完璧美貌な女装公子は、夜だけ猛獣へと豹変する~顔面凶器な女装公子の秘密を握ったら、知恵も身も心もまるごとお買い上げされました~


 嫌な予感というものは、だいたい当たる。

 数日後、私は溜まりに溜まった、特別汚れのひどい布類を片付けるため、深夜の洗濯場にいた。

「……はぁ、こんなのサービス残業じゃん」

 月明かりの下、しんと静まり返った後宮。
 パシャ、パシャと水を叩く音だけが響く中、ふと、渡り廊下の影で動くものがあった。

(……私、霊感とかないけど、怖いやつだったら見たくない)

 反射的に洗濯桶の影に身を隠す。
 そこには、二人の人影があった。

 一人は、帯の色から皇太后に仕えるベテランの女官であることが判る。
 そしてもう一人は——。

「っ!?」

 息を呑んだ。

 月光に照らされたその横顔は、先日薬草園の影で感じた気配よりもずっと鮮烈で、毒々しいほどに美しかった。

 深紅の衣を纏った美女。
 賢帝の弟君の息女にして、この後宮で異彩を放つ貴妃、薔薇姫。
 だが、衝撃はそこでは終わらない。

 薔薇姫は、年上の女官の顎を優しく持ち上げると、そのまま深い、深い接吻を交わしたのだ。

(……え、百合!? いや、それよりこれ、秘密の情事!?)

 女官はうっとりと目を閉じ、薔薇姫に何かを耳打ちしている。

 私は気配を殺し、心臓の音を抑えた。
 現代っ子の処世術——面倒事には首を突っ込むな。    

 だが、女官がふらふらと立ち去った直後。
 それまで慈愛に満ちた聖母のようだった薔薇姫の表情が、一瞬で凍てつくような無機質なものへと変貌した。

「……出てきなさい、そこな鼠」

 その声は、女にしては低く、けれど背筋をなぞるような色気があった。

 逃げられない。