死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 学校から家に帰り着く歩行スピードとは違い、あっと言う間におばあちゃん家に着く。住宅街の中にある、コンクリートブロックの塀に囲まれた小さめの一軒家。それでも庭があって、そこに植えられた1本のレモンの木が塀から飛び出て見える。
 風が葉っぱを揺らし――門扉から右にあるインターホンに指を伸ばした。

「ピンポーン」

 呼び鈴が、家の中から聞こえてくる。
 けれど返答はない。パタパタと廊下を歩く音も聞こえてこない。

 ――当たり前だ。
 だっておばあちゃんは……。ここにいないんだから。

 倒れて以来、今も病院で入院している。

 そんなことを知っているのに、おばあちゃん家までやって来た。おばあちゃんがいないと知りながら、インターホンも鳴らした。

 ――はーい、と。おばあちゃんが返事してくれるんじゃないかと、叶いもしない夢を見て。

「……っ、く……」

 分かっていながらのこの行為に、悲しさが増して涙が出そうになる。ぎゅっと目を閉じて、項垂れて堪える。

 おばあちゃんは元気かどうか。
 いつ退院するのか? 母親に訊きたかった。
 毎日毎日訊こうと思っているのに、訊けずにいる。今日だって会話を遮られて、訊くタイミングを逃してしまった。

 意気地なしだと思う。勇気を出して訊けって思う。
 誰でもない大好きなおばあちゃんのことくらい、ちゃんとしなきゃって思うのに。

 幼少時期の環境が、今の私を形作ってしまった。

 両親のプレッシャーに圧され、怖くて言葉がうまく口から出てこなくなり、黙って俯くようになった。
 それを怒られ責められれば、どんどんと酷くなる。そして怒鳴られればますます拍車掛かり、吃《ども》り、詰まって、言いたい内容が纏まらず――ついに見放された。
 その結果悪循環となり、人と話すことが苦手になってしまった。

 そんな私でも、おばあちゃんだけは話せた。自分が話したいことを、ちゃんと話することが出来た。

 だからこそ、おばあちゃんは私の全てで――おばあちゃんがいなくなれば、私の存在理由なんてなかった。

 ぽろっ。涙が地面に落ちる。

「でも……知ってるんだ……。おばあちゃん……退院出来ないかも、って……」

 それは数日前。母親に掛かってきた。

 回復する見込みがなく、ひと月持つかどうか。

 ――と、言う内容の電話だったことを。