放課後、坂井から急な相談ということで生徒会室に待機していた長島は、以前よりさらに表情にかげりが増した坂井を見て、なにかよくないことが発生したことを直感した。
「どうした? 顔色があまりよくないけど?」
手始めにそう切り出すと、坂井は迷いながらも抱えている問題を話始めた。
まず、ストーカーの件についてはまだ続いているようで、直接的な被害はなかったものの、今朝ついに被害が発生したという。
「これが、上履きに入れられてました」
坂井が差し出したのは、一掴みの画びょうと一枚のノートの切れはしだった。切れはしには、『これいじょうなかやまくんにはかかわるな』と、赤いペンで殴り書きされていた。
「私、発見したときびっくりしたんですけど、それと同時に誰かの視線を感じてそっちに目を向けたんです。そしたら、そこには宮下先輩がいたんです」
かすかにふるえた声で、坂井が当時の状況を口にする。ありえない名前に驚きつつも詳しく話を聞くと、どうやら坂井には心当たりがあるという。
「昨日の夜、ライブ配信してたんです。そのとき、中山先輩のことをみんなに聞いたんですけど、そこで宮下先輩のことが話題になったんです」
怯えた表情のまま語った坂井の内容に、長島は息が詰まりそうになった。確かに宮下のことは、一年生の頃に聞いたことがあった。当時、宮下とは同じクラスではなかったため詳しくは宮下のことは知らなかったが、それでも学年のみならず学校全体が噂話で盛り上がっていたのは間違いなかった。
だが、その噂も時間が経つにつれ自然と消滅していった。その後は、宮下のことは今回相談されるまで接点がなかったうえに、新たな噂話も聞かなかったため宮下がどんな人物かを長島は把握できていなかった。
「長島先輩、中山先輩の家に調査に行ったときのこと覚えてますか? あのとき、宮下先輩が話しかけてきたのは偶然だと思いますか?」
疑問形で聞いてきたものの、坂井はなにかしらの確信を抱いているように見える。あの日、宮下が話しかけてきたのが偶然でないとしたら、宮下は坂井と長島のことをどこかで監視していたことになる。
「ひょっとしたら、私をストーカーしているのは宮下先輩じゃないかって思うんです」
「いや、ちょっと待って。気持ちはわかるけど、結論を急ぎすぎじゃないのか?」
「そうでしょうか?」
「だって、宮下がストーカーだとしたら、なぜそんなことするんだ? 仮に中山くんのことを調べているからだとしたら、僕にも被害があって当然だよね? それに、そもそも調査依頼をしたのは宮下さんだよね?」
追い詰められているからか、結論を急ぐ坂井をなだめてみる。だが、坂井は長島の話を聞くどころか、さらに表情を硬くするだけだった。
「私も最初はそう思いました。中山先輩のことを調査依頼したのは宮下先輩だし、調べているといっても長島先輩と一緒だから私だけ狙われるのは変だって。でも、こう考えたら納得いくんです。私は今年の文化祭で中山先輩と一緒に活動していたときがあったから、そのせいで狙われたとしたら今の状況にも説明がつくんです」
坂井の悲痛な訴えに、さすがの長島も言い返すことができなかった。坂井の言うとおり宮下が過剰に中山に対して想いを抱いているとしたら、宮下が坂井に対してなんらかの攻撃をしてきてもおかしくはなかった。
だが、それが本当だとしたら、坂井の上履きに入れられたメモの内容に違和感があった。自ら調査を依頼しておきながら調査をやめろというのは変だし、なにより、文化祭の準備を通じて坂井に敵対心を抱いているとするならば、なぜこのタイミングで攻撃してきたのかもよくわからなかった。
――なにかマズイことがあったのかな?
いくつか理由を考えてみたが、今の長島には思いつくことはできなかった。ただ、タイミングだけを考えたら、おそらくは昨夜の坂井のライブ配信をみて今回の行為におよんだ可能性はあった。
「長島先輩、このまま調査を続けて大丈夫なんでしょうか?」
「それは、どういう意味?」
「私の直感なんですけど、私たち、なにかマズイことにふれた可能性ありませんか?」
坂井の問いに、長島は冷たい風に包まれたかのように体温が一気に下がるのを感じた。最初は単なる調査だと思っていたが、気づくと得体の知れない連中の存在を知り、そのことがマズイことだとすれば、今の状況は長島が想像する以上によくない可能性があった。
「わかった、確かにこのまま調査をつづけたらまずいかもしれない。だから、坂井さんは一度調査からはずれてくれる?」
「わかりました。でも、長島先輩はどうするんですか?」
「僕は、今のところ被害がないからもう少しだけ調査してみるよ。そうだな、宮下さんのことをちょっと詳しく聞いてみる。それで本当にやばそうだったら、すぐに手を引こうと思う」
長島は、努めて笑いながら答えた。
だが、その胸中は得体の知れないなにかの存在を感じているせいで穏やかではいられなくなっていた。
「どうした? 顔色があまりよくないけど?」
手始めにそう切り出すと、坂井は迷いながらも抱えている問題を話始めた。
まず、ストーカーの件についてはまだ続いているようで、直接的な被害はなかったものの、今朝ついに被害が発生したという。
「これが、上履きに入れられてました」
坂井が差し出したのは、一掴みの画びょうと一枚のノートの切れはしだった。切れはしには、『これいじょうなかやまくんにはかかわるな』と、赤いペンで殴り書きされていた。
「私、発見したときびっくりしたんですけど、それと同時に誰かの視線を感じてそっちに目を向けたんです。そしたら、そこには宮下先輩がいたんです」
かすかにふるえた声で、坂井が当時の状況を口にする。ありえない名前に驚きつつも詳しく話を聞くと、どうやら坂井には心当たりがあるという。
「昨日の夜、ライブ配信してたんです。そのとき、中山先輩のことをみんなに聞いたんですけど、そこで宮下先輩のことが話題になったんです」
怯えた表情のまま語った坂井の内容に、長島は息が詰まりそうになった。確かに宮下のことは、一年生の頃に聞いたことがあった。当時、宮下とは同じクラスではなかったため詳しくは宮下のことは知らなかったが、それでも学年のみならず学校全体が噂話で盛り上がっていたのは間違いなかった。
だが、その噂も時間が経つにつれ自然と消滅していった。その後は、宮下のことは今回相談されるまで接点がなかったうえに、新たな噂話も聞かなかったため宮下がどんな人物かを長島は把握できていなかった。
「長島先輩、中山先輩の家に調査に行ったときのこと覚えてますか? あのとき、宮下先輩が話しかけてきたのは偶然だと思いますか?」
疑問形で聞いてきたものの、坂井はなにかしらの確信を抱いているように見える。あの日、宮下が話しかけてきたのが偶然でないとしたら、宮下は坂井と長島のことをどこかで監視していたことになる。
「ひょっとしたら、私をストーカーしているのは宮下先輩じゃないかって思うんです」
「いや、ちょっと待って。気持ちはわかるけど、結論を急ぎすぎじゃないのか?」
「そうでしょうか?」
「だって、宮下がストーカーだとしたら、なぜそんなことするんだ? 仮に中山くんのことを調べているからだとしたら、僕にも被害があって当然だよね? それに、そもそも調査依頼をしたのは宮下さんだよね?」
追い詰められているからか、結論を急ぐ坂井をなだめてみる。だが、坂井は長島の話を聞くどころか、さらに表情を硬くするだけだった。
「私も最初はそう思いました。中山先輩のことを調査依頼したのは宮下先輩だし、調べているといっても長島先輩と一緒だから私だけ狙われるのは変だって。でも、こう考えたら納得いくんです。私は今年の文化祭で中山先輩と一緒に活動していたときがあったから、そのせいで狙われたとしたら今の状況にも説明がつくんです」
坂井の悲痛な訴えに、さすがの長島も言い返すことができなかった。坂井の言うとおり宮下が過剰に中山に対して想いを抱いているとしたら、宮下が坂井に対してなんらかの攻撃をしてきてもおかしくはなかった。
だが、それが本当だとしたら、坂井の上履きに入れられたメモの内容に違和感があった。自ら調査を依頼しておきながら調査をやめろというのは変だし、なにより、文化祭の準備を通じて坂井に敵対心を抱いているとするならば、なぜこのタイミングで攻撃してきたのかもよくわからなかった。
――なにかマズイことがあったのかな?
いくつか理由を考えてみたが、今の長島には思いつくことはできなかった。ただ、タイミングだけを考えたら、おそらくは昨夜の坂井のライブ配信をみて今回の行為におよんだ可能性はあった。
「長島先輩、このまま調査を続けて大丈夫なんでしょうか?」
「それは、どういう意味?」
「私の直感なんですけど、私たち、なにかマズイことにふれた可能性ありませんか?」
坂井の問いに、長島は冷たい風に包まれたかのように体温が一気に下がるのを感じた。最初は単なる調査だと思っていたが、気づくと得体の知れない連中の存在を知り、そのことがマズイことだとすれば、今の状況は長島が想像する以上によくない可能性があった。
「わかった、確かにこのまま調査をつづけたらまずいかもしれない。だから、坂井さんは一度調査からはずれてくれる?」
「わかりました。でも、長島先輩はどうするんですか?」
「僕は、今のところ被害がないからもう少しだけ調査してみるよ。そうだな、宮下さんのことをちょっと詳しく聞いてみる。それで本当にやばそうだったら、すぐに手を引こうと思う」
長島は、努めて笑いながら答えた。
だが、その胸中は得体の知れないなにかの存在を感じているせいで穏やかではいられなくなっていた。


