトラクションへと走っていく。
 「じゃ、俺らあっち回るから二人で楽しんできてね」
 「う、うんいってらっしゃい」
 「じゃあ俺らも行こっか」
 そう言って西宮くんは僕の手を取りゆっくりと歩き出す。
 「乗りたいのある?絶叫系っていけるんだっけ」
 「うん、絶叫系大丈夫。昔お父さんに連れ回されて慣れた」
 「その父さん大丈夫かよ………」
 「あはは……」
 西宮くんは少し考えたあと岩山のような場所を指さす。
 「じゃあギガサンダーマウンテンでも乗ろ」
 「いいよ」
 「の前にシンデレラ城で写真撮ろ」
 「うん、わかった」
 僕はそう言ってスマホを取り出していると突然西宮くんが話しかけてきた。
 「ね、撮った写真さプイッターとかピンスタにあげていい?顔隠すから」
 「え、別にいいけど……」
 「ありがと」
 そう言いながら西宮くんは僕の肩を抱き寄せシンデレラ城をバックに写真を撮る。
 その時の距離はとても近く少しでも動けばキスしてしまうのではないかというくらい。
 「ち、近いね……」
 「まあこれくらい近くないと加工入らないから」
 「そうなんだ?」
 「うん、それにガチ恋で粘着してくるやついるから匂わせでもしとけば落ち着くでしょ」
 「それ余計怒らせるんじゃ……刺されるかも」
 「その時は俺が守ってあげる」
 その言葉を聞いた瞬間僕は何も話せなかった。胸がドキドキして苦しくて。『守ってあげる』なんて初めて言われた。
 そしてこの時気づいた。
 (好きなんだな、西宮くんのこと)
 だから一緒にいたり些細な行動にもドキドキして好きな人がいるって聞いたら胸が苦しくなったんだ。
 でもこの気持ち、西宮くんに向けても大丈夫なんだろうか。好きな人がいるのに、ましてや男の僕から言い寄られたら引かれるかな。この目も………
 「順番来たよ、乗ろ」
 「あ、うん!」
 そうして僕達はアトラクションに乗り込み出発のベルを待つ。
 「ありがとね、二人で回ってくれて」
 「う、うんどういたしまして」
 「後でさ、寄りたいとこあるんだけどいい?」
 「いいよ」
 僕がそう言うと出発のベルが鳴り車両が動き出す。
 ガタガタと小さく揺れる車両は徐々に速度を上げ上り坂を走り、斜面を走り水のエリアを走り抜け暗いトンネルへと入っていく。
 そこまで激しい絶叫系でもなく最初に乗るのにちょうどいいくらいだ。
 でもそんな楽しい時間もあっという間に過ぎ次は何に乗ろうかという話になる。
 「スプラッターマウンテンとかは?」
 「大丈夫、行こ」
 そう言って西宮くんはまた僕の手をしっかり握ってスプラッターマウンテンのあるエリアまで僕の歩幅に合わせゆっくりと歩いてくれた。
 「お腹すいてない?スプラッターマウンテン乗ったらご飯食べよっか」
 「うん、ありがと西宮くん」
 「陽太(ひなた)でいいよ」
 「ひ、陽太……くん」
 下の名前で呼び合うのも慣れてないのでボソッと呟く。そんな僕を西宮くんは嬉しそうな顔で見つめてくれる。
 「かわいいね、碧くん」
 「っ……ありがと」
 「……あのさ、ちょっと話が…」
 西宮くんがそう僕に話しかけた瞬間だった。
 「ママ?」
 「えっ?」
 僕のズボンの裾が引っ張られる感覚がしたので下の方を見ると三歳とかそのくらいの男の子が泣きそうな目で僕を見上げていた。
 「ママじゃない………」
 「ま、迷子?」
 僕を母親と勘違いしたのだろう、違ったとわかった瞬間今にも泣きそうだった目からは徐々に涙が溢れてくる。
 「えっと……泣かないで!ママ一緒に探そう」
 「俺も手伝うよ、あっちに迷子センターあるはずだから一旦そこ行こ」
 そう言って西宮くんは男の子の涙を拭き取り抱き抱える。
 「名前は?」
 「ゆーと!」
 「ゆーとか、いい名前だな」
 「うん!」
 西宮くんは何かを見つけたのか男の子を僕に預け駆け足で人混みを抜けていく。
 「ママ!」
 「ち、違うよ〜」
 西宮くんを待つためゆーとくんを抱っこしたまま街灯の下で立っているとゆーとくんは僕の前髪が気になるのか手を伸ばしてくる。
 「けがするよ」
 「大丈夫だから」
 ゆーとくんなりの優しさなんだろう、無理に止めるのもあれかと思いできるだけ止めずにいたが伸びた手で前髪をわしゃわしゃしたせいで隠していた片目が(あらわ)になってしまった。
 「碧くーん、ゆーとくーん!」
 向こうから聞こえる西宮くんの声に僕は慌ててゆーとんを降ろし髪を元に戻す。
 「ママの目、びょーき?」
 「……病気じゃないから大丈夫だよ」
 「何話してたの?病気?」
 「あ、いやなんでも……それは?」
 西宮くんの手は二本のチュロスを持っていた。西宮くんは僕に一本渡しもう一本をゆーとくんに渡した。
 「わーい!」
 「いいの?西宮くん」
 「いいよ、碧くんも食べな」
 僕らは近くのベンチに座り休むことにした。
 ゆーとくんは口の周りに砂糖がベッタリつくくらい美味しそうに食べる。
 「ほら、口汚してるぞ」
 西宮くんはティッシュを手にゆーとくんの口を優しく拭う。
 「西宮くんも食べなよ、半分あげる」
 僕は西宮くんにチュロスを差し出すが西宮くんは遠慮しないでと僕のほうに戻してくれた。
 「俺は大丈夫だから、碧くん食べなよ」
 「でも西宮くんが買ってくれたし」
 「いいよ、俺碧くんとゆーとくんのために買ってきたから。ありがとね、気使ってくれて」
 西宮くんは両手で僕とゆーとくんの頭をポンポンと撫でる。
 ゆーとくんはチュロスに夢中なようだったが僕は頭に気を取られ全然集中出来ない。
 「食べないなら貰っちゃおうかな?」
 「た、食べるよ」
 僕はそう言ってチュロスを一口かじる。
 シナモンと砂糖の甘さが広がってとても美味しい。
 「じゃあ行こっか」
 気づくとあっという間に食べきっていたようで物足りないような気もしたけれどお昼前だったからまあいいかと気にしないことにした。
 「ゆーとはどう書くんだ?優しい(うさぎ)?」
 「ゆーとはゆーとだよ!」
 「はは、そっか!俺は陽太、こっちは碧ね」
 「ひなたにいに!ママ!」
 「だからママじゃないって……」
 そんな話をしながら到着した迷子センターには黒髪の小柄な女性が立っていた。
 「勇斗!」
 「ママ!」
 「あ、ゆーとくんのお母さんですか?この子俺らがスプラッターマウンテン行こうとしてた時に会って、碧くんをお母さんと間違ったみたいで」
 「あらイケメ……それはごめんなさいね、私がトイレに行ってた隙にはぐれちゃって」
 「ひなたにいにから棒のお菓子もらった!」
 「あ、チュロスあげちゃったんですけど大丈夫でした?」
 「ええ!?チュロスまで買ってくれたんですね、ありがとうございます。チュロス代でも払いますよ」
 ゆーとくんのお母さんがカバンから財布を取り出そうとしていたが西宮くんはその手を止める。
 「大丈夫ですよ、ゆーとくんのお母さん見つかってよかったです。もうはぐれんなよ!」
 「うん!」
 「よーし、いい子だ」
 西宮くんはゆーとくんの頭を優しく撫で迷子センターを出る。
 「かっこよかったよ、西宮くん」
 「ほんと?ありがと。碧くんもすごかったよ」
 「僕は何もしてないし」
 「えー?俺が離れてる間見てくれたでしょ?それだけでもありがとう。俺にもチュロス分けてくれようとしてたし優しいよ」
 「……でもすぐ戻って来たでしょ、あんまりできてないよ」
 僕が謙遜しながらそう言うと西宮くんは優しく微笑んでいつものように僕の頭を撫でてくれた。
 「小さい子って目離した隙にすぐどこか行くじゃん?それを見てくれてたんだから碧くんは偉いよ」
 いつも通りなのに、一段と嬉しい。けれどこんな気持ち向けられない。
 複雑になっていると僕のお腹から音が鳴ってしまう。
 「お昼にしよっか、あっちにレストランあるから」
 「うん」
 さっきチュロスまで食べたのに、恥ずかしい………

 西宮くんに連れられ入ったレストランはカレーを専門にしているようで量もそこそこありお腹いっぱい食べられそうだ。
 「ご注文お伺いします!」
 「じゃあ俺はビーフカレーで、碧くんは?」
 「あ、じゃあ僕は……シーフードカレーで」
 「かしこまりました、少々お待ちください」
 そう言ってキッチンへと向かう店員さんを横目に西宮くんと一緒に料理を待つ。
 昼時で席もいっぱいだからすぐには来ないだろうと思っていたが料理は思っていたよりも早く到着してしまう。
 「いただきます」
 「うまそー、いただきます」
 西宮くんもお腹が空いていたのだろう、美味しそうにかき込む。
 僕も負けじと少しずつ食べ進める。
 「ん、碧くん口についてるよ」
 そう言って西宮くんは僕の方へ手を伸ばし口元を指で拭ってくる。
 「!?」
 「シーフードも美味いね、一口ちょうだい」
 「う、うん」
 僕は西宮くんのほうへ皿を近づける。
 西宮くんは「ありがと」と言い僕のカレーを一口すくい口へ運ぶ。
 「やっぱ美味しいね、俺のもあげる」
 西宮くんはそう言って西宮のほうのカレーを一口すくって僕の口元へと運ぶ。
 「あーん」
 「あ、あーん……」
 僕は周りの視線を気にしながらも西宮くんから貰ったカレーを頬張る。
 噛むと柔らかくて美味しい肉とカレーのスパイスが口に広がってとても美味しい。これがテーマパークの本気か。
 「美味し?」
 「うん、めっちゃ美味しい」
 「そかそか、食べ終わったらタートルトークでも行こっか、食べたばっかりにジェットコースターとかよくないし」
 「うん、行きたい」
 当たり前かもしれないけど、そんな気遣いもできる西宮くんが好きだ。

 そしてカレーも食べ終わりタートルトークへと向かっている最中だった。
 「西宮くん!どこ行くの?」
 そう言って前から走ってくるのは同じ部活の磯山さんだ。
 「ん、あー磯山?別にどこでもいいでしょ」
 「私達も着いてっていい?」
 「好きにしたら?行こ碧くん」
 「うん……」
 僕は西宮くんに手を引かれながら早足で向かうがチラッと磯山さんのほうを見ると睨んでいるような感じで僕を見つめていた。

 「よぉお前達!元気にしてるか〜?」
 薄暗い建物の中スクリーンには亀のフラッシュが泳ぎながら登場した。
 「質問あるやつは元気よくヒレを挙げてくれよな〜!」
 フラッシュがそう言うと周りの人達は大人子供関係なしにみんな手を挙げまだかまだかとフラッシュを見つめる。
 「じゃあ後ろの方の緑の服のお姉さん!」
 「海にもイケメンっていますか!」
 「イケメン?今話してるだろ!」
 あまりにも即答したものだからそこら中から笑い声が聞こえる。
 「じゃあ次話したいやつヒレあげてくれ〜!」
 みんなも手を挙げるので僕もせっかくだしと手を挙げる。なるべく当てられにくいようにゆっくりと。
 「じゃあ真ん中らへんの片目隠れてる学生さん!」
 「えっ!?」
 まさか当てられるとは思わずドキッとする。西宮くんを見ると「やったね」とグッドポーズを送ってくる。
 「さあ、話したいことあったらなんでもいいぞー!」
 「え、えっと……じゃあ今日僕誕生日で、祝ってほしいです」
 「本当か!そりゃめでたいな!おめでとう!いい日にしろよ〜!みんなもバースデーボーイを祝ってくれ!」
 それを聞いた周りからも「おめでとう」と拍手が起こる。
 「お前達〜!最高だぜ〜!」
 僕はなんだか照れくさくなりながら席に座る。
 「よーし、バースデーボーイもお祝いできたことだしもっと話そうぜ〜!」
 それから小さい子やおばあさん達と話を続けそろそろ終了の時間となった。
 「じゃあそろそろ俺の恋人と約束もあるから最後にしようか!ヒレあげてくれ〜!」
 最後と言われ更に中は最後の会話をしようと盛り上がる。
 その時今まで挙げてなかった西宮くんがゆっくりと手を挙げる。
 「じゃあそこのバースデーボーイの隣のお友達にしようか!」
 フラッシュに指され西宮くんはスっと立ち上がる。
 「今日好きな子に告白するつもりなんですけど、応援してくれませんか」
 (好きな子に告白………)
 「おおそうか!頑張れよ!俺も恋人のチェリーに一目惚れしたんだがお前もそうか?」
 「まあそんな感じです」
 「よーし、じゃあみんなで応援しないとな!なんならここで告白してもいいんだぜ?」
 「いや、大丈夫。俺も色々考えてきたので」
 「そうか?じゃあ頑張ってぶつかってこい!」
 そしてフラッシュは僕達に手……いやヒレを振って海の奥へと帰っていった。
 「……告白頑張ってね」
 「え?ああ、ありがと」
 「どんな人なの?西宮くんの好きな人って」
 僕が恐る恐るそんな質問をすると西宮くんは僕の方を見て答えてくれた。
 「まあ、俺が強引でも着いてきてくれる子かな?」
 「そうなんだ」
 「うん、相手からどう思われてるかは分からないけどね。嫌われちゃってるかもだし」
 「そんなことないんじゃない?西宮くんみんなに優しいし」
 僕がそう言うと西宮くんは嬉しそうに笑ってくれた。こんな思いも叶わないのかな。
 その後は乗れなかったスプラッターマウンテンやパーさんのフラワーハントなんかに乗って気づけばもう集合時間が近づいてきていた。
 「最後に寄りたいとこあるんだけどいい?」
 「うん」
 そう言えば告白するとか言ってたけどずっと僕といたような。ネズミーランドで告白するのが一番だと思ってたけど………
 西宮くんに連れられたのは船のアトラクションだった。
 ちょうど乗り込むタイミングだったようで僕達もすぐに乗れた。
 「では発車します、ご注意ください!」
 係員さんのその言葉で船は汽笛を鳴らし進み出す。
 「ねね、こっち来て」
 西宮くんは人の多い船をかき分けながらも西宮くんは僕を離すまいとガッチリと手を繋いでくれる。
 「見て、あっち」
 「わぁ……!」
 西宮くんの指さすほうを見ると夕日に照らされ赤く染まる水面が見えた。
 「綺麗」
 「でしょ?」
 「うん、ありがとう」
 「……あのさ、ちょっといい?」
 西宮くんの改まった態度に僕は少し驚きながらも耳を傾ける。
 「どうしたの?」
 「まずはさ、誕生日おめでとう」
 「うん、ありがとう」
 「プレゼント用意したんだ、手出して」
 西宮くんにそう言われ僕は手を差し出す。
 そして西宮くんはバッグから小包を取り出して僕に渡す。
 「開けていい?」
 「いいよ」
 ワクワクしながら包みを解くとかわいい星のキーホルダーが入っていた。
 「嬉しい!ありがとう」
 「どういたしまして」
 僕は包みを結び直し大事にカバンへとしまった。
 「……ね、あの時告白するって言ってたじゃん。まだしないの?ずっと僕といたけど」
 「ああ、そうだね。じゃあしよっかな今から」
 「今からって………」
 僕が驚いて西宮くんのほうを見ると西宮くんはいつもの笑顔で僕を見つめてくれた。
 「碧くん、好きです。俺とお付き合いしてくれますか」
 「………!?」
 まさか思ってもいなかった告白にびっくりする。周りの乗客達も僕達に視線を向ける。
 「でも僕……男だよ」
 「わかってる。それでも好きだよ、俺のお弁当美味しそうに食べてくれるところとか、無理やり勧誘したのにマネージャー頑張ってくれるとことか全部。他にも……」
 西宮くんがそう言いかけたところで僕はそれを止める。
 「もう大丈夫!恥ずかしいから……」
 「ふふ、すぐ答えなくてもいいよ。いつでも待つから」
 「……僕も西宮くんが好き。毎日お弁当作ってくれたり、いつも僕と話してくれて、部活でもマネージャーの仕事手伝ってくれる陽太くんが………」
 僕はそう言って西宮くんの手を握る。
 周りからは拍手が送られ僕達は晴れてお付き合いすることになった。

 そして夜になる。
 「碧くん♡」
 ベッドの上で抱き枕のように横たわりながらイチャイチャ?していると部屋に戻ってきた池田くんがすごい目で僕達を見つめる。
 「何?事後?」
 「これから」
 「あー……なんかごめん」
 池田くんはそう言いながら部屋を出ようととするので慌て止める。
 「大丈夫だから!しない!」
 「思春期だもんね」
 「ほんとにしないから……」
 「何を?」
 「えっ?」
 突然そんなことを聞かれて戸惑っていると西宮くんが僕を抱きしめながら池田くんを見て答える。
 「イチャイチャするの」
 「……付き合ったん?ようやく」
 「うん、そだよ。ね?碧くん」
 「………うん」
 恥ずかしそうに答える僕を陽太くんは抱きしめながら頭を撫でてくる。それを見て池田くんは「お幸せに」と呟いて部屋を出てしまった。
 「絶対勘違いされた」
 「えー?大丈夫だよイチャイチャするだけだし」
 「でも……」
 僕が上手く言えずに困っていると今度は鈴島くんが部屋に入ってきた。
 「え、何?事後?」
 「お前も一緒かよー」
 「事後じゃないから、気にしないで鈴島くん」
 「え、常盤くんって事後の意味知ってたんだ意外」
 「そうかな」
 というか今はそれどころじゃない、また池田くんみたいに誤解されたら困るのでどうにかして説得しなければ。
 「まあ程々にしろよ?修学旅行なんだし」
 「わかってるよー、まだしてないし」
 「まだってこれからするのかよ」
 「碧くん次第」
 陽太くんがそう言うと鈴島くんは僕をじっと見つめる。陽太くんは相変わらず抱きしめたまま離してくれない。
 「し、しない。今は………」
 「……そう」
 鈴島くんはそのまま何事も無かったかのように布団へと向かいスマホをいじる。
 「ただいまー」
 「あーおかえり池田」
 「まだやってたの?お前ら」
 「だってせっかく付き合えたんだよ?それに修学旅行明日で終わりじゃん」
 (確かに………)
 明日でもう終わりなのか。早かったな、時間が経つの。
 一日目に雨が降ったから短く感じたのだろう、もっと陽太くんと一緒にいたかった。
 そう思いながら僕は小さく陽太くんの腕をギュッと抱きしめた。
 「かわいい」
 そうすると陽太くんは更に僕のことを強く抱きしめる。それを横目に池田くんは鈴島くんの元へと歩いて一緒にスマホをいじりだした。
 「じゃあもう寝ちゃうか」
 「うん」
 消灯時間になりネズミーランドで疲れきった僕達はそのまま寝ることにしたその時だった。
 ふと陽太くんのスマホが目に入り画面をチラッと見るとそこには「太陽くんお土産よろしく」と返信が付きましたという通知が送られていた。
 (太陽って………まさか)
 まさかあの太陽が……そう考えながら僕は陽太くんの腕の中で眠りについた。