――あれから、どれくらい経ったのか、
目を開けると白い天井がうっすらと見えた。
「……あれ、私……」
起き上がろうとして、くらりと眩暈がした。
「あら、起きたのね?無理しないで。」
優しい女性の声がしていた。
どうもここは保健室のベッドで、話しかけてきたのは保健室の先生らしい。
「あなた、貧血を起こしていたのよ」
そしてはっとして、記憶が一気に戻る。
(そういえば、私。階段から…!)
「すみません!あの、私を運んでくれた人?は……?」
勢いよく尋ねると、先生は微笑んだ。
「あぁ、一先生ね。顔色が悪くてぐったりしているあなたを、ここまで運んでくれたのよ。直ぐに出ていったけど。まぁ、この学園の先生だからその内また会えるわ」
「にのまえ……先生?」
胸の奥が、らしくもなくきゅっと鳴った。
(先生、というか……そもそも、すっごくイケメンだった気がするんだけど。
いやいやいやいや。
落ち着いて、北条鈴!あくまで教師だよ?
ちょっーと珍しく、1ミリくらいは?ときめいた?かもしれないけど、いつもならもっと冷静なはずなのに。
っていうか、運んで直ぐに立ち去る?ちょっと声かけてくれても良いんじゃないの?仮にも私、自分で言ったらなんだけど、結構モテモテで可愛い女子高生だよ??そこ、ちょっとでも気にならない?!…っていうか私、何考えてんの?
……まさかまさか、そんなわけ、ないよね?)
色々な考えが一気に飛び、首をぶんぶん振る。
桜の見える窓の外を、冷静さを戻した鈴はぼんやりと見つめていた。
保健室の白いカーテンが、春の風にゆっくり揺れている。
午後の光はやわらかくて、まるで薄い水彩絵の具を重ねたみたいに淡い色を放っていた。
校庭の桜は満開で、花びらが一枚、ふわりと宙を泳いだ。
落ちるというより、光に溶けていくみたいに。
でも、
(あの、焦った顔とか…なんかこう、とっても優しそうだったなぁ……)
思い出すのは、ほんのり温かいあの腕の感触。
落ちるはずだった身体を支えた、力強さも。
スーツ越しに伝わった鼓動も。
少し乱れた呼吸と、焦った声も。
「君、大丈夫か」
たったそれだけなのに、胸の奥がまだ少し脈を打つように静まらない。
追われる恋には、いつも慣れている。
「好きだ」と言われて、
告白されて、
なんとなく付き合って、
なんとなく終わる。
いつもは、余裕のある側だった。
傷つかない場所に立って、相手の気持ちを受け取るだけ。
でも。
自分から会いたいと思うなんて。
名前を呼びたくなるなんて。
もう一度、あの声を聞きたいかも、なんて。
そんな…、そんな"追いかけたくなる恋"なんて――
むしろ全く知らない。
窓の向こうで、桜吹雪が一瞬だけ強く舞い上がった。
光をまとった花びらが、空を泳いで、そしてゆっくり落ちていく。
ほんの一瞬、世界が反転して、
重力に身を委ねるしかなかったあの瞬間に。
私は、階段から落ちたはずなのに。
だけど本当に落ちたのは――
たぶん、私の心のほうだっのかもしれない。
守られた腕の中で、初めて自分の鼓動がいつもと違う、怖いくらい大きく鳴っていた。
"恋って、こうやって始まるの?"
不意打ちみたいに。
事故みたいに。
抗えない引力みたいに。
桜の花びらが窓辺に一枚、そっと張りついた。
春は、静かに始まっている。
「…お礼、言いそびれちゃった!」
そんな小さな咲き始めた"恋"というものに気づくのは、もっと後の話。
目を開けると白い天井がうっすらと見えた。
「……あれ、私……」
起き上がろうとして、くらりと眩暈がした。
「あら、起きたのね?無理しないで。」
優しい女性の声がしていた。
どうもここは保健室のベッドで、話しかけてきたのは保健室の先生らしい。
「あなた、貧血を起こしていたのよ」
そしてはっとして、記憶が一気に戻る。
(そういえば、私。階段から…!)
「すみません!あの、私を運んでくれた人?は……?」
勢いよく尋ねると、先生は微笑んだ。
「あぁ、一先生ね。顔色が悪くてぐったりしているあなたを、ここまで運んでくれたのよ。直ぐに出ていったけど。まぁ、この学園の先生だからその内また会えるわ」
「にのまえ……先生?」
胸の奥が、らしくもなくきゅっと鳴った。
(先生、というか……そもそも、すっごくイケメンだった気がするんだけど。
いやいやいやいや。
落ち着いて、北条鈴!あくまで教師だよ?
ちょっーと珍しく、1ミリくらいは?ときめいた?かもしれないけど、いつもならもっと冷静なはずなのに。
っていうか、運んで直ぐに立ち去る?ちょっと声かけてくれても良いんじゃないの?仮にも私、自分で言ったらなんだけど、結構モテモテで可愛い女子高生だよ??そこ、ちょっとでも気にならない?!…っていうか私、何考えてんの?
……まさかまさか、そんなわけ、ないよね?)
色々な考えが一気に飛び、首をぶんぶん振る。
桜の見える窓の外を、冷静さを戻した鈴はぼんやりと見つめていた。
保健室の白いカーテンが、春の風にゆっくり揺れている。
午後の光はやわらかくて、まるで薄い水彩絵の具を重ねたみたいに淡い色を放っていた。
校庭の桜は満開で、花びらが一枚、ふわりと宙を泳いだ。
落ちるというより、光に溶けていくみたいに。
でも、
(あの、焦った顔とか…なんかこう、とっても優しそうだったなぁ……)
思い出すのは、ほんのり温かいあの腕の感触。
落ちるはずだった身体を支えた、力強さも。
スーツ越しに伝わった鼓動も。
少し乱れた呼吸と、焦った声も。
「君、大丈夫か」
たったそれだけなのに、胸の奥がまだ少し脈を打つように静まらない。
追われる恋には、いつも慣れている。
「好きだ」と言われて、
告白されて、
なんとなく付き合って、
なんとなく終わる。
いつもは、余裕のある側だった。
傷つかない場所に立って、相手の気持ちを受け取るだけ。
でも。
自分から会いたいと思うなんて。
名前を呼びたくなるなんて。
もう一度、あの声を聞きたいかも、なんて。
そんな…、そんな"追いかけたくなる恋"なんて――
むしろ全く知らない。
窓の向こうで、桜吹雪が一瞬だけ強く舞い上がった。
光をまとった花びらが、空を泳いで、そしてゆっくり落ちていく。
ほんの一瞬、世界が反転して、
重力に身を委ねるしかなかったあの瞬間に。
私は、階段から落ちたはずなのに。
だけど本当に落ちたのは――
たぶん、私の心のほうだっのかもしれない。
守られた腕の中で、初めて自分の鼓動がいつもと違う、怖いくらい大きく鳴っていた。
"恋って、こうやって始まるの?"
不意打ちみたいに。
事故みたいに。
抗えない引力みたいに。
桜の花びらが窓辺に一枚、そっと張りついた。
春は、静かに始まっている。
「…お礼、言いそびれちゃった!」
そんな小さな咲き始めた"恋"というものに気づくのは、もっと後の話。



