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 あの大勝負から数ヶ月。
 琴国の後宮は、劇的な変貌を遂げていた。

 形式的な側室制度は廃止され、広大な宮殿は今や、東宮を支えるための行政機関へと作り替えられつつある。
 働かされていた女官たちは、適性に応じて事務官や教育係として再雇用され、私の持ち場だった薬草園は、国家規模の製薬研究所へとアップグレードされた。

「櫻花! この予算案、チェックしておいて! 凛星がまた豪華な温室を作りたいってワガママ言うんだ!」

「なんですって、おねしょ太子! あれは将来の輸出用薬草を育てるための投資よ!」

 十歳になった東宮様と、十二歳の凛星様。
 二人は今、喧嘩友達を卒業し、良き政のパートナーとして日々机を並べている。

 皇后の呪縛から解き放たれた東宮様の背中は、どこか亡き『賢帝』の面影を感じさせるほどに凛々しくなっていた。

「はいはい、お二人とも。数字は嘘を吐きませんから、後でじっくり精査しますよ」

 私は、山積みの帳簿を前に、筆を走らせる。

 洗濯場の下女から、後宮の貴妃付き侍女を経て、国家の家計簿を握る総務部長的ポジションへのジョブチェンジ。
 ……まあ、忙しさは変わらないけれど、やりがいは段違いだ。


「……相変わらず、私の所有物は働き者だな」

 背後から、低く艶やかな声。
 振り返ると、そこには豪華な公服を纏った莉鷹様が立っていた。
 
 女装を解いた彼は、もはや『薔薇姫』ではない。

 賢帝の二女の長男にして、朝廷の全権を掌握する第一貴公子である莉鷹様。

 彼が女装して後宮に潜んでいたのは、逃亡した従姉妹である『本物の薔薇姫』の身代わりを引き受けつつ、内部から腐敗を掃除するためだった。

「莉鷹様。本物の薔薇姫様から、また手紙が届いていましたよ。西の国で、あの護衛の彼と牧場を経営して楽しくやっているそうです」

「アレのことだ、男一人と駆け落ちして幸せに暮らしているのだろう。おかげで私は、こうしてお前という掘り出し物を見つけることができたがな」

 莉鷹様は、私の手から筆を奪い取ると、当然のように私を抱き上げた。

 ……おーい、ここ職場ですよ?
 琥珀さんも源内さんも見てますよ?

「莉鷹様、公務に戻ってください。私はまだ、この『後宮解体費用』の計算が終わってないんです」