◯月☓日
定時巡回異状なし。
従業員より、お客様が財布を落としたと訴えているとの申し出あり。お客様に聞き込みを行い、入店から財布がないことに気づくまでのお客様の行動を確認する。大抵の場合は話すうちに思い出したり心当たりが出てきたりするが、年配のお客様だったため結局手がかりを得られず。らちがあかないので防犯カメラの記録からお客様の店内での行動を調査した結果、食品レジを通過後に袋詰をする際、台に置き忘れていることが判明。幸いにも財布は誰にも拾得されておらず、無事お客様のもとに戻る。
◯月☓日
定時巡回時、足早に顔を伏せて退店する最近カモとなった少年を発見。万引き犯は売り場にいるときよりも退店時や移動時に特徴が出るが、少年の動きがその特徴と一致していたため警備室に戻り、防犯カメラの記録から少年の行動を確認する。店にはひとりで来店し、本屋に立ち寄った後に食品売り場を不自然に徘徊し続けている。本屋に入る前と出た後でバッグの形が違うことから、犯行に及んでいるものと推察する。しばらく周囲を気にした後にお菓子とジュースを窃取するのを確認。水谷に犯行を指示したのか確認すると、指示は出していないとの返答。動きの評価を聞かれたため、あまりのひどさに要再教育とだけ伝える。
◯月☓日
定時巡回異状なし
以前、化粧品売り場で万引きをしていた女性が再来店しているのを確認。防犯カメラで監視すると、女性は手際よく売り場を移動して犯行を重ねる。
それにしても、この女性の動きには目を見張るものがある。まず、第一に見た目から年齢を連想し辛いことと、的確に顔を隠していることがあげられる。さらには、足がつき辛いようにするためか出入り口を前回と変えており、かつ、徒歩での来店という徹底ぶりに素人ではないことがうかがえる(万引き犯を警察に捜査してもらうには、万引き犯を特定できる要素、例えばクレジットカードや会員カードの使用、車で来店していれば車種やナンバーなどが必要となるが、プロの窃盗犯はこうした情報を徹底的に残さないことが多く、この女性もそうした情報を一切残していない)。
もしかしたらと思い、水谷に女性のことを照会してみたところ、詳しい女性の素性は語らなかったものの、以前仲間に誘いかけたことがある人物に酷似しているとのこと。しかも、その女性は相当なわけありということで縁を切ったとのこと。最近再び出没しているようなら、あいつはまれに見るモンスターだから絶対に関わらないほうがいいと釘を刺される。
◯月☓日
よく警備室に顔を出す警察官が非番で訪問。訪問理由は、なにか万引き犯の情報がないかとのこと。この警察官は刑事課の盗犯係を希望しており、こうして時間があると実績を作るために独自で捜査をしている今では珍しいタイプの警察官だった。
余談だが、昔は各警察署が競い合って盗犯を検挙する強化月間というものがあった。その時期になると、交番の警察官も非番の日に情報を求めて店に来ることが多く、普段は見向きもしない万引き事案にも積極的に捜査することがあった。しかも、この時期に捕まると問答無用で送検されるため、強化月間中はなにもするなというのが窃盗グループの常識になっており、かなりの防犯と抑止効果があった。
しかし、時代の流れと共に警察官にも働き方改革が広がり、強化月間という特別な時期を作らず年中通してしっかり捜査するべきという考え方に変わっていった。これは、一言で言えば余計なことはするなという意味で、ブラック企業も顔負けの勤務をしていた警察官(主に二十四時間勤務をしている警察官は、勤務が終わってからが本当の仕事と言われるくらい過酷な労働環境だった)にとっては、ありがたい話だとして定着していった。
そのため、こうして非番の日まで自分の時間を費やして捜査する警察官は珍しくなった。特に今では、管理職にとって労働管理もうるさくなっているため、やる気に満ちた警察官に余計なことはするなと制止することが大半であり、実際にこの警察官も度々やりすぎだと指導されることがあるという。
だからか、この警察官からは来訪したことは他の警察官には黙ってて欲しいとお願いされている。もちろん、私は誰かに喋るつもりはないし、正式な手続きがなかったとしても防犯カメラの記録データを好きなように捜査できるように取り計らっている。
と同時に、私は普段見つけた万引き犯の情報を提供する代わりに、私が知りたい情報を警察官からもらうことにしている。
もちろん、それは秘密保持の観点からして許されないことだろう。だが、一度やりとりしたらもう後には戻れないものだ。この警察官は、犯人逮捕に異常な執着心がある。聞かなくても、他の警察官より成果をあげているのは間違いないだろう。だからこそ、一度覚えた蜜の味は簡単には忘れられないことになる。この警察官にとって防犯カメラのデータは、規則を破ってでも手にしたい宝物に見えるというわけだ。
その宝物に手を出した。言いかえるなら、欲に負けたということだ。その瞬間、この警察官は脳が壊れ、まともな思考ができなくなってしまっていることだろう。
本当に、欲というのは恐ろしいものだ。いや、本当に恐ろしいのは欲に負けて変貌する人間なのかもしれない。
まあ、私にとってはどちらでもかまわない。今日も防犯カメラのデータを好きに捜査させる代わりに、欲しかった情報を得ることができた。
それで充分だった。その情報をもとにターゲットの素性を暴きだすことができれば、私の欲は満たされるのだから。
その結果、誰かが捕まり、誰かの人生が破滅しようと関係ない。ただ、私の欲が満たされることが重要であり、あとは些細なことでしかない。
そう考える私ははたして正常なのか? その答えは、正直私にもわからないものだった。
定時巡回異状なし。
従業員より、お客様が財布を落としたと訴えているとの申し出あり。お客様に聞き込みを行い、入店から財布がないことに気づくまでのお客様の行動を確認する。大抵の場合は話すうちに思い出したり心当たりが出てきたりするが、年配のお客様だったため結局手がかりを得られず。らちがあかないので防犯カメラの記録からお客様の店内での行動を調査した結果、食品レジを通過後に袋詰をする際、台に置き忘れていることが判明。幸いにも財布は誰にも拾得されておらず、無事お客様のもとに戻る。
◯月☓日
定時巡回時、足早に顔を伏せて退店する最近カモとなった少年を発見。万引き犯は売り場にいるときよりも退店時や移動時に特徴が出るが、少年の動きがその特徴と一致していたため警備室に戻り、防犯カメラの記録から少年の行動を確認する。店にはひとりで来店し、本屋に立ち寄った後に食品売り場を不自然に徘徊し続けている。本屋に入る前と出た後でバッグの形が違うことから、犯行に及んでいるものと推察する。しばらく周囲を気にした後にお菓子とジュースを窃取するのを確認。水谷に犯行を指示したのか確認すると、指示は出していないとの返答。動きの評価を聞かれたため、あまりのひどさに要再教育とだけ伝える。
◯月☓日
定時巡回異状なし
以前、化粧品売り場で万引きをしていた女性が再来店しているのを確認。防犯カメラで監視すると、女性は手際よく売り場を移動して犯行を重ねる。
それにしても、この女性の動きには目を見張るものがある。まず、第一に見た目から年齢を連想し辛いことと、的確に顔を隠していることがあげられる。さらには、足がつき辛いようにするためか出入り口を前回と変えており、かつ、徒歩での来店という徹底ぶりに素人ではないことがうかがえる(万引き犯を警察に捜査してもらうには、万引き犯を特定できる要素、例えばクレジットカードや会員カードの使用、車で来店していれば車種やナンバーなどが必要となるが、プロの窃盗犯はこうした情報を徹底的に残さないことが多く、この女性もそうした情報を一切残していない)。
もしかしたらと思い、水谷に女性のことを照会してみたところ、詳しい女性の素性は語らなかったものの、以前仲間に誘いかけたことがある人物に酷似しているとのこと。しかも、その女性は相当なわけありということで縁を切ったとのこと。最近再び出没しているようなら、あいつはまれに見るモンスターだから絶対に関わらないほうがいいと釘を刺される。
◯月☓日
よく警備室に顔を出す警察官が非番で訪問。訪問理由は、なにか万引き犯の情報がないかとのこと。この警察官は刑事課の盗犯係を希望しており、こうして時間があると実績を作るために独自で捜査をしている今では珍しいタイプの警察官だった。
余談だが、昔は各警察署が競い合って盗犯を検挙する強化月間というものがあった。その時期になると、交番の警察官も非番の日に情報を求めて店に来ることが多く、普段は見向きもしない万引き事案にも積極的に捜査することがあった。しかも、この時期に捕まると問答無用で送検されるため、強化月間中はなにもするなというのが窃盗グループの常識になっており、かなりの防犯と抑止効果があった。
しかし、時代の流れと共に警察官にも働き方改革が広がり、強化月間という特別な時期を作らず年中通してしっかり捜査するべきという考え方に変わっていった。これは、一言で言えば余計なことはするなという意味で、ブラック企業も顔負けの勤務をしていた警察官(主に二十四時間勤務をしている警察官は、勤務が終わってからが本当の仕事と言われるくらい過酷な労働環境だった)にとっては、ありがたい話だとして定着していった。
そのため、こうして非番の日まで自分の時間を費やして捜査する警察官は珍しくなった。特に今では、管理職にとって労働管理もうるさくなっているため、やる気に満ちた警察官に余計なことはするなと制止することが大半であり、実際にこの警察官も度々やりすぎだと指導されることがあるという。
だからか、この警察官からは来訪したことは他の警察官には黙ってて欲しいとお願いされている。もちろん、私は誰かに喋るつもりはないし、正式な手続きがなかったとしても防犯カメラの記録データを好きなように捜査できるように取り計らっている。
と同時に、私は普段見つけた万引き犯の情報を提供する代わりに、私が知りたい情報を警察官からもらうことにしている。
もちろん、それは秘密保持の観点からして許されないことだろう。だが、一度やりとりしたらもう後には戻れないものだ。この警察官は、犯人逮捕に異常な執着心がある。聞かなくても、他の警察官より成果をあげているのは間違いないだろう。だからこそ、一度覚えた蜜の味は簡単には忘れられないことになる。この警察官にとって防犯カメラのデータは、規則を破ってでも手にしたい宝物に見えるというわけだ。
その宝物に手を出した。言いかえるなら、欲に負けたということだ。その瞬間、この警察官は脳が壊れ、まともな思考ができなくなってしまっていることだろう。
本当に、欲というのは恐ろしいものだ。いや、本当に恐ろしいのは欲に負けて変貌する人間なのかもしれない。
まあ、私にとってはどちらでもかまわない。今日も防犯カメラのデータを好きに捜査させる代わりに、欲しかった情報を得ることができた。
それで充分だった。その情報をもとにターゲットの素性を暴きだすことができれば、私の欲は満たされるのだから。
その結果、誰かが捕まり、誰かの人生が破滅しようと関係ない。ただ、私の欲が満たされることが重要であり、あとは些細なことでしかない。
そう考える私ははたして正常なのか? その答えは、正直私にもわからないものだった。


