月宵宮に移ってからというもの、私の仕事は劇的に増えた。
下女としての雑用はもちろん、主である薔薇姫様から「読み書きと計算ができるなら」と、宮の裏帳簿の整理まで押し付けられている。
「……あー、もう! 数字が合わない! この『交際費』って名目の賄賂、もっと綺麗に隠せなかったわけ?」
深夜過ぎ、共有スペースの小さな台所で、私は一人、粉を練っていた。
あまりのストレスに、前世の記憶を頼りに癒やしを求めた結果である。
「お、櫻花。また何か作ってんの?」
ひょっこり顔を出したのは、護衛の琥珀だ。
中性的でふわふわした見た目とは裏腹に、その腰には鋭い剣が帯びられている。
「琥珀さん。これ、お裾分けです。薬草園で採れた蜂蜜と、少しの油脂を練り込んだ焼き菓子的な何か」
「わ、美味しい! 櫻花って、たまに後宮の人間とは思えない発想するよね」
「ただの食い意地ですよ。あ、地味めな方の護衛さん(源内さん)の分もどうぞ~」
私は焼き上がった菓子を琥珀に押し付ける。
この宮の人々は、主を含めてどこか浮世離れしているが、意外と胃袋を掴むのは簡単そうだった。
下女としての雑用はもちろん、主である薔薇姫様から「読み書きと計算ができるなら」と、宮の裏帳簿の整理まで押し付けられている。
「……あー、もう! 数字が合わない! この『交際費』って名目の賄賂、もっと綺麗に隠せなかったわけ?」
深夜過ぎ、共有スペースの小さな台所で、私は一人、粉を練っていた。
あまりのストレスに、前世の記憶を頼りに癒やしを求めた結果である。
「お、櫻花。また何か作ってんの?」
ひょっこり顔を出したのは、護衛の琥珀だ。
中性的でふわふわした見た目とは裏腹に、その腰には鋭い剣が帯びられている。
「琥珀さん。これ、お裾分けです。薬草園で採れた蜂蜜と、少しの油脂を練り込んだ焼き菓子的な何か」
「わ、美味しい! 櫻花って、たまに後宮の人間とは思えない発想するよね」
「ただの食い意地ですよ。あ、地味めな方の護衛さん(源内さん)の分もどうぞ~」
私は焼き上がった菓子を琥珀に押し付ける。
この宮の人々は、主を含めてどこか浮世離れしているが、意外と胃袋を掴むのは簡単そうだった。

