後宮のガリレオ2

 それにしても、考えるだに恐ろしい出来事だったと思う。

 後宮に入ってくる品物は基本的にかなり厳しい検閲を経ている。今回は香炉の内部、しかも閉ざされた蓋の中に描かれていた絵だったものだから、検閲の目をかいくぐったのだと推測された。

 例の香炉は高級品だ。それこそ上級妃が手にしていてもおかしくない代物である。

 女官の話によると、徳妃・玲沙が香炉を好むと噂があったというし、それを聞いた妃たちが贈り物に選ぶのは自然な流れである。現に瑛琳妃のところの女官は贈答品として香炉をあつらえたという話であった。

 もし、香炉が盗みに遭わなかったら。女官が死ななかったら。そしてあの女官が香炉を割っていなかったら……。

 妃たちはこぞって毒の香炉を徳妃へと贈ったはずだ。その中でも確実に贈ったであろう人物は、皇帝の寵愛もめでたい瑛琳妃である。

 瑛琳妃は知らず知らずのうちに玲沙妃を殺した罪に問われることになっただろう。恩雲の恩赦があったとしても、上級妃の位を剥奪するくらいはやらなければ示しがつかない。

 玲沙妃の家は力がある。玲沙妃の父であり、恩雲の叔父──(シェン)(ヅァ)は外廷での発言力がある上級官吏だ。寵愛されている瑛琳妃のほうが現時点では有力だが、外廷では玲沙妃こそが皇后にふさわしいと考える勢力が強い。此度の入内もその圧力がかかっているのは間違いないのだ。

 そんな中、玲沙妃が後宮内で殺されかけたとなったらどうなるか。ここぞとばかりに玄策は瑛琳妃を攻撃し、後宮の管理体制を責めるだろう。内部の管理を徹底すべきと声高に宣言し、息のかかった者を後宮内に大量に送り込むのは目に見えている。