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 薔薇姫様から預かった手紙を手に、私は東宮妃・凛星様が住まう『木蓮宮(もくれんきゅう)』へと足を踏み入れた。

「……だから、お前は足が短いって言ってるんだ!」

「なんですって!? この、おねしょ太子のくせに!」

 ……到着早々、庭園から聞こえてきたのは、およそ王族とは思えない語彙の応酬だった。

 見れば、豪華な刺繍の衣を翻し、十二歳の凛星様と十歳の東宮様が、お互いに顔を真っ赤にして睨み合っている。

(あー……これが噂の喧嘩友達。というか、ほぼ姉弟喧嘩だよね、これ)

 凛星様は隣国の第三公主で、いわば人質。
 東宮様は、実権を握る皇后の愛息子ということになっている。

「あの、失礼いたします。月宵宮の薔薇姫様より、凛星様にお手紙を預かって参りました」

 私が深々と頭を下げて声をかけると、二人の視線が同時にこちらを射抜いた。

「月宵宮? 薔薇おばさんの使い?」

 東宮様がかなり失礼なことを言う。
 薔薇姫様は御年二十六歳だから、十歳から見ればおばさん……いや、その言葉を本人の前で言ったら命が危ないぞ、少年。

「こら、失礼ですよ。……お前、見ない顔ね。新入り?」

 凛星様が疑わしげに私を上から下まで眺める。
 十二歳とはいえ、そこは一国の公主。
 プライドの高さが全身から溢れ出ている。

「はい。最近、月宵宮に引き抜かれました、櫻花と申します。凛星様、こちらをお受け取りください。……あと、これもお近づきの印に」

 私は手紙と一緒に、こっそり持ち込んだ小さな包みを差し出した。
 中身は、昨夜焼いた蜂蜜入り焼き菓子の残りだ。

「何これ。毒味はしたの?」

「もちろんです。甘いものは、イライラを鎮める効果があるんですよ」

 半信半疑で焼き菓子を口にした凛星様の目が、ぱあっと輝いた。
 それを見た東宮様が「僕も!」と割り込んでくる。

「……悪くないわ。薔薇姫も、たまには気の利いた下女を寄越すじゃない」

「光栄です」

 子供の扱いは、前世で親戚のガキ……失礼、お子様たちを相手にしていたので慣れっこだ。
 だが、微笑む私の背中を、嫌な汗が伝う。

 日の光の元でよくよく見ると、私が託された手紙の封が、あからさまに二重になっているのがわかる。