以上が、私のもとに送られてきたデータの全てである。その後については、今現在も追加のデータは送られてきていない。さらには、このデータを送ってきた坂井という少女とは一度も連絡がつかず(dmは送れるが返信がない)、また、坂井という少女からは、ただこのデータをネット上に公開してほしいという言葉のみが添えられているだけだった。
そのため、坂井という少女がどういう意図でデータを公開するよう頼んだのかはわからない。いまだに宮下という少女に狙われているから助けて欲しかったのか、あるいは他になんらかの意図があったのかは、残念ながら私に知るすべがない。
もうひとつ、この物語で登場した警備員について少しだけ書いておこう。勘のいい人ならわかったと思うが、作中に登場する『報告書』は、全てネットの会合で彼が提出した情報をそれらしく加工したものだ。知りあいのさらし屋に頼んで会合に潜入して彼を知ることになったのだが、彼はその界隈では有名らしく、全国にネットワークを構築して防犯カメラの映像データを取引する場を作った発起人のひとりとされていた。
だが、現在は彼が会合に姿をみせることはなくなったという。理由は不明だが、中山という少年が発見された以降から姿を消していることから、今回の事件となんらかの関係があるのかもしれない。しかし、今となっては彼の消息を知ることも私には不可能だった。
そして今、私は事件があった地を訪れている。中学生三年生の少年が行方不明となる事件があったことなどどこ吹く風のごとく、のどかな田舎町は平和そのものに見えた。
事件の結末を補足しておくと、中山という少年は行方不明となった一ヶ月後に、近くの公園で保護されている。発見時、相当衰弱しており、かつ、記憶喪失となっていたことから、警察は失踪期間中の足どりについての捜査を断念している。身代金の要求もなく、なんらかの犯罪に巻き込まれた証拠もなかったことから、なんらかの病気を発症したことによる突発的な家出と結論づけられ、この事件は幕をおろしたようだった。
町の中央に位置する駅では、帰宅ラッシュともあって多くの人が足早に私の横を通り過ぎていく。玄関口にはビラを配る集団もいて、疲れた顔をした中年の女性が押しつけるようにビラを渡してきた。
はたして、本当にここで宮下と中山に会えるだろうか。情報によれば、ふたりは恋人同士となり同じ高校に通っているらしい。運がよければ、通学に利用されるこの駅でふたりに会えるとにらんでいた。
いくつもの人だかりが過ぎていき、一時間ほど過ぎた頃だった。吐き出されるように地元の高校生が出てくる中に、私はあきらかに異彩を放つふたりの姿をとらえた。
――情報は間違いなかったわけか
送られてきたデータは、動画がメインだから信憑性は高かった。だが、あまりに奇妙な事件だったため、心のどこかでまやかしではないかと疑う気持ちを捨てきれなかった。
だが、今私の横を仲良く手をつないで通り過ぎたふたりを見て、情報は間違いないと確信した。仲良く手をつないでいるとはいえ、生気を失って虚ろな眼差しをした中山と、満面の笑みながら眼光だけは冷たさを帯びていた宮下を見て、ふたりの本当の関係性がわかった気がした。
ふたりが通り過ぎたあと、一息ついた瞬間にいきなり強烈な視線を背後に感じた。私と宮下の間に面識はない。だから宮下が私のことを知ることはないはず。
なのに、私はふりかえることができなかった。もしふりかえってあの瞳と視線が重なれば、いったいどうなるかと想像してその場に凍りついていた。
やがて、呪縛のような視線から解放されたあと、私はため息をつきながらふるえる手で握りしめていたビラに目を落とした。
『◯月☓日以降、行方がわからなくなっている長島拳也君を探しています。当時長島拳也君は市内の中学校に通う三年生で、休日に外出した後、行方がわからなくなっています。心当たりがある人は、近くの警察署、または、◯◯までご連絡していただくようお願いします』
手書きのメッセージの横で笑う長島のあどけない顔が、遠くに感じられた。ただの中学生の行方不明事件。しかし、その背景にまったく予期していなかった存在たちの片鱗を見たような気がした。
そのため、この事件はもうこれ以上深追いするのをやめることにした。欲が生み出すモンスターたちの姿は様々であり、そのどれもに関わってはならないと本能が告げていたからだ。
そう結論づけ、私は静かに天井を見上げた。
――そこにいるのは正義か? それとも悪か?
周囲には、おそらくは変わらない日常を繰り返す人たちが私のことなど気にもとめず歩いている。
そんな私の問いかけなどおかまいなしに、物言わぬ防犯カメラが人々の様子を静かに眺めていた。
〜了〜
そのため、坂井という少女がどういう意図でデータを公開するよう頼んだのかはわからない。いまだに宮下という少女に狙われているから助けて欲しかったのか、あるいは他になんらかの意図があったのかは、残念ながら私に知るすべがない。
もうひとつ、この物語で登場した警備員について少しだけ書いておこう。勘のいい人ならわかったと思うが、作中に登場する『報告書』は、全てネットの会合で彼が提出した情報をそれらしく加工したものだ。知りあいのさらし屋に頼んで会合に潜入して彼を知ることになったのだが、彼はその界隈では有名らしく、全国にネットワークを構築して防犯カメラの映像データを取引する場を作った発起人のひとりとされていた。
だが、現在は彼が会合に姿をみせることはなくなったという。理由は不明だが、中山という少年が発見された以降から姿を消していることから、今回の事件となんらかの関係があるのかもしれない。しかし、今となっては彼の消息を知ることも私には不可能だった。
そして今、私は事件があった地を訪れている。中学生三年生の少年が行方不明となる事件があったことなどどこ吹く風のごとく、のどかな田舎町は平和そのものに見えた。
事件の結末を補足しておくと、中山という少年は行方不明となった一ヶ月後に、近くの公園で保護されている。発見時、相当衰弱しており、かつ、記憶喪失となっていたことから、警察は失踪期間中の足どりについての捜査を断念している。身代金の要求もなく、なんらかの犯罪に巻き込まれた証拠もなかったことから、なんらかの病気を発症したことによる突発的な家出と結論づけられ、この事件は幕をおろしたようだった。
町の中央に位置する駅では、帰宅ラッシュともあって多くの人が足早に私の横を通り過ぎていく。玄関口にはビラを配る集団もいて、疲れた顔をした中年の女性が押しつけるようにビラを渡してきた。
はたして、本当にここで宮下と中山に会えるだろうか。情報によれば、ふたりは恋人同士となり同じ高校に通っているらしい。運がよければ、通学に利用されるこの駅でふたりに会えるとにらんでいた。
いくつもの人だかりが過ぎていき、一時間ほど過ぎた頃だった。吐き出されるように地元の高校生が出てくる中に、私はあきらかに異彩を放つふたりの姿をとらえた。
――情報は間違いなかったわけか
送られてきたデータは、動画がメインだから信憑性は高かった。だが、あまりに奇妙な事件だったため、心のどこかでまやかしではないかと疑う気持ちを捨てきれなかった。
だが、今私の横を仲良く手をつないで通り過ぎたふたりを見て、情報は間違いないと確信した。仲良く手をつないでいるとはいえ、生気を失って虚ろな眼差しをした中山と、満面の笑みながら眼光だけは冷たさを帯びていた宮下を見て、ふたりの本当の関係性がわかった気がした。
ふたりが通り過ぎたあと、一息ついた瞬間にいきなり強烈な視線を背後に感じた。私と宮下の間に面識はない。だから宮下が私のことを知ることはないはず。
なのに、私はふりかえることができなかった。もしふりかえってあの瞳と視線が重なれば、いったいどうなるかと想像してその場に凍りついていた。
やがて、呪縛のような視線から解放されたあと、私はため息をつきながらふるえる手で握りしめていたビラに目を落とした。
『◯月☓日以降、行方がわからなくなっている長島拳也君を探しています。当時長島拳也君は市内の中学校に通う三年生で、休日に外出した後、行方がわからなくなっています。心当たりがある人は、近くの警察署、または、◯◯までご連絡していただくようお願いします』
手書きのメッセージの横で笑う長島のあどけない顔が、遠くに感じられた。ただの中学生の行方不明事件。しかし、その背景にまったく予期していなかった存在たちの片鱗を見たような気がした。
そのため、この事件はもうこれ以上深追いするのをやめることにした。欲が生み出すモンスターたちの姿は様々であり、そのどれもに関わってはならないと本能が告げていたからだ。
そう結論づけ、私は静かに天井を見上げた。
――そこにいるのは正義か? それとも悪か?
周囲には、おそらくは変わらない日常を繰り返す人たちが私のことなど気にもとめず歩いている。
そんな私の問いかけなどおかまいなしに、物言わぬ防犯カメラが人々の様子を静かに眺めていた。
〜了〜


