秋の気配が深まり、学校全体が文化祭の準備で浮き足立つ季節になりました。豊と幸雄のクラスは、それぞれ別の模擬店を出す予定でしたが、ひょんなことから「料理部と合同で、世界の屋台飯を紹介する」という特別企画が持ち上がります。
放課後の調理実習室。エプロン姿の二人は、作業台を挟んで向かい合っていました。
「イタリアンと中華の融合……。正直、イメージが湧かないよ、幸雄」
豊が困ったように眉を下げて、ノートを広げます。一方、幸雄は腕を組み、鼻息荒く提案しました。
「せっかく一緒にやるんだ。普通のメニューじゃつまんねえだろ? 例えばさ、麻婆豆腐をパスタにかけるとか!」
「それは……少し刺激が強すぎるかな。パスタの繊細な香りが、豆板醤の強さに負けてしまうと思うんだ」
豊は冷静に分析しますが、幸雄は食い下がります。
「じゃあ、ピザの生地で餃子の具を包むのはどうだ? 揚げピザみたいにしてさ」
「それなら、チーズを隠し味に入れるといいかもしれない。でも、それだと中華の良さが消えてしまう気がする……」
お互いに料理を愛し、家業の味にプライドを持っているからこそ、意見はなかなか噛み合いません。いつになく真剣な表情で議論を交わす二人の間に、ピリッとした緊張感が走ります。
「豊は、いつも慎重すぎるんだよ。もっと冒険してみてもいいだろ?」
「幸雄こそ、勢いだけでバランスを考えてない。料理は調和だよ」
少しだけ声が大きくなった自分たちに驚き、二人はふと沈黙しました。西日の差し込む実習室に、換気扇の回る音だけが虚しく響きます。
気まずい沈黙を破ったのは、幸雄の大きなため息でした。
「……わりぃ。俺、つい熱くなっちまって」
「僕の方こそ。幸雄の勢いは、僕に足りないものなのに。……ごめん」
二人は視線を合わせ、どちらからともなく苦笑しました。豊は冷蔵庫から、試作用に持ってきたモッツァレラチーズと、幸雄が持参した自家製のXO醤を取り出しました。
「ねえ、幸雄。ぶつかり合うんじゃなくて、お互いのいいところを『包む』のはどうかな」
豊が提案したのは、手作りのラビオリでした。ただし、中身はイタリアのひき肉料理ではなく、幸雄の技術を活かした海老のすり身と中華スパイス。そこに、豊が選んだドライトマトとチーズのコクを加えるのです。
「ラビオリ……。中華の雲呑(ワンタン)と似てるな!」
「そう。茹で上げたあとに、少しだけ焦がしバターとネギの油を合わせて……」
二人は再び包丁を握りました。幸雄が海老を叩き、豊が生地を薄く伸ばしていく。言葉を交わさなくても、お互いのリズムが手に取るように分かります。
数分後、完成した「イタリア風雲呑ラビオリ」を一口食べた二人は、同時に顔を見合わせました。
「美味い……!」
「中華のパンチがあるのに、後味はしっかりイタリアンだ」
幸雄は嬉しそうに豊の頭をぐしゃぐしゃと撫でました。
「お前と組めば、最強だな、豊」
「……うん。僕一人じゃ、絶対に辿り着けなかった味だよ」
文化祭当日、この一皿が学校中で話題になることを、この時の二人はまだ知りません。ただ、お互いの個性が混ざり合った新しい味に、確かな絆の深まりを感じていました。
放課後の調理実習室。エプロン姿の二人は、作業台を挟んで向かい合っていました。
「イタリアンと中華の融合……。正直、イメージが湧かないよ、幸雄」
豊が困ったように眉を下げて、ノートを広げます。一方、幸雄は腕を組み、鼻息荒く提案しました。
「せっかく一緒にやるんだ。普通のメニューじゃつまんねえだろ? 例えばさ、麻婆豆腐をパスタにかけるとか!」
「それは……少し刺激が強すぎるかな。パスタの繊細な香りが、豆板醤の強さに負けてしまうと思うんだ」
豊は冷静に分析しますが、幸雄は食い下がります。
「じゃあ、ピザの生地で餃子の具を包むのはどうだ? 揚げピザみたいにしてさ」
「それなら、チーズを隠し味に入れるといいかもしれない。でも、それだと中華の良さが消えてしまう気がする……」
お互いに料理を愛し、家業の味にプライドを持っているからこそ、意見はなかなか噛み合いません。いつになく真剣な表情で議論を交わす二人の間に、ピリッとした緊張感が走ります。
「豊は、いつも慎重すぎるんだよ。もっと冒険してみてもいいだろ?」
「幸雄こそ、勢いだけでバランスを考えてない。料理は調和だよ」
少しだけ声が大きくなった自分たちに驚き、二人はふと沈黙しました。西日の差し込む実習室に、換気扇の回る音だけが虚しく響きます。
気まずい沈黙を破ったのは、幸雄の大きなため息でした。
「……わりぃ。俺、つい熱くなっちまって」
「僕の方こそ。幸雄の勢いは、僕に足りないものなのに。……ごめん」
二人は視線を合わせ、どちらからともなく苦笑しました。豊は冷蔵庫から、試作用に持ってきたモッツァレラチーズと、幸雄が持参した自家製のXO醤を取り出しました。
「ねえ、幸雄。ぶつかり合うんじゃなくて、お互いのいいところを『包む』のはどうかな」
豊が提案したのは、手作りのラビオリでした。ただし、中身はイタリアのひき肉料理ではなく、幸雄の技術を活かした海老のすり身と中華スパイス。そこに、豊が選んだドライトマトとチーズのコクを加えるのです。
「ラビオリ……。中華の雲呑(ワンタン)と似てるな!」
「そう。茹で上げたあとに、少しだけ焦がしバターとネギの油を合わせて……」
二人は再び包丁を握りました。幸雄が海老を叩き、豊が生地を薄く伸ばしていく。言葉を交わさなくても、お互いのリズムが手に取るように分かります。
数分後、完成した「イタリア風雲呑ラビオリ」を一口食べた二人は、同時に顔を見合わせました。
「美味い……!」
「中華のパンチがあるのに、後味はしっかりイタリアンだ」
幸雄は嬉しそうに豊の頭をぐしゃぐしゃと撫でました。
「お前と組めば、最強だな、豊」
「……うん。僕一人じゃ、絶対に辿り着けなかった味だよ」
文化祭当日、この一皿が学校中で話題になることを、この時の二人はまだ知りません。ただ、お互いの個性が混ざり合った新しい味に、確かな絆の深まりを感じていました。


