問題。
放物線y=x²、直線x=30、x軸で囲まれた部分の面積を求めよ。
答えは関数y=x²を0から30までで定積分することによって求められる。
定積分とは何か。
定積分とは、変化し続ける事象についてある一定期間におけるその全体量を求めることだ。
前に、放物線y=x²上においてx座標が2、、3、4の各点における接線の傾きを求めよ、という問題を解いた。
その答えは関数y= x²を各点で微分することによってと求められた。
微分とは、グラフ上の1点におけるそのグラフの変化率を求めることだ。
僕の結花理さんに対する思い、接線の傾き、変化率は一瞬一瞬、大きくなった。
では、僕の結花理さんに対する思いの総量はどれくらいになるだろう。
僕が結花理さんに血をあげて、二人で会うようになってから1ヶ月になる。日数にすると30日。
直線x=30は今日までの日数だ。そして今日までの僕の思いの総量は……いや、今はそんな計算をしてる場合じゃない。
結花理さんがいなくなった。大学病院から消えた。
病院はすぐに結花理さんのお母さんに連絡し、お母さんは警察に捜索願を出した。
今、警察が結花理さんを探している。
結花理さんがいなくなった時、宿直の看護士さんたちは皆、眠っていた。眠らされていたそうだ。
病院の防犯カメラには、結花理さんが、真っ黒なベンチコートを着て頭からフードを被った男性といっしょに出て行く姿が写っていたそうだ。
結花理さんはその男に連れ去られたのだ。
その男は……吸血鬼だ。結花理さんに咬みついて、結花理さんを吸血鬼にした張本人だ。
だとすれば……結花理さんは、吸血鬼の仲間のところへ行ってしまったのだろうか。
吸血鬼の仲間になって……もう、戻って来ないのだろうか。
勉強机に向かっていた僕はそのままベッドに倒れ込んだ。
そんなことはない。
結花理さんは無理やり連れ去られたのだ。
結花理さんは帰って来る。戻って来る。
なら……どこへ? 結花理さんはどこに戻って来る?
自分の家? 学校? 最も可能性が高いのは……
スマホが鳴った。電話だ。
起き上がった。
結花理さんのお母さんからだ。いっしょに大学病院へ行った時にお母さんとも電話番号を交換していた。
すぐに受電した。
『……西門君?』
涙声だった。
『……結花理……あなたのところに行ってない?』
「いえ……今のところ」
そう答えた。
今、お母さんが僕に電話を架けているということは、結花理さんは家には戻っていないということだ。
『……そう……』
落胆した声だ。
『結花理があなたのところに行ったら……どうか結花理を……』
「はい。もちろん」
答えた。
僕もお母さんと同じことを考えていた。結花理さんが戻る場所。
まずは、自分の家。お母さんのところ。
次に考えられるのは……そう、僕。僕のところだ。
『……お願いね……』
そう言って、お母さんは電話を切った。お母さんの泣き声が耳に残った。
結花理さんは、帰って来る。必ず。
改めて思った。
僕のところへ……
でも……僕は、どうすればいい? どこにいればいい?
こうして、僕の家で待っていればいいのか?
いや……結花理さんが僕に会いに来るとすれば、ここじゃない。
家には父親がいる。いてくれる。結花理さんが僕の家に来たら、すぐにわかる。
それなら……
机の引出しを開けた。
母さんからもらった、お守り。
一度手に手に取ってから、ズボンのポケットに押し込んだ。
部屋を出て玄関へ向かった。
扉を開けて、外へ出ようとした。
「甲斐! 待て!」
後ろから呼び止められた。父親だ。
「どこへ行く⁉ どうするつもりだ⁉」
振り向いた。
「僕は……後悔したくないんだ。父さんみたいに」
そう言って、そのまま外へ飛び出した。
曇り空。今にも雨が降り出しそうだ。
かまわない。僕は駅に向かって走り出した。
結花理さんが僕に会いに来るとしたら……僕はどこで結花理さんを待てばいい?
いつも二人で会っていた、僕の血を吸ってもらっていたあのファミレス……あるいは、初めて僕の血を吸った、あの公園……
いずれにしても、あの駅の周辺だ。そう思った。
電車に乗って、駅に着いた。
午前8時。ファミレスはまだ開店前だ。僕は学校側、公園のある方の出口へ向かった。
外へ出る手前の階段。
雨が降り出していた。傘は持ってなかった。
雨の中、それでも公園の入り口で待つか……
「西門?」
後ろから声を掛けられた。
振り向いた。
新也……だった。
阪堂新也。いつか公園で、美羅たちにだまされ結花理さんが待っていた相手。
「傘、ないのか?」
トレーニングウェア姿。部活……これから学校へ行くんだ。
「部活、だよね?」
「ああ……天気予報は雨だったけど、できるとこまでやろうと思って。でもこれじゃ、室内で筋トレだな」
新也は笑顔で答えてくれた。
「あの、もし蘇井さんを見かけたら……僕に連絡してくれないかな?」
結花理さんが学校へ行く可能性は低いだろう。でもひょっとしたら、新也に会いに行くことも……
美羅たちにだまされた時、結花理さんは公園で新也を待っていた。
ということは、結花理さんは新也に好意があったのかもしれなくて……一時期僕はそのことで悩んでいた。
「蘇井? 蘇井がどうかしたのか?」
新也が言った。
そうか。夏休み中だから、新也は結花理さんが入院していたことは知らないんだ。もちろん結花理さんがいなくなったことも。
「……」
答えられなかった。
「いいけど」
どう受け取ったのかわからないけど、新也はそう言ってくれた。
「西門とは……LINE繋がってないよな? 電話も知らないし」
そう。そうだった。新也だけじゃなく、僕はクラスメイトと親しくしていない。
「これ、俺の電話番号。それにLINE」
新也が自分のスマホを差し出してくれた。
「ありがとう」
僕もスマホを取り出した。新也が電話とLINEを交換してくれた。
「じゃ、蘇井がいたら連絡するから」
そう言って、新也はビニール傘を広げて階段を降りて行った。
「傘、大丈夫か」
振り向いた新也が言った。
「ありがとう。大丈夫」
そう答えた。
さて、これからどうする?
新也には「大丈夫」と答えたものの……
改札から見知った顔が出て来るのが見えた。
あれは……確か、拓海……
加志摩美羅といつもいっしょにいる男子のうちの一人。
ファミレスで僕と結花理さんを撮って……僕が乱闘騒ぎを起こした相手……
ひょっとしたら、結花理さんがあいつらのところへ行くことも……
走り寄って、拓海の前に立った。
「お前……」
拓海は驚いて声を上げた。
その顔は怯んでいた。僕のことを怖がっているみたいだ。ファミレスでことを思い出しているのだろう。
「……あの動画なら消去したよ……だからもう……」
今はそのことじゃない。
「結花理さんを、蘇井さんを見たら連絡して欲しいんだ」
真っ直ぐに目を見て、そう言った。
「……蘇井?」
新也と同じ反応だ。無理もない。
かまわずに続けた。
「だから、連絡先を……電話でいい、電話番号を教えてくれ」
「……電話?」
その時。
「拓海、何してるの」
声がした。
声の方を振り向いた。
美羅。加志摩美羅だった。
「あんた……まだ何か文句あるの?」
美羅が僕を睨んだ。
そうじゃない。そんなことじゃない。
「頼みがあるんだ」
美羅に向き直った。
「蘇井さんを見たら、連絡して欲しい」
もう一度、拓海に言ったのと同じことを言った。
「蘇井?……なんでそんなことしなくちゃいけないの」
「頼む」
僕は美羅に向かって頭を下げた。
「……だったら、この前のこと謝んなよ。あんなことしといて」
美羅が言った。
「この前のことは謝る。悪かった」
即座に応えた。あれこれ考えてる場合じゃない。
「そんなんじゃ足りないだろ。土下座でもしてみなよ」
美羅はそう言って僕を睨んだ。
僕はその場に膝を突いた。
「悪かった」
コンクリートの通路に両手を突いて、頭を下げた。
怪我んな顔をしたサラリーマンが僕たちの脇を通り過ぎて行った。
「……拓海、行くよ。将斗たち、もう来てるみたいだし」
美羅は僕を無視して階段の方へ歩き始めた。
「今日は、みんなで夏休みの課題やっつけちゃおうってことで……」
拓海が言い訳しながら美羅の後を追おうとした。
「待ってくれ」
僕は膝を突いたまま、拓海の腕を掴んだ。
「頼む」
美羅が振り返った。拓海が困った顔で美羅を見た。
「……勝手にすれば」
美羅が言った。
拓海がスマホを取り出した。
「……これ俺の番号」
「ありがとう」
僕は座ったまま、拓海の番号を自分のスマホに入力した。
放物線y=x²、直線x=30、x軸で囲まれた部分の面積を求めよ。
答えは関数y=x²を0から30までで定積分することによって求められる。
定積分とは何か。
定積分とは、変化し続ける事象についてある一定期間におけるその全体量を求めることだ。
前に、放物線y=x²上においてx座標が2、、3、4の各点における接線の傾きを求めよ、という問題を解いた。
その答えは関数y= x²を各点で微分することによってと求められた。
微分とは、グラフ上の1点におけるそのグラフの変化率を求めることだ。
僕の結花理さんに対する思い、接線の傾き、変化率は一瞬一瞬、大きくなった。
では、僕の結花理さんに対する思いの総量はどれくらいになるだろう。
僕が結花理さんに血をあげて、二人で会うようになってから1ヶ月になる。日数にすると30日。
直線x=30は今日までの日数だ。そして今日までの僕の思いの総量は……いや、今はそんな計算をしてる場合じゃない。
結花理さんがいなくなった。大学病院から消えた。
病院はすぐに結花理さんのお母さんに連絡し、お母さんは警察に捜索願を出した。
今、警察が結花理さんを探している。
結花理さんがいなくなった時、宿直の看護士さんたちは皆、眠っていた。眠らされていたそうだ。
病院の防犯カメラには、結花理さんが、真っ黒なベンチコートを着て頭からフードを被った男性といっしょに出て行く姿が写っていたそうだ。
結花理さんはその男に連れ去られたのだ。
その男は……吸血鬼だ。結花理さんに咬みついて、結花理さんを吸血鬼にした張本人だ。
だとすれば……結花理さんは、吸血鬼の仲間のところへ行ってしまったのだろうか。
吸血鬼の仲間になって……もう、戻って来ないのだろうか。
勉強机に向かっていた僕はそのままベッドに倒れ込んだ。
そんなことはない。
結花理さんは無理やり連れ去られたのだ。
結花理さんは帰って来る。戻って来る。
なら……どこへ? 結花理さんはどこに戻って来る?
自分の家? 学校? 最も可能性が高いのは……
スマホが鳴った。電話だ。
起き上がった。
結花理さんのお母さんからだ。いっしょに大学病院へ行った時にお母さんとも電話番号を交換していた。
すぐに受電した。
『……西門君?』
涙声だった。
『……結花理……あなたのところに行ってない?』
「いえ……今のところ」
そう答えた。
今、お母さんが僕に電話を架けているということは、結花理さんは家には戻っていないということだ。
『……そう……』
落胆した声だ。
『結花理があなたのところに行ったら……どうか結花理を……』
「はい。もちろん」
答えた。
僕もお母さんと同じことを考えていた。結花理さんが戻る場所。
まずは、自分の家。お母さんのところ。
次に考えられるのは……そう、僕。僕のところだ。
『……お願いね……』
そう言って、お母さんは電話を切った。お母さんの泣き声が耳に残った。
結花理さんは、帰って来る。必ず。
改めて思った。
僕のところへ……
でも……僕は、どうすればいい? どこにいればいい?
こうして、僕の家で待っていればいいのか?
いや……結花理さんが僕に会いに来るとすれば、ここじゃない。
家には父親がいる。いてくれる。結花理さんが僕の家に来たら、すぐにわかる。
それなら……
机の引出しを開けた。
母さんからもらった、お守り。
一度手に手に取ってから、ズボンのポケットに押し込んだ。
部屋を出て玄関へ向かった。
扉を開けて、外へ出ようとした。
「甲斐! 待て!」
後ろから呼び止められた。父親だ。
「どこへ行く⁉ どうするつもりだ⁉」
振り向いた。
「僕は……後悔したくないんだ。父さんみたいに」
そう言って、そのまま外へ飛び出した。
曇り空。今にも雨が降り出しそうだ。
かまわない。僕は駅に向かって走り出した。
結花理さんが僕に会いに来るとしたら……僕はどこで結花理さんを待てばいい?
いつも二人で会っていた、僕の血を吸ってもらっていたあのファミレス……あるいは、初めて僕の血を吸った、あの公園……
いずれにしても、あの駅の周辺だ。そう思った。
電車に乗って、駅に着いた。
午前8時。ファミレスはまだ開店前だ。僕は学校側、公園のある方の出口へ向かった。
外へ出る手前の階段。
雨が降り出していた。傘は持ってなかった。
雨の中、それでも公園の入り口で待つか……
「西門?」
後ろから声を掛けられた。
振り向いた。
新也……だった。
阪堂新也。いつか公園で、美羅たちにだまされ結花理さんが待っていた相手。
「傘、ないのか?」
トレーニングウェア姿。部活……これから学校へ行くんだ。
「部活、だよね?」
「ああ……天気予報は雨だったけど、できるとこまでやろうと思って。でもこれじゃ、室内で筋トレだな」
新也は笑顔で答えてくれた。
「あの、もし蘇井さんを見かけたら……僕に連絡してくれないかな?」
結花理さんが学校へ行く可能性は低いだろう。でもひょっとしたら、新也に会いに行くことも……
美羅たちにだまされた時、結花理さんは公園で新也を待っていた。
ということは、結花理さんは新也に好意があったのかもしれなくて……一時期僕はそのことで悩んでいた。
「蘇井? 蘇井がどうかしたのか?」
新也が言った。
そうか。夏休み中だから、新也は結花理さんが入院していたことは知らないんだ。もちろん結花理さんがいなくなったことも。
「……」
答えられなかった。
「いいけど」
どう受け取ったのかわからないけど、新也はそう言ってくれた。
「西門とは……LINE繋がってないよな? 電話も知らないし」
そう。そうだった。新也だけじゃなく、僕はクラスメイトと親しくしていない。
「これ、俺の電話番号。それにLINE」
新也が自分のスマホを差し出してくれた。
「ありがとう」
僕もスマホを取り出した。新也が電話とLINEを交換してくれた。
「じゃ、蘇井がいたら連絡するから」
そう言って、新也はビニール傘を広げて階段を降りて行った。
「傘、大丈夫か」
振り向いた新也が言った。
「ありがとう。大丈夫」
そう答えた。
さて、これからどうする?
新也には「大丈夫」と答えたものの……
改札から見知った顔が出て来るのが見えた。
あれは……確か、拓海……
加志摩美羅といつもいっしょにいる男子のうちの一人。
ファミレスで僕と結花理さんを撮って……僕が乱闘騒ぎを起こした相手……
ひょっとしたら、結花理さんがあいつらのところへ行くことも……
走り寄って、拓海の前に立った。
「お前……」
拓海は驚いて声を上げた。
その顔は怯んでいた。僕のことを怖がっているみたいだ。ファミレスでことを思い出しているのだろう。
「……あの動画なら消去したよ……だからもう……」
今はそのことじゃない。
「結花理さんを、蘇井さんを見たら連絡して欲しいんだ」
真っ直ぐに目を見て、そう言った。
「……蘇井?」
新也と同じ反応だ。無理もない。
かまわずに続けた。
「だから、連絡先を……電話でいい、電話番号を教えてくれ」
「……電話?」
その時。
「拓海、何してるの」
声がした。
声の方を振り向いた。
美羅。加志摩美羅だった。
「あんた……まだ何か文句あるの?」
美羅が僕を睨んだ。
そうじゃない。そんなことじゃない。
「頼みがあるんだ」
美羅に向き直った。
「蘇井さんを見たら、連絡して欲しい」
もう一度、拓海に言ったのと同じことを言った。
「蘇井?……なんでそんなことしなくちゃいけないの」
「頼む」
僕は美羅に向かって頭を下げた。
「……だったら、この前のこと謝んなよ。あんなことしといて」
美羅が言った。
「この前のことは謝る。悪かった」
即座に応えた。あれこれ考えてる場合じゃない。
「そんなんじゃ足りないだろ。土下座でもしてみなよ」
美羅はそう言って僕を睨んだ。
僕はその場に膝を突いた。
「悪かった」
コンクリートの通路に両手を突いて、頭を下げた。
怪我んな顔をしたサラリーマンが僕たちの脇を通り過ぎて行った。
「……拓海、行くよ。将斗たち、もう来てるみたいだし」
美羅は僕を無視して階段の方へ歩き始めた。
「今日は、みんなで夏休みの課題やっつけちゃおうってことで……」
拓海が言い訳しながら美羅の後を追おうとした。
「待ってくれ」
僕は膝を突いたまま、拓海の腕を掴んだ。
「頼む」
美羅が振り返った。拓海が困った顔で美羅を見た。
「……勝手にすれば」
美羅が言った。
拓海がスマホを取り出した。
「……これ俺の番号」
「ありがとう」
僕は座ったまま、拓海の番号を自分のスマホに入力した。



