死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 6時間目の授業が終わり、帰りのHRが終わると、逃げるように一目散に教室を出た。最後の最後まで何かを言われていたけど、もう関係ない。
 足早に靴箱に向かい、靴を履いて校門を出ると、はぁと安堵の息を吐いて、胸に抱えていた鞄を右手に持った。

 外に出れば、悪口を言われることはほぼないから。

 後は後ろを振り返ることなく、家に帰っていく。電車通学、自転車通学と色々方法はあるが、私は徒歩での通学だった。
 徒歩、と言ってもそこまで近い訳ではない。30分以上は掛かるけど、問題はなかった。

 ――と言うより、徒歩しか選択肢はなかった。
 自転車は子供の頃に乗っていた物しかなく、バス通学が出来たが、定期を買えなかったから。

 非難、讒謗(ざんぼう)の数々の学校から解放されたと言うのに。家に帰り着く足取りは軽くない。

 学校も学校だったが、家も家で。居心地の良さは皆無だった。

 帰りたくない……。

 そんな気持ちが、どんどんと足を重くしていく。30分で着ける距離を40分、1時間と伸ばしていく。

 それでも止まらずにいれば、家の前に着いてしまう。玄関を見つめて、左手をぎゅうっと握り締めてから、ドアノブを下げた。

「……ただいま」

 小さな声に返ってくる言葉はない。
 靴を脱ぐ土間の中央には母親の靴と、大きめの白色の靴があった。自分の靴は端で脱ぎ、入って右手にあるリビングへと向かった。

「ただいま」

 リビングと廊下の敷居どちらとも取れる場所で、もう一度帰って来たことを伝える。中では母親と弟の姿があり笑顔で何かを話していたが、私を見るなり顔からそれが消えた。

「あぁ、帰って来たのね」

 興味なさげに言う母親から、おかえりはない。弟は言葉さえなく、睨むようにじっと見て、ふいと顔を逸らした。

 母親の態度に、胸がぎゅっと締め付けられる。苦しくて、それでも聞かなきゃいけないことがあって、口を開いた。

「あ、あの」

「あぁ、ホントうっとしいわね、その前髪。いい加減切りなさいよ!」

 私の声が小さかったから、聞こえなかった母親が被って言った。
 掻き消されたことと、圧のある言い方に、一瞬で怯んでしまう。聞きたかったこと、言いたかったことは喉の奥に詰まって吐き出されることはなく、スカートをぐっと握った。

「はい……」

 ようやく絞り出た返事。それを聞いた弟がぷっと笑う。

 私との会話を早々に終わらせた母親は、不機嫌な態度をころっと笑顔に変えて、弟の名前を呼んだ。

「やっぱり(らん)は凄いわね! 小さい頃から頭は良い方だと思っていたけど、模試の結果がオールAだなんて」