廟の近くの池には、『映月池』という名がついている。字の通り、月を映す池という意味である。
辿り着いてみると、もう日が傾き始めるような時分だ。池には斜陽の影が伸び、うす暗い。かなり不気味な様子である。
「今はこのありさまだが、もともとはもっとしっかりした池だったらしい。あの亭子では年中妃たちが茶会をしていたというし、池に船を浮かべて遊んだという記録も残っている。しかし、今は……」
なるほど確かに、積み上げられた石垣であったり、浮かぶ蓮の種類が明らかに観賞用であったりと、池のあちこちには手が入れられていた気配が残っている。だがしかし、沈殿物が多いのだろう、池の内部はすっかりと濁って異臭を放っているし、亭子には蔦状の植物が絡みついており、朽ち果てた印象に一役買っている。
今にも『ひゅーどろどろ』と音が聞こえそうだ。おどろおどろしいにもほどがある。
「これはものすごい迫力ですねえ」
想像していた池よりも恐ろしく不気味な姿に、さしもの麗麗もごくりと唾を飲み込んだ。
「水鬼が出たという事例に、共通項目はありますか」
ふむ、と冥焔は顎を撫でた。
「夜に出るというのは共通しているが、それだけだ」
「天気はどうです?」
麗麗に水を向けられ、冥焔は記憶を探るように目を細め、はっとした。
「それでいうと、ある。どの日も皆、雷が聞こえたという報告が入っている。それでより怪異を連想したのだと考えたのだが」
「不審な灯りって、もしかして、青や緑色のような?」
「そうだ」
ははあ、と麗麗は唇の端を持ち上げる。
「おそらくですが、冥焔様。それは怪異ではございません」
その答えを待っていたのだろう。冥焔はうなずいた。
「説明せよ、女官」
「はい。水鬼の正体は鬼火です」
「鬼火……? それは怪異ではないのか?」
「ええ。自然現象にそういう名がついているのです」
麗麗は池の様子をじっと眺める。
「こういった池やじめっとした場所では、土の中や水の中に発火しやすい気がたまることがあります。それがちょっとした刺激で燃えて起こる現象です。今回の場合は、おそらく雷が原因でしょう」
「しかし、遠雷だぞ。直接落ちるならまだわかるが、遠くで鳴っている雷にそんな力があるとは思えないが」
冥焔の疑問に、麗麗は軽く首を横に振った。
「あるんです。空がひと続きであるように、気もひと続きなんですよ。だから、遠くの雷でも、その気を纏ったものが流れ込んでくれば十分に可能性があります。または……水の泡、ですかね」
「泡、だと?」
「ええ。水中から立ちのぼる泡って、ぱちんと弾けるでしょう? そのときに、ごくごく微量ですが、雷と同じ気を纏うことがあるんです。それが水中に溜まっていた気を燃やす、という説があります」
麗麗もとい佐々木愛子が死んだときにはまだ公式には発表されていなかったが、そんな研究をしていたところがあったはずだ。
「火のないところで火が燃えるのは一見不思議に思えるのですが、紐解いてみればちゃんと理由があるんです。ですからこれは──」
自然現象で説明できます、と麗麗が宣言しようとしたときだった。
「鬼火|ではありません」
突然聞こえてきた第三者の声に、麗麗は咄嗟に息を呑んだ。振り返ると、目に入るのは夕日に照らされた金色の髪。黒一色の襦裙を身に纏った貴人が、面のように表情を変えずに佇んでいた。
「れ……黎蘭様!」
なぜここに!? しかも黎蘭妃はあろうことか、女官を連れていない。たったひとりで、こんな場所にいるなんてありえない。
慌てて揖礼をした麗麗と冥焔の横をすっと横切ると、黎蘭妃は池を目の前にしゃがみ込んだ。服が汚れるのも気にせずに池の畔の土を触り、何度か指先をこすり合わせると再び立ち上がった。
「まがい物です。真の鬼火が出るには早すぎる」
「……!」
ど肝を抜かれるとはこのことだ。ぎょっとして、揖礼した袖から顔を上げてしまいそうになり慌てて唇を引き結んだ。
麗麗が当初気にしていたのもそこなのだ。
鬼火は秋口によく出る。湿度と気温の兼ね合いで条件がそろいやすいのだろうと言われているのだ。だがしかし、今の季節は春。
早すぎる、と麗麗も感じた。だが現場を見て、この条件ならあるいは、と思ってしまった。
「半瓶酢晃な知識は身を滅ぼします。大家から号を賜ったそうですが、これでは先が思いやられますね」
かっと麗麗の顔が熱くなる。恥ずかしくて、いたたまれなくて体が強ばった。
(憶測で断言しようとしてしまった……)
この国のあらゆる神々・仙人・仏、そしてなにより自身の崇拝するガリレオに平謝りしたい。
いつの間にか、ゆるんでいたのだ。冥焔と一緒に怪異を解決しているうちに、知らず知らず慣れが出た。だからこういう失態を犯してしまった。
麗麗が袖の下で盛大に恥じている前で、黎蘭妃はもうこちらに興味をなくしたらしい。土を触った手を巾で拭くと、その巾を再び服の中に戻し、あっさりと踵を返した。
慌てて冥焔が声をあげる。
「黎蘭妃。なぜこのような場所に。あなた様はひとりで宮の外に出てはならないご身分でございます。立場をわきまえていただきますよう、切にお願い申し上げます」
咎めるような冥焔の声にも、妃は一切反応しない。
「風の声を聞きなさい」
そうひと言だけ言い残し、妃はその場をあとにした。
衣擦れの音が聞こえなくなり、黎蘭妃が完全に去っあとでも、麗麗は顔を伏せたままである。
「……女官」
すでに礼を解いた冥焔が声をかけてくる。
「なぜまだ礼を」
「……です」
「は?」
「私っ! とっても恥ずかしいです!」
がばっと顔を上げると、麗麗は両手で頭を抱えてうんうん唸った。
「えっ、まじで無理。自分が恥ずかしすぎてまじ無理すぎます! うわああああっ、地面に穴掘っておとなしくその中で五年くらいロムってろって話ですよね!? ダメージでかすぎてほんときつい!」
「お前はなにを言ってるんだ?」
顔をしかめた冥焔を尻目に、麗麗はすーはーと息を吸った。そして、ばちん、と自分の両頬を手のひらで叩く。
(落ち着け落ち着け! こっから取り返そう!)
改めて池の様子を見る。おどろおどろしい池はかなり濁っていて、中の様子までは見通せない。
目を細めて遠くを観察すると、水面になにかきらりと光る物がある。夕日に照らされてぬらぬらと光るその正体に気づいたとき、麗麗の頭の中に、ぱちんとパズルが組み合わさった。
今度の方程式は間違えていないはずだ。
「冥焔様!」
「な、なんだ、急に」
「作られた怪異の可能性があります」
「……聞こう」
冥焔の顔つきが変わった。麗麗は冥焔の瞳をまっすぐ見つめ、唇を舐める。
「先ほど話した鬼火の件。黎蘭妃のおっしゃる通り、自然発生するには季節が合いません。本来、鬼火は秋口に発生する事例が多いのです。なので、私はてっきり、この池の環境が条件に合致していたのだと早とちりしてしまいました。しかし……」
麗麗は池の奥を指さした。
「あれを見てください」
視線の先には、藻の浮かんだ水面が見える。その水面は夕日を受けて、かすかに虹色に輝いていた。
「油膜です」
「油膜……とは、油の膜のことか。なぜこんな場所に」
前世の都心部の水たまりにもよく油の膜が張っている事例がある。それは生活用水で汚染されていた水だ。しかし、ここは焱国であり、こんな人けのないところで油汚れが発するはずがない。で、あれば、あの油の膜はなんだという話である。
麗麗には見当がついていた。
「おそらく、香油だと思います」
香油は焱国でもよく使われる。妃の髪や体に使用し、髪や肌を保湿し美しく保つのだ。また、香油は体温でほのかに香るため、閨事の際には雰囲気を盛り上げるために必ず使われる。おなじみの油である。
しかし、当然ながらこのような池の上に浮いている代物ではない。香油は超高級品なのだ。
冥焔は訝し気な表情である。
「香油が浮いていることはわかった。しかし、今回の件と香油とはなにが関係しているのだ」
「はい。油は水に溶けません。薄い膜となって水面に広がり、そこに留まり続けます。そこに水中から燃えやすい気が昇ってきたらどうなるか。本来であれば、気は空に向かって少しずつ蒸発していくのですが、油膜に覆われているためそれが適いません。燃えやすい気は油膜の下に留まり続け、ほんの少しの火種で燃え上がる。条件がそろわなくても、鬼火を発生させられます」
「しかし、香油が故意的に撒かれた証はどこにもないだろう。この付近は確かに人けがないが、とはいっても誰も来ないというわけではない。信心深い妃や女官、宦官が廟を訪れ、なにかしらの事故で池に落ちた際に香油を撒いてしまったとも考えられるのではないか」
冥焔の言葉に、麗麗は軽くうなずいた。
「高級品である香油を、このような場所に持ち込む者がいるかいないかは置いておいて。確かに可能性としてはありますね。なので、この鬼火が故意的か否かを確かめるために、ひとつやっていただきたいことがあります」
麗麗は一度言葉を切った。そして一度唇を舐め、再度口を開く。
「この池の底をさらってください」
なぜ秋口に鬼火が発生しやすいかと言えば、それは夏の到来がある。暑い時期に腐敗したものがガスとなり水上に上がってくる。だからこそ秋口にこのような事例が発生しやすい。春はまだ腐敗の時期ではない。自然に腐敗物がたまるとは考えにくいのだ。であれば、おそらく故意的になにかが沈められている可能性がある。
「動物の死骸や骨、食べ物の滓や腐った米。それらが出てきたら当たりです」
もしこの怪異が作られているなら、おそらくそれで決着がつくだろう。
麗麗の言葉に、冥焔は深くうなずくことで答えとした。
辿り着いてみると、もう日が傾き始めるような時分だ。池には斜陽の影が伸び、うす暗い。かなり不気味な様子である。
「今はこのありさまだが、もともとはもっとしっかりした池だったらしい。あの亭子では年中妃たちが茶会をしていたというし、池に船を浮かべて遊んだという記録も残っている。しかし、今は……」
なるほど確かに、積み上げられた石垣であったり、浮かぶ蓮の種類が明らかに観賞用であったりと、池のあちこちには手が入れられていた気配が残っている。だがしかし、沈殿物が多いのだろう、池の内部はすっかりと濁って異臭を放っているし、亭子には蔦状の植物が絡みついており、朽ち果てた印象に一役買っている。
今にも『ひゅーどろどろ』と音が聞こえそうだ。おどろおどろしいにもほどがある。
「これはものすごい迫力ですねえ」
想像していた池よりも恐ろしく不気味な姿に、さしもの麗麗もごくりと唾を飲み込んだ。
「水鬼が出たという事例に、共通項目はありますか」
ふむ、と冥焔は顎を撫でた。
「夜に出るというのは共通しているが、それだけだ」
「天気はどうです?」
麗麗に水を向けられ、冥焔は記憶を探るように目を細め、はっとした。
「それでいうと、ある。どの日も皆、雷が聞こえたという報告が入っている。それでより怪異を連想したのだと考えたのだが」
「不審な灯りって、もしかして、青や緑色のような?」
「そうだ」
ははあ、と麗麗は唇の端を持ち上げる。
「おそらくですが、冥焔様。それは怪異ではございません」
その答えを待っていたのだろう。冥焔はうなずいた。
「説明せよ、女官」
「はい。水鬼の正体は鬼火です」
「鬼火……? それは怪異ではないのか?」
「ええ。自然現象にそういう名がついているのです」
麗麗は池の様子をじっと眺める。
「こういった池やじめっとした場所では、土の中や水の中に発火しやすい気がたまることがあります。それがちょっとした刺激で燃えて起こる現象です。今回の場合は、おそらく雷が原因でしょう」
「しかし、遠雷だぞ。直接落ちるならまだわかるが、遠くで鳴っている雷にそんな力があるとは思えないが」
冥焔の疑問に、麗麗は軽く首を横に振った。
「あるんです。空がひと続きであるように、気もひと続きなんですよ。だから、遠くの雷でも、その気を纏ったものが流れ込んでくれば十分に可能性があります。または……水の泡、ですかね」
「泡、だと?」
「ええ。水中から立ちのぼる泡って、ぱちんと弾けるでしょう? そのときに、ごくごく微量ですが、雷と同じ気を纏うことがあるんです。それが水中に溜まっていた気を燃やす、という説があります」
麗麗もとい佐々木愛子が死んだときにはまだ公式には発表されていなかったが、そんな研究をしていたところがあったはずだ。
「火のないところで火が燃えるのは一見不思議に思えるのですが、紐解いてみればちゃんと理由があるんです。ですからこれは──」
自然現象で説明できます、と麗麗が宣言しようとしたときだった。
「鬼火|ではありません」
突然聞こえてきた第三者の声に、麗麗は咄嗟に息を呑んだ。振り返ると、目に入るのは夕日に照らされた金色の髪。黒一色の襦裙を身に纏った貴人が、面のように表情を変えずに佇んでいた。
「れ……黎蘭様!」
なぜここに!? しかも黎蘭妃はあろうことか、女官を連れていない。たったひとりで、こんな場所にいるなんてありえない。
慌てて揖礼をした麗麗と冥焔の横をすっと横切ると、黎蘭妃は池を目の前にしゃがみ込んだ。服が汚れるのも気にせずに池の畔の土を触り、何度か指先をこすり合わせると再び立ち上がった。
「まがい物です。真の鬼火が出るには早すぎる」
「……!」
ど肝を抜かれるとはこのことだ。ぎょっとして、揖礼した袖から顔を上げてしまいそうになり慌てて唇を引き結んだ。
麗麗が当初気にしていたのもそこなのだ。
鬼火は秋口によく出る。湿度と気温の兼ね合いで条件がそろいやすいのだろうと言われているのだ。だがしかし、今の季節は春。
早すぎる、と麗麗も感じた。だが現場を見て、この条件ならあるいは、と思ってしまった。
「半瓶酢晃な知識は身を滅ぼします。大家から号を賜ったそうですが、これでは先が思いやられますね」
かっと麗麗の顔が熱くなる。恥ずかしくて、いたたまれなくて体が強ばった。
(憶測で断言しようとしてしまった……)
この国のあらゆる神々・仙人・仏、そしてなにより自身の崇拝するガリレオに平謝りしたい。
いつの間にか、ゆるんでいたのだ。冥焔と一緒に怪異を解決しているうちに、知らず知らず慣れが出た。だからこういう失態を犯してしまった。
麗麗が袖の下で盛大に恥じている前で、黎蘭妃はもうこちらに興味をなくしたらしい。土を触った手を巾で拭くと、その巾を再び服の中に戻し、あっさりと踵を返した。
慌てて冥焔が声をあげる。
「黎蘭妃。なぜこのような場所に。あなた様はひとりで宮の外に出てはならないご身分でございます。立場をわきまえていただきますよう、切にお願い申し上げます」
咎めるような冥焔の声にも、妃は一切反応しない。
「風の声を聞きなさい」
そうひと言だけ言い残し、妃はその場をあとにした。
衣擦れの音が聞こえなくなり、黎蘭妃が完全に去っあとでも、麗麗は顔を伏せたままである。
「……女官」
すでに礼を解いた冥焔が声をかけてくる。
「なぜまだ礼を」
「……です」
「は?」
「私っ! とっても恥ずかしいです!」
がばっと顔を上げると、麗麗は両手で頭を抱えてうんうん唸った。
「えっ、まじで無理。自分が恥ずかしすぎてまじ無理すぎます! うわああああっ、地面に穴掘っておとなしくその中で五年くらいロムってろって話ですよね!? ダメージでかすぎてほんときつい!」
「お前はなにを言ってるんだ?」
顔をしかめた冥焔を尻目に、麗麗はすーはーと息を吸った。そして、ばちん、と自分の両頬を手のひらで叩く。
(落ち着け落ち着け! こっから取り返そう!)
改めて池の様子を見る。おどろおどろしい池はかなり濁っていて、中の様子までは見通せない。
目を細めて遠くを観察すると、水面になにかきらりと光る物がある。夕日に照らされてぬらぬらと光るその正体に気づいたとき、麗麗の頭の中に、ぱちんとパズルが組み合わさった。
今度の方程式は間違えていないはずだ。
「冥焔様!」
「な、なんだ、急に」
「作られた怪異の可能性があります」
「……聞こう」
冥焔の顔つきが変わった。麗麗は冥焔の瞳をまっすぐ見つめ、唇を舐める。
「先ほど話した鬼火の件。黎蘭妃のおっしゃる通り、自然発生するには季節が合いません。本来、鬼火は秋口に発生する事例が多いのです。なので、私はてっきり、この池の環境が条件に合致していたのだと早とちりしてしまいました。しかし……」
麗麗は池の奥を指さした。
「あれを見てください」
視線の先には、藻の浮かんだ水面が見える。その水面は夕日を受けて、かすかに虹色に輝いていた。
「油膜です」
「油膜……とは、油の膜のことか。なぜこんな場所に」
前世の都心部の水たまりにもよく油の膜が張っている事例がある。それは生活用水で汚染されていた水だ。しかし、ここは焱国であり、こんな人けのないところで油汚れが発するはずがない。で、あれば、あの油の膜はなんだという話である。
麗麗には見当がついていた。
「おそらく、香油だと思います」
香油は焱国でもよく使われる。妃の髪や体に使用し、髪や肌を保湿し美しく保つのだ。また、香油は体温でほのかに香るため、閨事の際には雰囲気を盛り上げるために必ず使われる。おなじみの油である。
しかし、当然ながらこのような池の上に浮いている代物ではない。香油は超高級品なのだ。
冥焔は訝し気な表情である。
「香油が浮いていることはわかった。しかし、今回の件と香油とはなにが関係しているのだ」
「はい。油は水に溶けません。薄い膜となって水面に広がり、そこに留まり続けます。そこに水中から燃えやすい気が昇ってきたらどうなるか。本来であれば、気は空に向かって少しずつ蒸発していくのですが、油膜に覆われているためそれが適いません。燃えやすい気は油膜の下に留まり続け、ほんの少しの火種で燃え上がる。条件がそろわなくても、鬼火を発生させられます」
「しかし、香油が故意的に撒かれた証はどこにもないだろう。この付近は確かに人けがないが、とはいっても誰も来ないというわけではない。信心深い妃や女官、宦官が廟を訪れ、なにかしらの事故で池に落ちた際に香油を撒いてしまったとも考えられるのではないか」
冥焔の言葉に、麗麗は軽くうなずいた。
「高級品である香油を、このような場所に持ち込む者がいるかいないかは置いておいて。確かに可能性としてはありますね。なので、この鬼火が故意的か否かを確かめるために、ひとつやっていただきたいことがあります」
麗麗は一度言葉を切った。そして一度唇を舐め、再度口を開く。
「この池の底をさらってください」
なぜ秋口に鬼火が発生しやすいかと言えば、それは夏の到来がある。暑い時期に腐敗したものがガスとなり水上に上がってくる。だからこそ秋口にこのような事例が発生しやすい。春はまだ腐敗の時期ではない。自然に腐敗物がたまるとは考えにくいのだ。であれば、おそらく故意的になにかが沈められている可能性がある。
「動物の死骸や骨、食べ物の滓や腐った米。それらが出てきたら当たりです」
もしこの怪異が作られているなら、おそらくそれで決着がつくだろう。
麗麗の言葉に、冥焔は深くうなずくことで答えとした。



