中山の行方は依然として判明しない中、長島は坂井と一緒に問題のショッピングセンターを訪れた。ショッピングセンターはこの町一番の商業施設であり、十年前に開業してから今も地元民を中心に多くの客に愛されている。長島自身もよく利用しており、友達と遊ぶときの第一候補にもなっていた。
「先輩、本当に答えてもらえるんでしょうか?」
ショッピングセンターについたところで、坂井が半信半疑の表情で尋ねてくる。ストーカー被害の影響か、いつもの明るさがないことが気になった。
「わからないけど、できるだけのことはやってみようと思っている」
ストーカーの件を尋ねようかと思ったが、今はふれないほうがいいと考え、予定通り店内で目的の人物である警備員を待つことにした。
「長島先輩、ちょっといいですか?」
「どうした?」
「私、少し気になっているんですけど、中山先輩がここで万引きしていたとして、それがきっかけで行方不明になったとしたら、なにか変に思うところがあるんです」
「変に思う?」
「はい、中山先輩が万引きしている疑惑は、化粧品を美希先輩に渡したことがきっかけで発覚しています。その化粧品が万引きされたものとわかったのは、たまたま美希先輩のお姉さんが関係者だったからなんですが、これって本当に偶然なんですか?」
もどかしく語る坂井の口調からは、半信半疑の迷いが伝わってきた。なにかおかしいと思うが、それをはっきりできないもどかしさがあるのだろう。長島としては、勘の鋭い坂井だからこそ、その違和感に興味を示すことにした。
「確かに、都合のいい展開には見えるかも。でも、たまたまと言えばたまたまかもしれない。中山くんが犯人だとしたら、まさか美希さんのお姉さんからばれるとは思わなかったんじゃないかな」
「そう、そこなんです。中山先輩が美希先輩のために化粧品を万引きしてでも手に入れたとしたなら、なぜあんな形で渡したのかが不思議なんです。前に聞き取り調査したとき、中山先輩の友達も変に思っていましたよね?」
「それは、確かにそうだね」
「美希先輩を喜ばすつもりだったとしたら、普通は手渡しすると思います。なのにそうしなかったのは、本当は中山先輩がやったんじゃないかもしれないってことになりませんか?」
坂井が口にした内容は、長島にとっては意外なものだった。状況からして中山が関与しているのは間違いないと思っていただけに、第三者の可能性かあるという坂井の指摘は、長島の考えを揺さぶるには充分だった。
「坂井さんは、本当は中山くんがやってないかもしれないって考えてるわけか。だとしたら、その人はなんの目的でそんなことをしたんだろうね」
「それは、まだなにも思いつきません。でも、もし中山先輩ではなく他の誰かがやったとして、さらにその品物が万引きの被害にあった商品だとわかってなかったとしたら、そのときどうなっていたんだろうって考えたらちょっと怖い気がするんです」
弱く笑う表情とは真逆に力強く語る坂井の言葉に、長島はなんともいえない感覚が襲ってくるのを感じた。
――本当の狙いってなんだったんだろう
今回の件、机に入れられた品物が万引きの被害にあった商品だということは、美希の姉経由でわかっている。もし中山ではなく化粧品を渡した奴が別にいるとしたら、万引きされた商品だとすぐにばれたことはそいつにとってイレギュラーな展開だったはず。おかげで万引きしたのは誰なのかという犯人探しが行われることになったが、もし万引きの被害にあってるとわからなかったら、話題は別のことになっていただろう。
誰が渡してきたかわからない化粧品。しかも、ピンポイントで欲しかったものとなると、美希にしたら嬉しさより気味悪さがまさっていたかもしれない。
それが犯人の狙いだとしたら、その先になにかがあった可能性があるだろう。単に気味悪がらせるだけで、手のこんだことをするとは考えにくいからだ。
「長島先輩、あれ」
犯人の思惑を色々と考えていると、急に坂井が肩を叩いて通路の方を指さした。
「よし、行こうか」
坂井の教えで警備員の姿を見つけた長島は、他の客がいないタイミングで声をかけることにした。
「あの、すみません、ちょっといいですか?」
見た目は四十代の眼光が鋭い警備員だった。物腰は柔らかそうなのに、その冷たい眼差しからくる威圧感におされ、長島の声も自然と弱くなっていた。一瞬、声をかけたことを後悔しかけたが、警備員はしばらく長島と坂井を眺めたあと、急に優しげな笑みを見せてくれた。
「なにかな?」
「僕たち、行方不明になっている同級生を探しているんです」
警備員の笑みに緊張が解けた長島は、一気に事情を説明した。その間、警備員はしばらく笑みを浮かべていたが、話が終わる頃には難しい表情に変わっていた。
「君たちの気持ちはよくわかった。しかし、残念ながらその子が万引きしていたかどうかについては答えることはできない」
難しい表情で答える警備員から、なんとかしてやりたいができないといった感情が伝わってきた。警備員によると、取り扱った情報については厳しい守秘義務があり、うかつに第三者にもらすと警察の捜査にも影響があるという。
「でしたら、中山くんが来ていたかどうかだけでも教えてもらえませんか?」
「それは――」
なんとかねばって交渉しようとしたときだった。急に若い男が割り込んできたかと思ったら、いきなり肩を掴まれるはめになってしまった。
「中山を探しているんだって? その話、俺が聞いてやるよ」
いきなり現れた若い男は、警備員と視線を交わしつつ無言でやりとりしながら意味深に呟いた。一瞬、ふたりがどんな関係なのか気になったが、左手の甲に見えた真っ黒なサソリの入れ墨に意識を奪われて、思考がうまく回らなくなっていった。
「ついてこいよ。俺が奢ってやるから」
若い男は長島の腕を掴むと、いやとは言わせない勢いで近くのファーストフード店へ誘ってきた。
一瞬、やばいことに巻き込まれそうな予感がしたが、若い男の力に抗うことはできず、仕方なく長島は若い男の誘いにのることにした。
「先輩、本当に答えてもらえるんでしょうか?」
ショッピングセンターについたところで、坂井が半信半疑の表情で尋ねてくる。ストーカー被害の影響か、いつもの明るさがないことが気になった。
「わからないけど、できるだけのことはやってみようと思っている」
ストーカーの件を尋ねようかと思ったが、今はふれないほうがいいと考え、予定通り店内で目的の人物である警備員を待つことにした。
「長島先輩、ちょっといいですか?」
「どうした?」
「私、少し気になっているんですけど、中山先輩がここで万引きしていたとして、それがきっかけで行方不明になったとしたら、なにか変に思うところがあるんです」
「変に思う?」
「はい、中山先輩が万引きしている疑惑は、化粧品を美希先輩に渡したことがきっかけで発覚しています。その化粧品が万引きされたものとわかったのは、たまたま美希先輩のお姉さんが関係者だったからなんですが、これって本当に偶然なんですか?」
もどかしく語る坂井の口調からは、半信半疑の迷いが伝わってきた。なにかおかしいと思うが、それをはっきりできないもどかしさがあるのだろう。長島としては、勘の鋭い坂井だからこそ、その違和感に興味を示すことにした。
「確かに、都合のいい展開には見えるかも。でも、たまたまと言えばたまたまかもしれない。中山くんが犯人だとしたら、まさか美希さんのお姉さんからばれるとは思わなかったんじゃないかな」
「そう、そこなんです。中山先輩が美希先輩のために化粧品を万引きしてでも手に入れたとしたなら、なぜあんな形で渡したのかが不思議なんです。前に聞き取り調査したとき、中山先輩の友達も変に思っていましたよね?」
「それは、確かにそうだね」
「美希先輩を喜ばすつもりだったとしたら、普通は手渡しすると思います。なのにそうしなかったのは、本当は中山先輩がやったんじゃないかもしれないってことになりませんか?」
坂井が口にした内容は、長島にとっては意外なものだった。状況からして中山が関与しているのは間違いないと思っていただけに、第三者の可能性かあるという坂井の指摘は、長島の考えを揺さぶるには充分だった。
「坂井さんは、本当は中山くんがやってないかもしれないって考えてるわけか。だとしたら、その人はなんの目的でそんなことをしたんだろうね」
「それは、まだなにも思いつきません。でも、もし中山先輩ではなく他の誰かがやったとして、さらにその品物が万引きの被害にあった商品だとわかってなかったとしたら、そのときどうなっていたんだろうって考えたらちょっと怖い気がするんです」
弱く笑う表情とは真逆に力強く語る坂井の言葉に、長島はなんともいえない感覚が襲ってくるのを感じた。
――本当の狙いってなんだったんだろう
今回の件、机に入れられた品物が万引きの被害にあった商品だということは、美希の姉経由でわかっている。もし中山ではなく化粧品を渡した奴が別にいるとしたら、万引きされた商品だとすぐにばれたことはそいつにとってイレギュラーな展開だったはず。おかげで万引きしたのは誰なのかという犯人探しが行われることになったが、もし万引きの被害にあってるとわからなかったら、話題は別のことになっていただろう。
誰が渡してきたかわからない化粧品。しかも、ピンポイントで欲しかったものとなると、美希にしたら嬉しさより気味悪さがまさっていたかもしれない。
それが犯人の狙いだとしたら、その先になにかがあった可能性があるだろう。単に気味悪がらせるだけで、手のこんだことをするとは考えにくいからだ。
「長島先輩、あれ」
犯人の思惑を色々と考えていると、急に坂井が肩を叩いて通路の方を指さした。
「よし、行こうか」
坂井の教えで警備員の姿を見つけた長島は、他の客がいないタイミングで声をかけることにした。
「あの、すみません、ちょっといいですか?」
見た目は四十代の眼光が鋭い警備員だった。物腰は柔らかそうなのに、その冷たい眼差しからくる威圧感におされ、長島の声も自然と弱くなっていた。一瞬、声をかけたことを後悔しかけたが、警備員はしばらく長島と坂井を眺めたあと、急に優しげな笑みを見せてくれた。
「なにかな?」
「僕たち、行方不明になっている同級生を探しているんです」
警備員の笑みに緊張が解けた長島は、一気に事情を説明した。その間、警備員はしばらく笑みを浮かべていたが、話が終わる頃には難しい表情に変わっていた。
「君たちの気持ちはよくわかった。しかし、残念ながらその子が万引きしていたかどうかについては答えることはできない」
難しい表情で答える警備員から、なんとかしてやりたいができないといった感情が伝わってきた。警備員によると、取り扱った情報については厳しい守秘義務があり、うかつに第三者にもらすと警察の捜査にも影響があるという。
「でしたら、中山くんが来ていたかどうかだけでも教えてもらえませんか?」
「それは――」
なんとかねばって交渉しようとしたときだった。急に若い男が割り込んできたかと思ったら、いきなり肩を掴まれるはめになってしまった。
「中山を探しているんだって? その話、俺が聞いてやるよ」
いきなり現れた若い男は、警備員と視線を交わしつつ無言でやりとりしながら意味深に呟いた。一瞬、ふたりがどんな関係なのか気になったが、左手の甲に見えた真っ黒なサソリの入れ墨に意識を奪われて、思考がうまく回らなくなっていった。
「ついてこいよ。俺が奢ってやるから」
若い男は長島の腕を掴むと、いやとは言わせない勢いで近くのファーストフード店へ誘ってきた。
一瞬、やばいことに巻き込まれそうな予感がしたが、若い男の力に抗うことはできず、仕方なく長島は若い男の誘いにのることにした。


