白蓮妃の一件が終わり、数十日が経った。
彼女の死は後宮に住まう女たちの間で相当の衝撃を生んだらしい。白蓮妃を慕う者も多かったこともあり、一時は混乱状態にあったのだという。後宮の管理を任されている冥焔は一時期その処理で奔走していたらしく、しばらく麗麗の元を訪れる暇がなかったくらいである。
しかし、好了疮疤忘了疼とはよく言ったもので、一時の混乱が落ち着けば、あとはいつも通りの女の園だ。
あれほど暗い雰囲気だった後宮は一転し、元の華やかさを取り戻しつつある。
皇帝から『ガリレオ』の号をいただいた麗麗であるが、立場は変わらず女官である。変わった点といったら、今まで非公式に行われていた調査が公的になったくらいで、やることはほとんど変わらない。四夫人のひとり、淑妃・瑛琳妃の側付き女官という立場も据え置きである。
これには麗麗、大変喜んだ。
四六時中、冥焔とふたりの業務だと大変居心地が悪いうえに、変な誤解──麗麗と冥焔がよい仲であるという誤解──を助長するだけであるし、なにより息が詰まる。
一方で、『深藍宮』のなんと居心地のいいことか。仕えている瑛琳妃は素敵な妃だし、同僚は面倒見がいいし、そしてとにかく飯がうまい。あんなに居心地のいい職場を逃してなるものかという心持ちなのである。
華やかさを取り戻しつつあるとはいっても、ここは後宮。愛憎渦巻く場所であるからには、やはり怪異のひとつやふたつ、三つや四つは湧くもので、冥焔、麗麗はそれなりに忙しい日々を送っていた。
そんなわけで、今日も今日とて、麗麗は冥焔と怪異の調査に繰り出していたのだが、広場に出た途端あっという間に女官たちに取り囲まれてしまった。もちろん、彼女たちの目当ては冥焔だ。
どうやら噂で、冥焔(と、おまけの麗麗)が怪異の調査をしているのだと広まってしまったらしい。こうして冥焔を取り囲んでは、やれ幽鬼が出ただのやれ呪われただの、ぴーちくぱーちく雀の子状態である。
(やれやれですよ)
女官たちの目には冥焔しか映っていないらしく、麗麗は最初から蚊帳の外だ。意図的に話しかけないのか、本当に見えていないのかは麗麗にはわからない。まあ絡まれないだけましかと思っておくのがよさそうである。
それにしても女官たち、やたらと積極的だ。以前は遠巻きに見るだけの者が多かったのに、最近はとみに絡まれる率が高まった。
今も、取り巻き女官のひとりがしなを作り、冥焔にしなだれかかるようにして言葉を落とした。
「ねえ冥焔様。お願いです、私の房にいらしてくださらない?」
それでも無言の冥焔に焦れたらしい。なんとその女官、冥焔の腕に自分の腕をするりと絡ませた。
(うわあ)
やめとけやめとけ、あとが怖い。
なぜ彼女たちは気づかないのか。冥焔の額に浮かんでいる青筋に。
「離せ」
ほらみろ、怒った。
「誰の許可を得て俺に触っているのだ」
冥焔は鋭い目つきで女官をにらみつけた。
彼女の死は後宮に住まう女たちの間で相当の衝撃を生んだらしい。白蓮妃を慕う者も多かったこともあり、一時は混乱状態にあったのだという。後宮の管理を任されている冥焔は一時期その処理で奔走していたらしく、しばらく麗麗の元を訪れる暇がなかったくらいである。
しかし、好了疮疤忘了疼とはよく言ったもので、一時の混乱が落ち着けば、あとはいつも通りの女の園だ。
あれほど暗い雰囲気だった後宮は一転し、元の華やかさを取り戻しつつある。
皇帝から『ガリレオ』の号をいただいた麗麗であるが、立場は変わらず女官である。変わった点といったら、今まで非公式に行われていた調査が公的になったくらいで、やることはほとんど変わらない。四夫人のひとり、淑妃・瑛琳妃の側付き女官という立場も据え置きである。
これには麗麗、大変喜んだ。
四六時中、冥焔とふたりの業務だと大変居心地が悪いうえに、変な誤解──麗麗と冥焔がよい仲であるという誤解──を助長するだけであるし、なにより息が詰まる。
一方で、『深藍宮』のなんと居心地のいいことか。仕えている瑛琳妃は素敵な妃だし、同僚は面倒見がいいし、そしてとにかく飯がうまい。あんなに居心地のいい職場を逃してなるものかという心持ちなのである。
華やかさを取り戻しつつあるとはいっても、ここは後宮。愛憎渦巻く場所であるからには、やはり怪異のひとつやふたつ、三つや四つは湧くもので、冥焔、麗麗はそれなりに忙しい日々を送っていた。
そんなわけで、今日も今日とて、麗麗は冥焔と怪異の調査に繰り出していたのだが、広場に出た途端あっという間に女官たちに取り囲まれてしまった。もちろん、彼女たちの目当ては冥焔だ。
どうやら噂で、冥焔(と、おまけの麗麗)が怪異の調査をしているのだと広まってしまったらしい。こうして冥焔を取り囲んでは、やれ幽鬼が出ただのやれ呪われただの、ぴーちくぱーちく雀の子状態である。
(やれやれですよ)
女官たちの目には冥焔しか映っていないらしく、麗麗は最初から蚊帳の外だ。意図的に話しかけないのか、本当に見えていないのかは麗麗にはわからない。まあ絡まれないだけましかと思っておくのがよさそうである。
それにしても女官たち、やたらと積極的だ。以前は遠巻きに見るだけの者が多かったのに、最近はとみに絡まれる率が高まった。
今も、取り巻き女官のひとりがしなを作り、冥焔にしなだれかかるようにして言葉を落とした。
「ねえ冥焔様。お願いです、私の房にいらしてくださらない?」
それでも無言の冥焔に焦れたらしい。なんとその女官、冥焔の腕に自分の腕をするりと絡ませた。
(うわあ)
やめとけやめとけ、あとが怖い。
なぜ彼女たちは気づかないのか。冥焔の額に浮かんでいる青筋に。
「離せ」
ほらみろ、怒った。
「誰の許可を得て俺に触っているのだ」
冥焔は鋭い目つきで女官をにらみつけた。



