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 私が一歩前に出ると、皇后の冷ややかな視線が突き刺さった。

「……勝手に陛下の御前で口を開くとは。教育がなっていないわね、薔薇姫」

「申し訳ございません。ですがこの茶器、本当に素晴らしいのです。櫻花、皆様にお見せしなさい」

 薔薇姫様が、わざとらしく弾んだ声で私を促す。
 その瞳の奥には「やれ」という冷徹な命令が宿っていた。

 私は深く一礼し、用意していた道具を広げた。

 使うのは、隣国から献上されたものの、使い道が分からず放置されていた『濾過機能付きの茶器』だ。
 それに加えて、私がこっそり薬草園から調達してきた乾燥ハーブ、そして氷。

「これは『琥珀の涙』と呼ぶ、隣国の最先端の淹れ方でございます」

 私は慣れた手つきで茶葉をセットし、そこへ冷たい水を注ぎ、氷を浮かべた。
 現代でいうところの水出し茶(コールドブリュー)である。

「お湯を使わない……? そんなの、茶ではないわ」

「高貴な香りは熱に弱く、冷たい水で時間をかけて引き出すことで、雑味のない、王族にふさわしい至高の雫へと変わるのです」

 私はさらに、薬草園のミントと、朝薔薇を酒精につけた特製シロップをひと垂らしした。

 グラスの中で、淡い琥珀色の液体がキラキラと輝く。
 皇后が不審げにそのグラスを眺めていると、横から小さな手が伸びた。

「……面白いわ。私、飲んでみる」

 凛星様だ。彼女は私の意図を察したのか、わざと大仰にそのグラスを煽った。
 次の瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。

「……っ! 喉の奥に、隣国の風が吹いたみたい!」

 十二歳の少女が放った、あまりに純粋で鮮烈な感想。
 これには、毒を吐こうとしていた皇后も、言葉を失うしかなかった。

「……ほう。凛星、それほどか?」

「はい! 皇后陛下、このお茶は、ただ美味しいだけではありません。私の国では、これを共に飲むことは『永遠の友情と、秘密の共有』を意味するのです」

 凛星様が、私にいたずらっぽく片目を瞑る。

 ……ナイスアシスト!

 彼女は、周囲に圧を撒き散らす皇后を宥めようとする、私の意図に、全力で乗ってくれたのだ。