僕のたった1人のフォロワー

 SNS、インターネットが普及した現在多くの人が利用しているサービス。
 誰でも匿名で利用できるのでメリットもデメリットも多い。
 SNSが普及したことで手紙やはがきを出す文化はなくなりつつある。
 SNSをやってて当たり前という時代になってきているのだ。

 そんな中、高二になってつい先日やっとSNSを始めたのが僕だ。
 ただ、始めてみたはいいものの、フォロワーはゼロ。とりあえずハッシュタグでフォロワーを増やそうとしてみた………けれど増えることはなかった。ついたのは1いいねだけ。
 「昨日のストーリーやばくね?」
 「それな〜」
 女子達の会話が聞こえるが僕はクラスの誰とも繋がってないので話している内容はわからない。
 (僕には向いてないのかな、SNS)
 そんなことを思いながら教室の隅でスマホをいじっていると突然前の席の男子から声をかけられた。
 「ね、 シャー芯持ってない?貸してくんね」
 そう声をかけてきたのはクラス内ではもちろん学校外からも人気なイケメン、西宮陽太(にしみやひなた)くんだった。
 「え、あ………うん、どうぞ」
 僕は筆箱の中からシャー芯を取り出し西宮くんに渡した。
 「ありがと、碧くんってピンスタとかやってないの?」
 「え?えーっと………」
 「じゃあプイッターは?それかBeeReal」
 「………ってなんで僕の名前?」
 僕は先生からもたまに忘れられるくらい影薄いのに名前を覚えられているなんて初めて。
 と言ってもこのクラスになってからだけど。去年も大して覚えられてた訳じゃないけど。
 「ん?クラスの子の名前くらい普通覚えるよ、常磐碧(ときわあおい)くんでしょ?」
 「うん、そうだけど…………」
 「あおくんのがいい?」
 そういう問題なのか、そもそも西宮くんと僕は関わりがないからあおくん呼びするほどの仲でもない気が………
 「てか筆箱かわいいね、どこで買ったの」
 「えっ、ヴィレヴァン………」
 「へぇー、俺も今度買お」
 (それってお揃いってことじゃ………)
 色んな種類があればよかったけどあいにく一種類だけの筆箱だからお揃い確定になってしまう。
 けどモテ男の筆箱となると流行るのではないか?そうなると僕が同じだってなると色々厄介なことになるんじゃ…………
 そんなことを考えていれば授業の時間になり僕を見ていた西宮くんは残念そうに前を向いた。
 「今日のお昼二人で一緒に食べよ」
 「…………え?」
 いつものように一人でお弁当を準備していると話しかけてきたのは西宮くんだった。
 「ねー西宮くん!一緒にご飯食べない?」
 「西宮ー!飯食おうぜ!」
 幸いなことにクラスの女子や隣のクラスの男子が声をかけに来たからこれで二人きりは避けられるはず
 「今日は無理。行こ、碧くん」
 そう言って西宮くんは僕の弁当を自分の弁当と一緒に持ち、もう片方の手で僕の手を引く。
 僕はそのまま屋上まで連れていかれてしまった。
 「屋上って来れないんじゃ………」
 「んー?あー先生から特別に許可もらってんだよね。俺騒がしいとこより静かなとこのが落ち着くからさ」
 西宮くんはそう言いながら伸びをして床に座り込んだ。
 「座りなよ、立ってたらバレるよ」
 「う、うん」
 僕は西宮くんに促され恐る恐る端の方に座った。
 「そんなに離れてちゃ話せないじゃんか」
 西宮くんに何かしないようにあえて離れたところに座ったのに西宮くんはわざわざ僕の隣まで移動してきた。
 「逃げないでね」
 「………はい」
 「俺の弁当食べる?サンドイッチ作ってきたんだ」
 そう言って西宮くんは自分の弁当箱からハムとチーズが詰まったサンドイッチを取り出して僕に差し出した。
 「ありがと………って作ったの?」
 こんなに綺麗なサンドイッチ見たことがない。これを作ったのなら流石完璧イケメンと言ったところか。
 「うん、フルーツサンドもあるから好きなの取っていいよ」
 「えっと………大丈夫」
 「遠慮しないでいいよ〜、誰かと一緒に食べるために多く作ってきたんだ〜」
 西宮くんはもうひとつの弁当箱を開け中身を見せてくる。そこにはさっき言ってたフルーツサンドがぎっしり入っており、イチゴやキウイが美味しそうに輝いて見えた。
 「好きなのどうぞ」
 「えっと、じゃあキウイで」
 「キウイ好き?」
 「うん、好き」
 「じゃあ明日もいっぱい作ってくるね」
 「うん………え?」
 思わず答えてしまったが今明日もって言ったよね、つまり明日も呼び出されるってことじゃ…………
 「じゃあ明日も一緒に食べような」
 「は、はい…………」
 「あと、敬語禁止ね。タメ語でいいし陽太(ひなた)でいいよ」
 西宮くんはそう言ってポケットからおもむろにスマホを取りだした。
 「碧くん、LIME交換しよ」
 「………え?」
 「LIMEなら流石にやってるでしょ?」
 「え………ああまぁ」
 やってるとは言ってももう動いていない中学のクラスLIMEと親しかいないから使ってないも同然。
 一応持ってはいるので嘘はつかないでおこう。
 「じゃあ交換しよ、これ俺のQRだから読み込んで」
 「わかった………」
 僕なんかが西宮くんと繋がっていいのかわからないが本人が繋がりたいなら繋がっておこう。
 「クラスLIMEも入れていい?俺とだけ繋がっててもいいよ」
 「え、あー………大丈夫。僕なんて入ったって変わんないよ」
 「そんなことないと思うけどね、碧くんがそうしたいならいいよ」
 そして西宮くんはスマホを片手に持ったままお弁当を食べ進める。
 時間を見れば昼休みもあとわずかだったので僕も急いでお弁当を食べだした。

 「じゃ、明日弁当作ってくるから楽しみにしてて」
 「うん、ありがと」
 「そうだ!碧くんって部活やってる?やってなかったらサッカー部来てよ。グラウンドでやってるから」
 「え、いいの?」
 「見学くらいなら全然いいと思うよ、碧くん来てくれたら俺頑張れる」
 僕にそんな力はないと思うがとりあえず帰宅部だし暇だったから見に行ってもいいかもって思ったけど西宮くんがいるってことは観客多そうだよな…………
 「僕人多いとこ苦手だから行けないかも………」
 僕がそう伝えると西宮くんは一瞬考えるような仕草をして何かを閃いたのか嬉しそうに僕の肩を掴んだ。
 「じゃあさ………」

 放課後
 部活の時間、僕は西宮くんによってグラウンドに連れて行かれた。
 そして至近距離で椅子に座り部活の様子を眺める。
 「西宮!パス!」
 「オッケー!」
 部活仲間の声に合わせ受け取りやすいように走る西宮くん。そして聞こえる黄色い歓声。
 「あの………いいんですか?こんな特等席みたいな」
 「ん、ああいいよ。どうせ俺座る用だったけどあんま使わないし」
 そう、僕は西宮くんによって顧問の先生の椅子に座らされていた。
 ここなら女子の集団も離れてるしそれなりに落ち着くのだがなんだかまだ落ち着かない。
 でもまあせっかく呼ばれたのだからと目線をサッカー部の方へと戻すとちょうど西宮くんがシュートを決めたところで女子達からはさっきよりも大きい歓声が響く。
 そして仲間とハイタッチした西宮くんと目が合い西宮くんは僕の元へ走って駆け寄ってきた。
 「見てた?俺がシュートしたとこ」
 「うん、すごかった」
 「うぇーい」
 そう言って西宮くんは僕に手を向けた。
 「う、うぇーい?」
 「碧くんもハイタッチしよ」
 「え、うんわかった」
 僕は恐る恐る手を差し出して西宮くんの手にギリギリ触れないようエアハイタッチをした。
 けれど西宮くんは差し出した手に無理やり手を合わせハイタッチをしてきた。
 「今度試合もあるから絶対来てね」
 西宮くんはそう言って僕の頭をポンポンと優しく叩きみんなの元へ戻って行った。
 そして女子達から殺気も感じ取った………ような気がした。
 (ハイタッチの時とか何も言えなかった………)
 僕とハイタッチなんてしてよかったんだろうか………
 「君、常磐くんだっけ?西宮が言ってた」
 「え?あ、はい」
 「どうだ、サッカー部入るか?興味あったらいつでもいいぞ」
 部活の勧誘………しかも運動部。運動が苦手な僕が入る部活ではないな。
 「マネージャーでもいいぞ、うちの部活人多いから一人じゃ大変だろうし」
 顧問の先生が指さす方にはせっせとみんなに水を持っていってる女子がいた。
 「………まぁ、いきなりは無理なので考えておきます」
 「おう!お前が入ってくれれば西宮も喜びそうだしな」
 それはなんでなんだろう………僕と西宮くんは同じクラスになって席が近いからってちょっと話したことあるくらいでそんなに仲良いわけじゃないのに。
 そんなことを考えながら西宮くんの方を見ると笑顔で手を振ってきたので僕も目立たないように小さく手を振り返した。

 帰宅後、時刻は夜の十二時。僕はスマホのプイッターを開いて今日のことを呟いた。
 「今日、同じクラスのイケメンくんが部活の見学に誘ってくれてせっかくだからって見に行ったけど顧問の先生からマネージャーになったら?って勧誘されて悩んでる」
 「………よし」
 僕はそれだけ呟いてスマホを閉じて眠りについた。どうせ誰も見てないだろうしもうちょい具体的に書いてもよかったかな。
 僕はそのままスマホを置いて眠りについた。

 翌朝
 時間を見るためにスマホを手に取り確認しているとプイッターから新しいフォロワーの通知が来ていた。
 (誰だろ………)
 その通知を確認すると太陽という名前でフォロワー数は一万人を超えていた。
 しかもフォロー中の欄は1。僕以外にフォローしていないのだ。
 (流石に誤フォローだよね………)
 けどこんなフォロワー数多い人にも見られてるのか………気をつけなきゃな
 それはそうととりあえず誤フォローだということを伝えるためにDMで「誤フォローだと思うので全然解除してもらって構いません」と送ってみた。
 「碧ー!学校遅れるよ!」
 「今行く!」
 僕はスマホをポケットにしまい、家を出た。

 学校に着いて急いでスマホを確認すると太陽さんからDMが返ってきていた。
 「誤フォローじゃないよ、気にしないで」
 (気にしないでって言われても………)
 一万人超えのインフルエンサーに見られてるとなると緊張して投稿できないじゃないか。
 「おはよ、碧くん」
 「あ、おはよう………」
 「今日も一緒に食べよ」
 「うん、いいよ」
 「じゃあ絶対な、屋上で」
 勢いでOKしちゃったけどまた二人きりってことじゃ………

 そして昼休み、案の定屋上は二人きり。なんせ普段立ち入り禁止だから仕方ないか。
 「碧くんってさーいつも片目だけ隠してるけどなんで?」
 「えっ、それは…………」
 目の色が違うだなんて言えないし………どう言い訳しようか困っていると西宮くんは何かを察したのかお弁当箱を取りだし僕に差し出した。
 「今日もフルーツサンド作ってきたよ、キウイ好きだって言ってたからいっぱい入れた!」
 「あ、ありがと………なんで僕に?」
 同じ部活の子達にでも分けたらいいのになんで僕なんかにくれるのかと聞いてしまった。嫌な感じに受け取ってしまったら申し訳ない。
 「なんでって、仲良くしたいから?」
 「………ほんと?」
 今まで会ってきた中で僕と仲良くしたいなんて言う人は初めてだ。
 でもまさか西宮くんからとは思いもしなかった。僕と西宮くんなんて月とすっぽんだし。一応言っておくが僕がすっぽんだ。
 「ほんとだよ、じゃなかったら屋上になんか連れてこないし」
 「ん?屋上に友達呼んだりしないの?」
 「え?しないよ?言ったでしょ、静かな方が落ち着くって。そりゃあいつらと遊ぶのも楽しいけど静かに過ごしたい時あるし」
 「それはわかる」
 西宮くんは「でしょ?」と言いながらお弁当の卵焼きを口に入れる。
 「でも誰かついて来るとかないの?」
 「まぁ屋上までついてくるやつはいないかな、職員室近いし」
 「西宮くんは怒られないの?」
 「校長先生に許可もらってるしね、先生変わったら行けなくなるかも」
 まさか校長先生から許可もらってるとは………てっきり先生には全然知られていないのかと………
 「あ、そうそう。昨日の部活で亀田(かめだ)先生と何話してたの?」
 「え?あーあれはマネージャーにスカウトされて………」
 「ふーん、やろうよ。部活やってなかったよね」
 「いやでも僕男だし………」
 「男だとか関係ないと思うよ、陸上部だって一昨年(おととし)佐野先輩がマネージャーだったみたいだし」
 確かに僕がこの学校入る前に男のマネージャーさんがいたって話は聞いたことあるような………
 「碧くんがやりたいならやるでいいよ、無理強いとかしないし」
 西宮くんは優しい目で僕を見つめる、そして僕は少し考えて思い切って西宮くんに話した。
 「入部届とかってどうするの」
 「ん、いんじゃね?『入りたいでーす』って言えば、亀田先生呼ぼうか?」
 「今日って部活あるの?その時にでも」
 「あるよ、じゃあ一緒に行くか」
 西宮くんの誘いに「うん」と頷きお弁当を食べ終えた僕達は教室へと戻った。

 「あの、に……入部してもいいですか」
 「ん、いいぞー。じゃあ入部届書いてくれれば手続きとかしとくからそれ終わってから参加な」
 「はい、わかりました」
 そうして僕は亀田先生に入部することを伝え、昨日と同じように椅子に座った。
 (そういえば太陽さんのDMってどうなったのかな)
 ふと思い出しスマホを見ると一件のメッセージが届いていた。
 「アオくんは高校生?」
 僕はそれに「高二です」と答えDMを閉じた。高校生か聞かれただけだし学年を答える必要はなかったかもしれないけど………まあいっか
 「碧くん!入部するって言った?」
 「え、あ、うんあと入部届書くだけ」
 「そっか、楽しみだね」
 西宮くんは椅子に座る僕を見上げるようにしゃがみこみニコッと笑いかけた。僕には眩しすぎる、太陽みたいな笑顔だ。
 「次っていつなの?」
 「いつ?亀田先生」
 「今週はもうないかな、次は月曜日だな」
 「だってさ、忘れないでね」
 「うん、わかった」
 西宮くんはそう言って立ち上がり僕の頭をポンポンと撫でる。
 「まあ一緒に行くから大丈夫か、気にしないで」
 じゃあねと手を振り部活動へ戻っていく姿になんだかドキッとした。
 (ていうかこういうこと普通付き合い短い僕なんかにするか?)
 幸い観客達からは見えてなかったみたいだ。見られてたら「なんで見たことないあいつなんかが」とか思われたかもしれない。
 僕は亀田先生から入部届を貰いカバンにしまった。
 「じゃあ月曜日にでも持っていきますね」
 「おう、月曜日担当するクラス少ないしほとんど職員室いると思うから声かけといて」
 「はい、よろしくお願いします」
 僕は亀田先生にぺこりと小さくお辞儀をして部活の見学を続けた。
 「……………」
 ………それはそうとなんだかマネージャーの女子から見られてるような気がするけど気のせいだろうか。

 部活動も終わり入部届も書き終えた頃、ふとスマホを目をやると太陽さんからDMが来ていた。
 「俺も高二だよ、同じだね」
 まさかの同い年とは、こんな偶然もあるんだなあ。
 僕がそのままDMを見つめていると新しいメッセージが来た。
 「アオくんは普段何してるの」
 普段何してるのと言われてもこれといった趣味がない僕はどう答えればいいのかわからなかった。とりあえずそれなりの量はある漫画を読んでるということにでもしよう。
 「漫画読んでます」
 「へぇー、どんな漫画?」
 「柔術廻戦とかかな」
 「柔術廻戦おもろいよね、どのキャラ好き?俺は三条(さんじょう)かな」
 「僕は貓巻(ねこまき)です」
 三条も確かに「三条、参上!」という持ちギャグのあるキャラで結構好きだ。ただやっぱり僕的には貓巻の言霊の能力が強くて好きだ。
 「貓巻いいよね、言霊強いし」
 「三条だって『三条、参上!』ってやつ好きですよ」
 その後も柔術廻戦の話は続き、気づけば夜の二時になっていた。
 「もう二時だ」
 「ホントじゃん、アオくん寝ちゃう?」
 「寝ちゃうかもです」
 「オッケー、あ、タメ語でいいからねー敬語禁止で!」
 どこかで聞いたようなことを言われるが寝るとなると急に睡魔が襲ってきて僕はそのまま眠りについてしまった。
 ここまで話に熱中したのは初めてだ。明日も色んなこと話せるかな………