「ふん。相変わらず、男好きのする顔ね。……そういえば、隣国から来た小さなお姫様は、こちらの風習には慣れたのかしら? まだおねしょが直らない東宮の相手は大変でしょう」
皇后の矛先が、隣の凛星様に向いた。
凛星様が屈辱に顔を真っ赤にして、唇を噛み締める。
その時だった。
「皇后陛下、それよりも見てくださいませ。あちらの蝶々、なんと美しいこと!」
薔薇姫様が、突然、場違いなほど明るい声を上げて立ち上がった。
わざとらしくバランスを崩し、私の持っていたお茶の盆にぶつかりそうになる。
「きゃっ! ……ごめんなさい、櫻花。私ったら」
わざとだ。
完璧に計算されたドジっ子アピール。
そのあまりの、頭の悪そうな美女の演技に、皇后は毒気を抜かれたように呆れ顔になった。
「……相変わらず、中身のない娘だこと。座りなさい、目障りよ」
皇后の関心が、凛星様から逸れた。
薔薇姫様は「はい、すみません……」としょんぼりしながら席に戻る。
その一瞬。
扇の陰で、莉鷹様の視線が私と交錯した。
——そこにいたのは、か弱い美女ではなかった。
盤面を完全に掌握し、次の手を指し示す、冷酷な策士の瞳だった。
(……合図だ)
私は震えそうになる手を抑え、一歩前へ出た。
「恐れながら、皇后陛下。薔薇姫様の名誉のために申し上げます。姫様は、こちらの新しい茶器の扱いに、少々戸惑われただけかと。……これは隣国で流行りの、少し特殊な淹れ方をする茶器でして」
私は、前世のカフェバイトの知識を総動員して、ハッタリをかました。
ここからは、私のターンだ。

